第1466話 大魔王ソフィの研鑽の末に

「確かに我は『発動羅列』を読み解く事は出来ぬし、更には元々『アレルバレル』の世界の『ことわり』しか存じておらぬから本家本元と呼べる『フルーフ』の『レパート』の世界の『ことわり』を用いた『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』と我の『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』は、多少異なった『効力』となっていると気づいたのだ。しかし互いに別世界の『ことわり』を用いたとしても『発動羅列』次第で別世界の『ことわり』であっても『近い効力』を発揮できると理解した我は、先に『アレルバレル』の世界の『ことわり』を用いた『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を本家の『レパート』世界の『ことわり』に近づければ、更に別の『近い効力』になるのではないかと思ったのだ」


「てめぇが何を言っているか全く分からねぇよ……。おいお前はコイツが何を言っているか理解出来るか?」


「旦那が言いたい事は、自分が『アレルバレル』の世界の『ことわり』を用いた『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を本家の大魔王フルーフが編み出した方の『レパート』の世界の『ことわり』を用いている本家の『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を使おうとしたって事ですかね」


「うむ……。お主の言っている事でだいたいはあっているのだが、しかし我は『フルーフ』の『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』を使おうとしていたわけではないのだ」


 そう言うとソフィは唐突に戦闘時のように『魔力』を全身に行き渡らせ始めた。


 大魔王『ヌー』と大魔王『セルバス』はソフィが『魔力』を伴わせた瞬間に同時に『金色の目ゴールド・アイ』の『魔瞳まどう』を使おうとしたが、ここがソフィの『死の結界アブソ・マギア・フィールド』の領域分に入っていることに気づいて、ほぼ両者は同時に『魔瞳まどう』を取りやめるのだった。


「我は『リラリオ』の世界で『アレルバレル』の世界へ戻れるようになる為に『概念跳躍アルム・ノーティア』を覚えようとした事があってな、この『レパート』の世界の『ことわり』をある程度までは我なりの解釈で会得するに至ったのだ」


 ヌーとセルバスはそのソフィの言葉を聴いて、直ぐに視線をソフィの体中に纏わせている『魔力』に目を向け始める。


「先程も言ったが我は『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』の『発動羅列』自体は完全に読み取れてはおらぬ。だが『エルシス』が編み出した『神聖魔法』を全く別世界である『フルーフ』は、独自の世界の『ことわり』を用いて『エルシス』の『神聖魔法』の『発動羅列』の一部を改竄する事で『エルシス』の奴の『神聖魔法』の在るべき状態から更に別の『効力』をもたらせる事に成功してみせた。そしてそれを見た『エルシス』はその『フルーフ』の改竄した『神聖魔法』を目の前にして『類似した新魔法』だと結論付けた」


 ソフィは話を進めていく中で『アレルバレル』の世界の『ことわり』を用いた『魔力』を右手に纏わせる。


 全身に『レパート』の世界の『ことわり』を用いた『魔力』の上から更に『レパート』の世界の『ことわり』を用いて『魔力』を纏わせている。


 それぞれが『別』の手順を用いているが、最終的に同一の『魔力』が生み出された。当然に別世界の『ことわり』を用いて『魔力』を発現しても元々同じ存在の『魔力』なのである為に、最終的見れば同じ『魔力』である――。


「このように別世界の『ことわり』を用いても我の『魔力』自体は何も変わらぬが、その『魔力』から生み出される『魔法』というモノは『発動羅列』次第で如何ようにも『効力』を変える事が可能となる――」


 そして次の瞬間――。


 ソフィの目が『金色』に変貌を遂げると『レパート』の世界の『ことわり』と『アレルバレル』の世界の『ことわり』が組み合わさった『発動羅列』が、次々とソフィの周囲を覆い隠すように表記されていく。


