第1485話 力の魔神の死神貴族を見る目

「――」(ソフィさん! こいつどうしちまったんだ!? 突然……)


「うるせぇ……。何ともねぇって言ってんだろテア。ただ、ちょっとこいつの『魔力』を推し量ろうとしちまっただけだ」


「お、おい! てめぇ、まさかさっきの旦那に向けて『漏出サーチ』でも放ったんじゃねぇだろうな? そんな事をすればどうなるかくらい、お前なら分かってんだろう!?」


 確かに自分より『魔力』が桁違いに差がある場合は、その相手の『魔力』の値を『漏出サーチ』で強引に数値化しようとすれば、瞬時にその情報を理解しようとする働きによって、脳が耐えられずに焼き切れて絶命をしてもおかしくはない危険性を孕んでいる。


 『基本研鑽演義きほんけんさんえんぎ』を行い続けている者であれば、その会得している『魔力コントロール』と天性のセンスで脳が焼き切れる前に、ある程度の情報を確立させる者も一握りの魔族の中には存在するが、それでもそのある程度の情報でさえ、今の四翼の戦闘形態の『完全なる大魔王』となっているソフィの情報を探ろうとすればこうなってもおかしくはない。


 むしろ本当に先程のソフィに『漏出サーチ』を放ってこの程度の眩暈ですんでいるのであれば、それは逆に大魔王ヌーが見事だったと言わざるを得ないだろう。


 情報を得るまでの切り替えのタイミングに『漏出サーチ』の『魔力コントロール』が卓越していたからこそ、この程度で済んでいるのである。


 しかしそれでも著しく健康被害を引き起こしており、無理をすればこのまま意識を失いかねない危険な状態に変わりはなかった。


「お主が過去に我に説いた事をお主がやってしまったという事か……。確かに少し頭が痛むような感覚を覚えた事は我もあるが、お主は少しばかり我の感じた事のある感覚よりも被害が大きそうだな」


(いやいやいや、旦那は何を言っているんだ? 『漏出サーチ』で旦那の『魔力』を推し量ろうとして、この程度で済んでいる事が凄いんだよ! 頭が痛むくらいの感覚より症状が重そうだとか、そんな程度の話じゃないんだが……!)


 大魔王ヌーがどれだけ危険な事をして、どれだけ凄い事を為したかが全く理解していない様子のソフィに、セルバスは胸中で信じられないとばかりに、唖然とした表情を浮かべていた。


「――」(ソフィ、こんなことを私が言うのはおかしいかもしれないけれど、その魔族を治してあげてもらえないかしら? がこれ以上ない程に心配そうにしているの。それを見ているとのよ)


「うむ。もちろんだとも。眩暈や頭痛程度であれば何の問題もなく治す事は可能だ」


「ま、待て! これは俺の未熟な『魔力コントロール』が招いた情けない結果だ。この痛みは今後の教訓として覚えておきたい! だからてめぇは何もするな! 頼む」


「むっ……!」


「――」(ヌー……)


 何とあの大魔王ヌーがソフィに対して『』と真剣な表情を浮かべながら告げた。


 ――これまでソフィに対してこんな言葉を口にしたことがないヌーがである。


 ここでいらぬ節介を焼けば、今後のヌーにとってよくない事だとソフィは瞬時に理解をするのであった。


「分かった。しかし今は我とお主達だけしかいなかった頃とは違う。数多くの者達の予定というモノが付きまとっている状態なのだ。我の助けを拒んだ以上は、お主一人の都合を優先するわけにはいかぬ。辛いだろうが付いてきてもらうが構わぬな?」


「ああ……! 当然だろうが……。こんなモン直ぐに回復してみせる」


 そう言って無理に立ち上がろうとしたヌーだが、再びフラフラと身体を揺らしながら倒れそうになる。


「――!」(私に掴まれ! 大丈夫だ。私がお前の足になってやるから、倒れそうになったらしがみつけ!)


 そう言って『死神』のテアは、ぎゅっと自分より遥かに背が高く大柄なヌーを支えようと両手に必死に力を込めてそう口にするのだった。


「……わりぃな。今はちっとお前の力を借りさせてもらう」


「――」(ああ、遠慮するなよ)


「うむ……。むっ?」


 ソフィはヌーとテアの様子を見て感慨深そうに頷くと、隣に居る『魔神』に再び『結界』を『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』に使ってもらおうと顔を上げたが、何やら感動している様子の『魔神』を見て口を噤むのであった。


「――」(ああ! 下界の存在にあそこまで献身的になれる貴方は本当に素晴らしいわ! その姿こそが本当の『契約者』のあるべき姿なのよ……! ああ、可愛いテア。……)


 絶世の美女といえる『力の魔神』は、執念を感じさせる程の怖いくらいの『綺麗』な笑みを浮かべたが、傍から見ていてその目は、何処か先を見据えた冷徹な目にも映るのであった。

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