第1707話 タイミングの重要性

「お前たち人間は物事を単純に考えすぎていて、定められた事に対しては愚直に守ろうとする。確かに過去に上手く行った事に対して、それをなぞらえようと考える事は間違いではないが、あまりに独自で熟考をしなさすぎではないかね?」


「お主が何を言いたいのかよく分からぬが、先人たちが我らを導くように道を開示してくれてきたからこそ、今のワシが、いやワシら『妖魔召士』と呼ばれるこの世界の『魔』を携わる者達が存在出来ておるのだ。その教えがあるからこそ、ワシらはお前達『妖魔』と戦う事が出来て、そして……――」


「ああ、もうその辺でいいぞ。俺は別にお前と『妖魔召士』とやらについて語り合うつもりはないからな」


 自分達で物事を考えなさすぎるというような事を言われたコウエンが、それに対する反論を述べようと言葉を並べ立てたが、言い切る前に他でもない王琳に止められてしまうのだった。


「俺が言いたかったことは一つだ人間。そこまで『魔力』を高める手立てがあるのならば、相手の『魔』に対抗する術を攻撃力だけに向けるのではなく、相手の『魔』で守る要を取り除く事に意識を向けろと言いたかっただけだ」


 その王琳の言葉は、ゲンロクの代までの『守旧派』の思想と正反対の内容の言葉であった。


 ――いや、正しくは『サイヨウ』を除いたと頭につけた方が正しい。


「……」


 かつてコウエン達がこの『禁止区域』から逃げるようにして山を下りた後、直ぐに組織の長であったシギンが姿を消してしまったかと思えば、サイヨウがその時を境に単独行動が目立ってしまい、組織は著しく統率性を失った。


 その機能の低下した『妖魔召士』組織を支える為にコウエンや、他の四天王。それにサクジや当時の幹部達が尽力した甲斐もあって、組織は何とか最低限の機能が保つ事が出来たのだが、その頃に勝手を働いていたサイヨウが組織に戻って来たかと思えば、開口一番に彼はとんでもない事を口にしたのである。


 ――それこそが今の王琳が口にしたような言葉であり、これまで代々受け継がれてきた妖魔召士の常識を捨てて、新たな風を組織に取り入れようというものであった。


 厳密には『魔』の技法である『捉術』をこれまでのモノから一新させようというものであり、これまでの『魔力』に伴う殺傷能力に重きを置くのではなく、戦う相手に合わせて能力を著しく下げるような、所謂『マイナス効果』に目を向けようというモノであった。


 そしてその時、具体的な内容の説明がサイヨウから行われたのだが、それは『天狗』の妖魔が用いる『呪詛』や『』と呼ばれる技法の数々を『捉術』に取り入れようというモノであった。


 ――当然、このサイヨウの提案に対して『妖魔召士』組織は頑なに否定を行った。


(あのサイヨウがこの王琳と同様に威力に目を向けるのではなく、一度妖魔召士が掲げる『魔』の常識を捨てて、妖魔に対する『捉術』の優先事項の見直しを行うべきだと口にした時、当時の幹部達を含めた多くの妖魔召士は四天王の中でもトップの実力者を誇り、組織でシギンの次に影響力を持っていた筈のサイヨウの言葉だというのに誰も耳を傾けなかった。いや、厳密には『禁止区域』でこの妖狐にトラウマを植え付けられて正常な判断を失っていたゲンロクと、盲目的にサイヨウに従っていたエイジ。そして当時から何を考えているか分からなかったイダラマだけは熱心に耳を傾けていたか。それ以外のワシを含めた残りの四天王に幹部達は、誰一人としてサイヨウの言葉を無視した。シギン様が居なくなり、妖魔山の『禁止区域』で現実を思い知らされた我々妖魔召士の組織が大変な時に姿を消していたサイヨウが、ようやく組織が機能しだした時に戻って来て、いきなりの変革を促す言葉、そして敵である筈の妖魔の力を取り入れようと口にしたのだから、こればかりはサイヨウの話をするタイミングが悪かったといわざるを得なかったであろう)


 いくらサイヨウの言葉が正論で、組織とこの世界の事を想っての発言だったのだとしても、協調性を欠く行動を行った後に戻ってきた最初の発言としては、時期を省みても最悪のタイミングだった。


 ――やがてあれだけ妖魔召士という組織で権威を示していたサイヨウは、その日から影響力と発言力を失い、少しずつ組織から爪弾きにされていき、やがては完全にこの世界から姿を消してしまった。


(あのサイヨウの発言が『禁止区域』に向かう前であれば、いや、シギン様が居なくなる前であったのであれば、守旧派のワシらは難色を示しながらもサイヨウが言うのであればと、納得を行っていたかもしれない。そして今こうして再び相まみえた妖狐との戦闘も違った形になっていたかもしれぬな……)


 王琳の言葉からあの時のサイヨウの言葉を思い出し、結果的にあの時のサイヨウの言葉が正しかったのかもしれないと思い知るコウエンであった。

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