「なっ――!?」


「こ、この野郎……! 』に別の世界の『ことわり』を混ぜ合わせながら『体現』させやがった」


 『ことわり』の存在する世界であれば『魔法』は使える。


 そして同一の『魔法』は数多の世界に存在もしている為に、別世界の『ことわり』を用いれば、同じ『効力』の『魔法』が生み出される事は当然可能である。


 ――しかしソフィは今、その別々の『世界』の『ことわり』同士を混ぜ合わせた『魔法』を使って見せたのであった。


 セルバスもヌーもその『魔法』自体からどういった『魔法』なのかを読み解く事が出来ても『発動羅列』から読み明かすことは出来ない為に、今のソフィの発動する前段階の浮かび上がっていた『発動羅列』に何と書かれていたかまでは分からなかったが、その文字列や文字の種類が違う事から別世界の『ことわり』同士の文字列が一つの『発動羅列』に組み合わさったという事は理解が出来たようであった。


「まぁこれは『レパート』の世界や『アレルバレル』の世界でも『中位』の『魔法』である為に発動自体はどちらも容易く行えるものであるがな」


 ソフィはそう口にすると、その発動させた『火に包まれた一本の槍』のような『魔法』を『魔神』の『結界』に向けて放つが、その中位の『攻撃魔法』は『結界』に当たった瞬間にあっさりと消えていった。


(今のは確かに『炎槍ファイアー・ランス』という中位の『魔法』に似ていたが、あんな形状が出来る『魔法』ではなかった筈だ。野郎まさか『発動羅列』違いの『魔法』を組み合わせる事で全く異質の『新魔法』を生み出してやがったというのかよ?)


「お前『発動羅列』が読めないんじゃないのかよ? 今の『炎槍ファイアー・ランス』は確かに『レパート』の世界と『アレルバレル』の世界の『ことわり』と『文字羅列』が混ざって一つの『』として表記されていやがったが……」


 ヌーはこれまで『発動羅列』が読めるのを隠していやがったのかとばかりに、問い詰めるような言葉を口にするのだった。


「いやいや、最初に言ったが我は『発動羅列』を読み取れぬよ。ただ『レパート』の世界の『魔法』である『概念跳躍アルム・ノーティア』を覚えようと毎日研鑽は続けていく内に『ことわり』自体を完全に『レパート』の世界のモノに変えて『超越魔法』位階までは一通りできるようにはなったがな」


 彼の配下である大魔王の『ユファ』に『レパート』の世界に『ことわり』を教えてもらったソフィは、数千年は会得に時間が掛かると言われていた『概念跳躍アルム・ノーティア』を覚える為にひたすらに毎日何時間も繰り返し『レパート』の世界の『ことわり』を用いた『魔法』を愚直に打ち続けて『枯渇』寸前になるまで使い続けて、徐々に身体に馴染ませていったのである。


「それで我はこの世界にきた時に、お主が『三色併用』を体現したと同時に『青』や『紅』の『オーラ』にも『付与効果』がある事を観取し、これまで何気なく使っていた『力』にも色々とまだ我が知らぬ『魔』の可能性に気づいたのだ。そこで『煌鴟梟』のアジトから帰る道中でかつての『レパート』の世界の『ことわり』を用いた『魔力』の使い方に着目したのだ。そしてちょうど『煌鴟梟こうしきょう』から連れ帰った『妖魔召士』達を今回のように『牢』に入れると聞いた時に、我はお誂え向きだと考えて、奴らの『捉術そくじゅつ』や『魔瞳まどう』を封じる手立てを考えていた『コウゾウ』殿達に『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』の事を伝えて施したのだ」


 ソフィの話を聞いたヌーはその『死の結界アブソ・マギア・フィールド』が、従来の効果と違うモノが施されたのかが気になっている様子であった。


「結果はどうだったんだ? 今みたいに『結界』の効力が明確に変わったのかよ?」


「それは分からぬ」


 ヌーは『新たな効力が備わった』のだろうと信じて疑わずにソフィの言葉を待ったが、その実返ってきた言葉はあまりにも予想外すぎたようで、全身を脱力させて溜息を吐くのであった。

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