第1491話 総長シゲンの信条
「ソフィ殿……。まず一つ目にお主から受けた質問の答えだが、私は別に何か特別に難しい事をしたわけではない。この『妖魔退魔師』という組織に集まってきている者達は、元々『妖魔』から『人間』を守りたいという気持ちを強く持った人間達が自らここを訪ねてきている。彼らとて『魔力』が人並以上にあれば『妖魔召士』組織の元に向かっていただろう。しかし残念ながら私を含めて多くの『妖魔退魔師』がその資質を有しておらず、また素養もなかったのだ」
生物の持つ『魔力』というモノは『
当然に別世界の『
ただ、この『ノックス』という世界に関していえば、その後天性の素養を育む事は難しい。
何故なら『精霊』や『
何より先祖代々続いてきた慣習や習わしといったモノが、この世界には根深く残っている事も大きいだろう。
『餅は餅屋』という言葉があるが、その分野に適している専門家に任せれば良いという考えがこの世界の人の道理として働いており、幼少の頃に『魔力』が乏しく『妖魔召士』と認められない者は、いくら『正義』の心を宿す者であっても『妖魔召士』として『妖魔』から同じ人間を守る『技術』などの教えを受ける事は許されなかった。
だが、そんな『妖魔召士』として選ばれなかった者達の中にも『刀』の才能が眠っている者も多く、また『正義』の心を宿している人間も少なからず存在しており、そういった者達が『予備群』や『妖魔退魔師』を目指して研鑽に励んでいき、やがては『妖魔召士』を諦めた者達の中には『妖魔退魔師』として『妖魔』を狩る者として成長を遂げる。
つまり『
それこそが『
人からやれと言われて嫌々やるような者であるならば『妖魔』を討伐する事や、人を『妖魔』から命をかけて守る事など出来はしないだろう。
あくまで自分の意思をしっかりと持って行動に移せる程の熱量を有する者だからこそ、この『妖魔退魔師』組織に集まってくるのである。
「そして私の代に集まった者達は、その『正義』の心を宿しているのは当然の事ながら、剣や刀の才に溢れている者が多かった。当然今の『妖魔退魔師』組織の中には、私と同様に前時代から『妖魔退魔師』組織に在籍して研鑽を積んでいる者も多く居るが、それでも私の代になって一から『妖魔退魔師』となった者も居る。それだけ『妖魔退魔師』という組織に重きを於いて生きていきたいと思う者が多いという事の証左であるが、それは家族の為であったり、自分の為であったりとのっぴきならない事情があるのだろうが、私はそんな者達を決して裏切る事はしない。私の信条は『是々非々』というやつでな。隊士の意思が私と同じ方向に向いている限り、私はその隊士の気持ちを担ぎ、そして最後まで押し通してやるつもりでいるのだ」
腕を組んで堂々とソフィの目を見ながらそう告げるシゲンだが、その自信の根底にあるのはやはり彼自身の実力によるものなのだろう。
相手が誰であろうと自分が負ける筈がない――。
確固たる自信があるからこそ、彼の放つ言葉に一切の偽りが混じらない――。
彼の言い切る言葉に絶大なる覚悟が乗っている以上、たとえ欺瞞だと言われて蔑まれるような内容であったとしても、それをあっさりとシゲンは覆す事が可能であろう。
これまでの『妖魔退魔師』組織と明確に違うところは、当代の『妖魔退魔師』組織は、先程彼が口にした『信条』の通りに『
単に『妖魔』から襲われそうになっている人間達を守るだけではなく、当代の総長シゲンは、根本の『妖魔』を討伐をしようと考えて『妖魔山』へ向かおうとしている。
隊士一人一人が見ている方向と、このソフィの目の前に居る『妖魔退魔師』の総長シゲンと同じ方向を向いている限り、彼の信じる『正義』の名のもとに何処までも突き進んでいくのだろう。
絶大なる自信を持って前へ進んでいく頼れる旗頭が居る限り、同じ方向を向いている者達も信じて突き進んでいく。
つまりは
(成程……。同じ組織の中であっても『シゲン』殿は、同じ方向を向いている限りは手を貸すが、自分の道理にそぐわない事には手を貸さない。しかしこの組織に集まってくる者達は、全員が『正義』の道理で繋がっている。どう足掻いても全員が同じ気持ちを共有している以上は、互いの気持ちの結びつきは強固にして堅牢。まさにシゲン殿が告げた通り、彼自身が何かをしているわけではないが、志を共にする者が集まり同じ方向に向かっていくというわけか)
それを為せるのは彼自身の強さが源にあるからこそだが、共に居る者達にとっては確かに『シゲン』という絶対的な旗頭が君臨し続ける限り『正義』は潰えないだろうと信じているのだろう。
――ここにきて大魔王ソフィは、目の前に居る人間の『シゲン』に、強く意識を向けさせられるのだった。
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