第1393話 大魔王ヌーの目指す頂

 テアを後ろへ下がらせたヌーは、恐ろしい殺気を放つ妖魔の方へと自ら向かっていくのだった。


「ククククッ! えらくご機嫌斜めじゃねぇか? 何か納得出来ねぇことでもあったかよ。ああ?」


「いけしゃあしゃあと……。き、貴様ぁ……っ!」


 目の前まで行って煽るヌーのその態度に『黄雀こうじゃく』はもう我慢の限界だとばかりに『殺意』を孕んだ視線を隠そうともせずに睨みつけるのだった。


「おいおい、そんなにキレてんじゃねぇよ。てめぇらだってこれまで『人間』共に同じような真似をしてきたんだろうが? 自分らだけが特別だと思い込んでんじゃねぇよ。やられたらいずれやり返される。まぁこれは当然俺にも言えることだがな……」


 摂理を説くようにヌーは『黄雀こうじゃく』に告げたが、途中から邪悪な笑みを浮かべていたヌーの表情が真顔になっていた。


 どうやら自分で話した通り、これまでの生きてきた長い年月の中で自身もその経験の中に思い当たったのだろうか。


「そうか。だったら俺が今度はお前を滅ぼしてやろう」


 『黄雀こうじゃく』はもう手加減など一切するつもりはないようで、自分と契約を行っていた『妖魔召士』の『キクゾウ』を葬った大魔王『ヌー』に報復を行おうとムキになっているようであった。


「ふっ……。確かに少し前までの俺であれば、てめぇのその『魔力』を前に圧し潰されていたかもしれねぇな」


 『三色併用』を纏っている今のヌーだが、そんな彼であっても『黄雀こうじゃく』の『魔力値』はそのヌーの現在値よりも遥か上だろうと感じられたようであった。


「そんな事はどうでもいい。俺の魔力に恐れていようがそうでなかろうが、お前はもうこの俺に消し飛ばされる未来が変わることはないんだからな。後悔させてやるぞ……!」


 ランク『8』に到達している『妖魔山』に生息する妖魔『黄雀こうじゃく』は、契約主であった『キクゾウ』が居なくなった現在であっても『妖魔山』に戻るような真似をせず、キクゾウの仇を取るべくこの場に残って更に戦闘意欲を高めていくのであった。


 ――』の妖魔? ? はっ! それがどうした。


「上等だよ! 俺はてめぇを倒して更にへと向かわせてもらう」


 ――


 その決意を胸に抱くと同時、ヌーの魔力は更に上がっていく。


「ふんっ……! 何を偉そうな事を……!! 貴様程度の魔……力で……、は?」


 キクゾウがヌーにやられた事で激昂していた『黄雀こうじゃく』だが、そこでヌーという存在の『魔力』の上昇力に違和感を感じてようやく冷静になり始めるのだった。


 この『ノックス』の世界に存在する『妖魔召士』という人間達の魔力を物差しにして測れば、これまでの大魔王『ヌー』の『魔力』は精々が『下位妖魔召士』と同程度しかなかった。


 それでも『ノックス』の世界では大したものであるとされる『魔力』ではあったのは間違いない。


 つまり『ヌー』という魔族の『魔力』は、この世界に来る前の時点で、この『ノックス』という世界でも十分にやっていけるだけの『魔力』を有していたという話で間違いはなかったのである。


 ――だが、ヌーという魔族の持つ『魔力』の潜在能力は、その『十分にやっていける』だけの魔力で収まる範囲では決してなかったのである。


 これまでは『三色併用』やそれに至る技法に技巧の存在を理解しておらず、また『アレルバレル』の世界では『ノックス』の世界の『人間』達のように『魔力』で『大魔王』を上回る存在は限りなく少なかったとも災いして、過去の大魔王『ヌー』の魔力の時点で世界トップクラスとされていたのだから切磋琢磨のしようもなかった。


 だからこそ、本来のヌーという魔族の持つ潜在する『魔力』の本当の限界というモノを彼自身も理解していなかった。


 しかし今は違う――。


 『ノックス』の世界に生きる人間達の使う研鑽の到達点である『オーラ』の技法を学び、この世界の『妖魔召士』や『妖魔』という存在の『魔力』の基準点を知り、そしてヌー自身によって『練度』の組み合わせによって、これまでよりも成長の幅を広げる事に成功した。


 そしてその彼の成長を促す方法によって、彼の潜在する『魔力』を表に出させる事に成功したのである。それこそが『ソフィ』という大魔王が、ヌーという大魔王に抱いていたモノ。


 ――大魔王『シス』の潜在する『力』に匹敵する、大魔王『ヌー』の潜在する『魔力』。


 その全てが『ノックス』という世界に来た事で上手く噛み合う事となった。


 ――ここまでの彼であっても十分に『魔神級』と呼べる存在になっているが、そこから更にヌーは『成長』という武器を手に入れた事によって、更なる彼の潜在する『力』の扉をこじ開ける事に成功するのだった。

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