第1625話 コウエン達の足取り
部屋の扉を叩いて中に入って来たのは『妖魔退魔師』組織の副総長『ミスズ』であった。
元々この部屋にソフィ達を呼びに来る事が多かったのはこの『ミスズ』だが、現在ソフィ達が総長シゲンの直々の客分となった事で、組織がソフィ達に用を持つときは彼女や最高幹部の者達がこの部屋に訪れる事が増えたのだった。
「何やら揉めていたご様子でしたが、もう大丈夫なのでしょうか?」
どうやら廊下にもヌー達の声は轟いていたらしい。あれ程の大声なのだからそれも当然であるといえた。
「うむ、全く構わぬよ。騒がしくしてすまぬな」
ヌー達に代わってソフィが謝罪を行うのだった。
「いえ、お気になさらないで下さい。何事もないようで良かったです」
全員の表情を確認したミスズは、何もトラブルなどの問題もないと判断して本題に入る。
「お待たせしてしまってすみません。ようやく『守旧派』の旗頭だった『コウエン』殿の足取りを掴み、どうやらその居場所から省みて、こちらに襲撃を行った『サクジ』殿達とは何ら関係性がないと判断した為、そのご報告をと思いまして」
「ふむ、やはり我が最初に戦った『妖魔召士』が、コウエンとかいう者ではなかったようだな」
シゲンやエイジ達から聞いた話では、その『コウエン』という男は相当に『魔力』を有する強者の類であり、前時代でも一目置かれていた『最上位妖魔召士』という事であった為、ミスズから聞かされる前から別人だろうと感じていたようであった。
「ええ、しかし襲撃が行われる数日前には行動を共にしていたという報告もあり、その場所がコウヒョウや、そのコウヒョウの町から近くの旅籠町だった為、あの『妖魔召士』の集団は本来、こちらを襲撃をするつもりはなかったのかもしれません。個人的な私の予想を述べさせて頂くならば、何か別の計画が彼らにあって、そこでこちらが『牢』で捕えていた『退魔組』の者達から『同志』の救出を願う旨を伝えられて彼らは動いたではないかと」
ミスズは慎重した新しい伊達メガネをくいっと上げながら、独自の見解を述べるのだった。
(成程、そのコウヒョウという町がどれだけ離れているかまでは存ぜぬが、そこまでの足跡を正確に追えた上で、ミスズ殿がこれだけ自信満々に見解を述べたという事は、ある程度彼女の中で確信を得て発言しているという事であろうな)
ソフィが考えた通り、報告を行った者などの細かな違いはあれど、あの時に行った出来事の大半はミスズの言う通りであった。
もちろんこの事は捕えた者達からの自供などもあり、予想を手助けするあらゆる要因が散りばめられてはいたのだが、それを事細かに辻褄を上手く繋ぎ合わせられた事からも、このミスズが如何に有能であるかをソフィは改めて感じ取るのだった。
「つまりエイジが言っていた厄介な前時代に居た『守旧派』の『妖魔召士』とかいう奴らは、もうここに襲撃にこないとみていいという事だな?」
それまでミスズの話を静かに聞いていたヌーが、横から口を挟むのだった。どうやらさっさと『妖魔山』に向かいたい彼は、さっさと結論を耳にしたい様子であった。
「その可能性は非常に高いと思われます。そしてここからが重要な事なのですが、どうやら報告によるとコウヒョウの町に居た『コウエン』殿は、あの『イダラマ』殿と行動を共にしており、コウヒョウに現れた『妖魔』から町を救った後に『妖魔山』の方へ向かったようなのです」
「なるほどな、元々そのコウエンって奴は、エヴィの野郎を連れ立っているイダラマとかいう奴と合流して『妖魔山』に向かう予定だったという事か。そこにお前が予想した通り、ゴミクズ共が『牢』に居る連中を解放して欲しいと奴らの元に頼み込んできた事で、仕方なく山に向かおうと考えていたクソ雑魚共が、分散してここを襲ってきたってわけか」
「は、はい。大方、その通りかと」
(け、決してサクジ殿達も弱くはないのですがね。その証拠に我々の組の幹部達や、私の弟子と呼べる『カヤ』や『ナギリ』達もやられてしまいましたし……)
言葉の端々に『クソ雑魚』とか『ゴミクズ』とかいう単語が出てきた事を気にしたミスズはそう考えて、苦笑いを浮かべていたが、大体は自分の思っている通りなために、彼女は素直にヌーに頷きを見せるのだった。
「では、襲撃の可能性が低いと分かったところで、我らは当初の予定通りに『妖魔山』へ向かおうというのであろうか?」
「はい。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。サカダイの町の護衛を本来の警備に戻した上で、今度は各組の最高幹部を除いた副組長以下の者達を本部に残して、万全を喫した上で我々と『エイジ』殿達と合流の後、ソフィ殿達も我々と『妖魔山』にご同行をお願いしたいと思っております」
「うむ! 我達はいつでも構わぬよ。そこでセルバス、お主は『代替身体』ではなくなったようだが、どうする?」
「そうっすね……。本当なら力も戻った事だし、俺も一緒に連れて行ってもらいたいところなんですが、やっぱり大人しくここに残らせてもらってもいいすか?」
ちらりと傍に寄り添うように立っているシグレを一瞥しながら『セルバス』は、ソフィにそう告げるのだった。
「そうか。うむ、分かった。ではミスズ殿、悪いがセルバス達を我達が戻るまでこの本部で預かってもらえるだろうか?」
「もちろんですよ。セルバス殿は当然の事、シグレも大事な客分ですからね。しかしシグレ、セルバスさんの言う事にはしっかりと従うのですよ? 貴方はまだ精神が安定しているとは言い難いのですからね?」
「は、はい! 重々承知をしております、ミスズ様! この御方に全てをお任せ致します」
そう言ってシグレはセルバスの腕をぎゅっと掴み、自分の胸に抱き寄せるのだった。
「け、結構」
シグレが抱き寄せたセルバスの腕に顔をすり寄せるところを見て、ミスズは顔をヒクつかせるのだった。
「ちっ! 当分このクソ雑魚の顔を見なくていいと考えたら、せいせいするぜ」
「何だと、てめぇ!」
ヌーの言葉を聴いたセルバスは、鼻の下を伸ばしていた顔を元に戻すとヌーに言葉で食ってかかるのだった。
どうやらミスズ以上に、ヌーはこの二人の醸し出す空気に辟易していたのだろう。彼はある程度本音で言っているというのが伝わってくるソフィ達であった。
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