第1634話 到着、コウヒョウの町

「ソフィ殿! あそこが『コウヒョウ』の町だ」


「おお、ではこの辺で下りるとしようか」


 町人達に空を飛んでいるところを見られると面倒な事になりそうだと考えたソフィは、そうヒノエに告げて下りる準備を始めるのだった。


 ヒノエに恐怖心を与えないようにソフィは、ヒノエを胸に抱き寄せながら、ゆっくり、ゆっくりと地面に向かって下りて行く。


 そしてソフィ達は遂に『サカダイ』の町から遠く離れた『コウヒョウ』の町に到着するのだった。


 サクジ達が『旅籠町』を利用しながら数日掛けてきたところを、僅か二時間程で移動を済ませた事になる。


「すげぇ……。サカダイから遠く離れたコウヒョウも、空を飛んで行けばこんなにつくのが早いんだなぁ」


 道中で森や湿地帯を迂回する必要もなく、また妖魔達と戦闘になるでもない。単に真っすぐと空を飛んで移動してきた為に、そのあまりの早さにヒノエは、空からの景色で覚えた感動とはまた別の感動を味わう事となった。


「うむ。空ならば森や山がいくら広がっていようと関係がないのでな。それに飛行中に撃ち落としてくるような妨害者の存在もこの世界でないとなれば、これ以上に安全な旅はないであろうな」


 今回はあくまでヒノエに空からの景色を見せてあげるつもりであった為、速度もそこまで出さずに移動してきたが、もし次にソフィ一人でここからサカダイの町に戻る事があれば、更に短い時間での移動も可能となるだろう。


「ははっ! 違いねぇ。さっきはソフィ殿にああ言っちまったが、ここにきて決心が鈍りそうだよ」


「クックック! お主が来たいというのであれば、いつでも歓迎しよう」


 どうやらヒノエは本気ではなかったようで、気持ちだけ受け取っておくという意味を込めたウインクをするのであった。 


『コウヒョウ』の町から少しだけ離れた森の中で下りた為、ソフィ達はそこから少しだけ徒歩で町に向かって歩いていく。


 すると『サカダイ』の『一の門』程ではないが、大きな門がソフィ達の視界に入ってくるのだった。


「ソフィ殿、ここが『コウヒョウ』の町だ。どうする? 一度町の中を見て行くかい?」


「ふむ、そうだな……。次に来る時はあまり自由に見回ることも出来ぬだろうし、そもそも出発は明日なのだ。今日は少しくらいは見て回っても構わぬだろう」


「ははっ、そうだな。よし、それなら空の景色を見せてくれたお礼の代わりに、私が『コウヒョウ』の町案内をしようじゃねぇか!」


「それは助かるな。確かこの町は商売が盛んな町だと前に聞いた覚えがある。我はこの世界の事をまだよく知らぬからな、詳しそうなお主に案内してもらえると助かる」


「任せてくれよ、ソフィ殿! 私は任務で色々と旅をしてきたからな。特に『コウヒョウ』の町に関しては、こんなちっさい頃からよく知ってんだ! 大船に乗ったつもりでいてくれよ!」


 ヒノエは幼少期の頃の背丈を手振りで表しながら伝えると、最後に大きな胸をドンっと叩いてそう言うのだった。


「クックック! それは頼もしい事だ。それではよろしく頼む」


「ああ!」


 …………


 かつてはここ『コウヒョウ』の町も『ケイノト』と同様に妖魔召士組織が管理を行っていた町の一つだった。ここから直ぐの場所に『妖魔山』がある以上、いつ妖魔が山を下りてきて町を襲いに来るか分からなかった為、いつでも守れるようにと『妖魔召士』組織が、この町に拠点を設けた事から始まった管理体制だった。


 しかし実際には『妖魔山』から妖魔が下りてきて『コウヒョウ』の町を襲撃するという事はなく、どちらかといえば『妖魔』の襲撃よりも、商売人の金銭を狙った窃盗や恐喝行為のが目立つ程であり、時代が移り変わるにつれて『妖魔召士』組織の者達は『コウヒョウ』の町にというより、その先にある『妖魔山』の麓に直接拠点を置く事となった。


 そして代わりに護衛として『妖魔退魔師』組織から人員が割かれて、町に派遣されるようになったのである。


 妖魔召士組織が『ゲンロク』の代になる頃には、もう完全に『妖魔召士』組織から独立を果たしている状態となったが、それでも前時代の名残は至るところに残っており、今でも土地や蔵屋敷等の管理を『妖魔召士』が行っているところもある。


 しかし今では町の出入りには寛大で『御尋おたずね者』というわけでもなければ、基本的には誰でも出入り自由ではある。


 ……

 ……

 ……

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