第1713話 形容し難い、不気味な気配
「おいお前、
ゲンロクやソフィ達の会話が一段落した後、案内の為に再び先頭で歩き始めた百鬼に向けて、ヌーが声を掛けるのだった。
「ん? こんな風にとはどういう事だろうか?」
あまりに抽象的すぎるヌーの言葉に、百鬼はこの『妖魔山』の景色の様相や、各地に蔓延っている妖魔の事を指しているのかが分からず、少しだけ首を傾げながらヌーに訊ね返すのだった。
「あらゆるところに張られている大小ある『結界』の事だ。こんな滅茶苦茶な場所は、これまで別世界でも俺は見た事はねぇよ。つまんねぇ魔力から用いられてやがる『結界』だけならば、いくら散りばめられていようがどうだっていいがよ、明らかに俺が張るような『結界』規模、いや、下手をすりゃそれ以上の『結界』も複数張られていやがるし、この『結界』を張った連中は、その『結界』を使い捨て程度にしか思ってないように感じられる。それこそいつでもどんな場所からでも同じ規模の『結界』を張れると自負していやがるようなだ……。こんな規模の『結界』が山の至るところに散りばめられていやがるのは異常すぎん……ぞっ――!?」
百鬼に話しかけたヌーは、この妖魔山に施されている『結界』の数と質の規模が異常だと考えて、いつもこうなのかと訊ねたつもりだったが、百鬼に対して口を開く前と、改めてこの妖魔山の『魔』に神経を尖らせて感知したことで、更に想像を絶するような『ナニカ』まで感知してしまい、ヌーは会話の最後の方には脂汗を額から流し始めるのだった。
「ヌーよ、落ち着け。無意識ではあろうが、お主からエイジ殿達の張った『結界』を無駄にするような規模の殺気が漏れ始めているぞ」
「ちっ!
ヌーはテアを一瞥すると、このままテアを危険な場所に置いたままでこの山に居るべきか、真剣に考え始めるのだった。
「はっ! おいおいお前、妖魔と戦う前からこの山にビビっちまったのかよ! 案外情けねぇ野郎だな?」
テアの安否を気にしてこの山から離れるか、真剣に悩み始めたヌーの横顔を見たイツキは、これ幸いと煽り散らかし始めるのだった。
「言ってろよ。
「何だとてめぇ!」
再びクソ雑魚呼ばわりされてイツキが怒号を上げたが、そちらには完全に無視をし始めたヌーは、百鬼の方を向いた後に、先へ進めと促すように顎でしゃくるのだった。
「い、いいのか? ま、まぁお前さんがいいのなら……」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさといきやがれやっ!」
「いや……、ああもう、分かったよ!」
どうやらヌーは見た目以上に余裕がなくなっているようで、つい声を荒げてそう告げてしまうのだった。
「……」
「――」(お前、大丈夫かよ?)
テアはヌーを見て心配そうにそう声を掛けるが、ヌーは前を向いたままテアを無視して歩き始めるのだった。
「――」(ヌー……)
そのままテアは儚げにそう呟くと、ゆっくりとヌーに寄り添うように後をついていくのだった。そしてその様子を観察するようにシゲンやミスズ、それにソフィやエイジ達も大魔王ヌーの背中を視線で追いかけ始める。
百鬼はアンタから話しかけてきたんじゃないかと、ついつい責めたくなるような言葉が口から出かけたが、何とか言葉にはせずに胸中で呟き、走ってヌーの前まで出るのだった。
「ソフィ殿、俺達はヌー殿がこの山で何を察知したのか分からないのだが、そこまで危険な何かが居るという事なのだろうか?」
ヌーの背中を見ていたシゲンは、最後尾から少し前に居るソフィに小声で話し掛ける。
「うむ。実はコウヒョウの町に居る時から我は、ヌーが気付いたその何者かが居る事は察してはいたが、少し形容がしづらいものでな……。どうやら生き物ではあるようなのだが、そやつからは悪意や善意というものがなく、まるでそやつは『魔神』という存在が顕現した時の様相と似ているのだ」
「ま、魔神ですか……?」
そしてこっそりとシゲンとソフィとの会話に耳を傾けていたミスズもまた、難しそうな表情をしながらソフィ達の会話に参加してくるのだった。
「うむ。魔神といった者達の事を詳しく知らぬ者達には説明をしづらいのだが、いわばそこにただ存在し、そしてあっさりとこの世界から悟られずに消え去るような存在感の稀薄さを感じさせられる存在が、この山に居るようなのだ。それも『結界』のせいなのか、ヌーの言うようにそやつの気配がぐちゃぐちゃにかき乱されていて、厳密に言うと我もそやつが何処に居るのか分からぬのだ。そこに居て、そこには居ないが確かに存在している。そして何処から急に現れてもおかしくはない。そんなような存在が間違いなくこちらを見ている」
「な、成程……!」
「どうやら俺達が思っている以上に、この妖魔山は一筋縄ではいかぬようだ」
ソフィの話し方から想像以上に危険な存在がこの山に居るのだと、改めて理解するに至った様子のミスズとシゲンであった。
(このようにソフィ殿から歯切れの悪い言葉をきくのは、今回が初めてです。どうやらソフィ殿もヌー殿もその存在に対してよくは分かっていないという事なのでしょう。高ランクの妖魔という、目に見える脅威は想像していましたが、まさかそれ以上の不気味さをまだ見ぬ存在から感じさせられるとは思ってもみませんでした……)
胸中でミスズはそう呟くと、腰に差している刀の得を強く握りしめて気を引き締め直すのだった。
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