第1650話 反りが合わない者同士
「驚いたな……。お主、何故イダラマをあのように簡単に通したのだ? お主らから見ればワシら人間は敵であろう?」
イダラマ達がこの場から完全に姿を消した後、すんなりと道を譲った事が信じられないとばかりに、コウエンは目の前の九尾の妖狐に向けてそう口にするのだった。
「敵? ああ、そうか。この山に居る多くの者達はお前達『妖魔召士』に同胞を『式』にされたりしておるから、そういう認識を持っている奴も居るのだろうな。だが、俺は別にお前達に直接何かをされたわけでもない。別に敵とは思ってはいないさ。それに何やら面白い考えを持っていたしな。神斗様達と実際にどういう話をするのか、そちらに興味があったから通したまでだ」
「お主の同胞である『妖狐』の多くは、我々『妖魔召士』に『式』されているというのに、そのような無関心だとは驚きだな。とくに近年は望まぬ契約を強いられて、無理やり『式』にされておる妖魔もいるのはお主も知っておるのだろう?」
「最初に一つだけ言っておくが、俺達は主ら人間や天狗の『
「……」
コウエンは目の前の王琳が告げた言葉の意味を考え始める。
まず、同胞に対する仲間意識というモノは、この『禁止区域』に居る『妖魔』達の中では皆無だという。弱さこそが悪であり、無理やりに人間達に従わされたとしても、それはお前が弱いから悪いという結論なのだろう。
「弱い者が強い者に負けるのは世の摂理か。しかしそれは強き者の勝手な言い分だな。全員が最初から強いわけではないだろう? お主には子は居ないのか? 生まれたばかりの我が子がやられたり、術で無理やり従わされて連れ去られたとして、主はその時にも同じような言葉を口にする事が出来るであろうか?」
コウエンの何処か冷めた視線を受けた王琳は、いっそう笑みを深めてみせた。
「ああ、俺には関係がないな。親であろうが、子であろうが、兄弟であろうが、同胞であろうが、弱いから悪いのだ。実際に俺の娘はつまらぬ鬼人の『
ぴしゃりと言い放つ『
そして今の言葉に出てきた、妖魔が徒党を組んで人里に襲撃を行った事件とは『妖魔団の乱』の事で間違いがなく、鬼人の『
『
つまり先程の王琳の話に偽りなく、王琳は本当に自分の娘がどうなっていようと気にしていないという事なのだろう。
――弱い方が悪い。
彼の言葉を真に理解した時、コウエンは目の前の『妖狐』に対して抱いていた思い以上に、目の前の『妖狐』に嫌悪感を抱くのであった。
「お主達は狂っている。まだ『帝楽智』や『朱火』達の考えている事の方が理解が出来る! 弱い者が悪いというのであれば、ここでワシがお主を完膚無きまでに叩き潰してやろう!」
王琳は目の前の人間が激昂しながら『魔力』を纏わせて戦闘態勢に入ったところを見て、ゆらゆらと尾を動かしながら楽しそうに笑みを浮かべるのだった。
「ふふっ、お主の疑問に答えてやっただけだというのに、何を怒っているのか理解が出来ぬ。だが、戦うというのであれば望むところだ。納得が出来ぬというのであれば、俺を『力』で屈服させてお主が従えればいい。俺が負けたらお前の『式』になってやってもいいぞ?」
「ほざけぇっ!」
コウエンは右手に『魔力』を集約させて『魔力波』を放つ準備を始めた。
――そしてこの瞬間、イダラマより先にコウエンの手によって『禁止区域』で数十年ぶりの戦闘が行われる事となるのであった。
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