第1676話 大魔王の死を厭わぬ、特別攻撃

 妖魔山の空の上で『妖魔神』である神斗と戦っていたエヴィだが、自らの『呪法』を用いた策で神斗の耐魔力を失わせようと行動を起こした結果、その全てを上手く防がれてしまう。


 更に用意しておいた二体の人形を起爆させる事で、更に『透過』を用いてこの場から離脱を図ろうとしたエヴィだったが、それすらも神斗に読まれて八方塞がりとなるのだった。


 大魔王エヴィはこの人形の攻撃を行うに際し、神斗という妖魔が自身を守る事を優先せずにエヴィをこの場から逃す事を阻止して見せた事で、明らかに今の自分の力量では、この神斗という存在に対して正攻法で勝てる相手ではないと悟った。


 エヴィは戦力値や魔力値がどれだけ自分より高い難敵であろうと、呪法や特異を含めた『魔』を用いて本気で戦えば、勝機などはいくらでも作り出す事が可能だと考えていた。


 それを証拠に『アレルバレル』の世界においてもエヴィは、過去に『呪法』に『特異』、そしてこの『透過』を駆使した戦い方で本気を出せば、その『アレルバレル』の『魔界』に君臨する大魔王達であっても、ほとんどが戦いにならない程であった。


 このような目の前に居る『神斗』程に『魔力』を有しながら、当たれば即死となるような殺傷能力の攻撃手段を有して、更にはエヴィの『透過』を制御出来る程の洗練された『透過』技法を持って、同時に並行して処理を行える程の『魔力』の卓越したコントロール技法を行ってみせる『魔神級』と呼べるような存在など、彼の戦闘遍歴を見渡しても大魔王ソフィを除いて他に居なかったのである。


 ――これ程までに勝ち目がないと判断した事は、改めて考えてみても、彼の生涯では『大魔王ソフィ』を除いて他に居なかった。


 大魔王ディアトロス以上の『魔力』を有し、大魔王ヌー以上の『戦略性』を持ち、大魔王ブラスト以上の卓越した『魔力コントロール』を見せて、大魔王フルーフ以上の研究が進んでいる『透過』技法を持っていると、名を挙げた全大魔王と直接手を合わせた事のある大魔王エヴィは、この『神斗』を相手にそう結論を下した。


 だからこそ大魔王エヴィは、この存在を全力を以て消滅させなければならない――。


 ――何故なら、この『神斗』という存在が居る『ノックス』という世界に、もしかすると大魔王ソフィという、彼が崇拝する『神』が居る可能性があるからだ。


 彼がその可能性があると考えたのはこの『妖魔山』を登ってからであったが、僅かな時間とはいっても主の『魔力』を間違えるなど、常に大魔王ソフィの事を考えている彼にはあり得ない。


 大魔王ソフィが目の前の『妖魔神』に負ける事など考えてはいないが、これ程までの領域にまで『魔』の研鑽と研究を成している相手では、あの憎き『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥が生み出したような小賢しい手段を用いて、彼の崇拝する大魔王ソフィの手を煩わさせる可能性がある。


 ――それだけは絶対に避けねばならない。


 ここに来るまでの大魔王エヴィであれば、ソフィの為にある自分の身体を失う事を何よりも恐れていたが、今この時に至り、その大事な御方の物である自分の身体を失う事よりも、自分の崇拝する至高の存在にとって、障害となり得る可能性のある者を消滅させる事を選ぶのだった。


『九大魔王』にして『天衣無縫てんいむほう』の異名を持つ大魔王。


 大魔王ソフィを主とし、頂点とするアレルバレルの世界に存在する『九大魔王』とは、その世界に生きる『全ての生きとし生ける者』を敵に回してでも主の為に生き、主の為に死ぬ覚悟を持った者達である。


『九大魔王』である大魔王エヴィは、この時この瞬間を以て、大魔王ソフィの障害となり得る『敵』を消滅させる覚悟を持った。


 この攻撃が成功しても失敗しても大魔王『エヴィ』には、その結果を知る事は叶わないだろう――。


 ――それは自らの『死』を代償に、自身の放つ事の出来る最大最凶の『攻撃』を放つのだから。


 エヴィはこの後の『神斗』の『魔力波』に備えて『透過』を解除すると、再び人型の姿に戻り始める。そしてそのまま目を『金色』に輝かせると同時、彼の『特異』を展開するのだった。


 それは大魔王エヴィによる死を厭わぬ、最後の『』という切り札であった――。

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