第1390話 大魔王ヌーの煽り

 大魔王ヌーの放った『天雷一閃ルフト・ブリッツ』によって、空へと飛んでそのまま逃げようとしていた『ヒュウガ』達は、地上へと強制的に落とされてしまった。


 そして『黄雀こうじゃく』と使役者である『キクゾウ』は、大魔王ヌーと死神貴族のテアと相対する形となり、この『加護の森』を戦場に選んだ一派の代表である『ヒュウガ』は、一番戦いになる事を恐れていた副総長『ミスズ』と戦わざるを得ない状況になってしまっていた。


(やれやれ……。まさかミスズ殿と戦わざるを得なくなるとは思いませんでした。しかし馬鹿正直に『妖魔退魔師』の副総長殿とやり合う必要性はないでしょう。数度程『ミスズ』殿の攻撃をいなした後、本気になられる前に再び空へ逃げてしまうのが吉でしょうね)


 胸中でヒュウガがそう呟くと、ちらりとヌー達の方を見る。


 先程空へ舞い上がった時に強制的に地面に落とされた事に懸念を抱いたヒュウガは、キクゾウや『黄雀こうじゃく』と戦闘が始まってしまえば、今度こそ空へと逃げられるだろうと考えたようであった。


 つまりヒュウガの狙いは『黄雀こうじゃく』達が戦闘を始まるまではミスズと戦い、ヌーに隙が出来たあたりを見計らって、この場を離脱しようという事であった。


 ――しかし『ヒュウガ』は『妖魔退魔師』の副総長『ミスズ』を本当の意味でよくは理解していなかった。


 となっている今の『ミスズ』は、ヒュウガが思う『ミスズ』の強さともまたという事を――。


 …………


「先程の天候を操った面妖な術はお主の仕業なのか?」


 『黄雀こうじゃく』はこの場で腕を組んで偉そうに立っている大魔王『ヌー』に向けてそう口を開いた。


「ああ? 屑が誰に向かって口を利いているつもりだ? 妖魔だか何だか知らねぇが、この俺様の前では馬鹿みたいに頭を垂れてひれ伏しやがれや」


「はっ! これはえらく勘違いを行っている『人間』のようだ。俺達がお前ら人間の何十倍、いや、何百倍生きてきておると思っておるのだ? あまりでかい口を叩くなよ小童が……」


 ――どうやら『ヌー』の態度が余程気に入らなかったのだろう。


 『黄雀こうじゃく』はカヤ達と対峙していた時とは違って、明確に『敵』を前にしているのような表情をしながらそう告げるのだった。


「ククククッ! 堪え性のねぇ小物だな? お前だけがそんな小物なのか? それともお前ら『妖魔』とか呼ばれてる連中は、全員がお前みたいなどうしようもない屑なのか? 大したことのない奴に限って自分を大層なモノだと言いたげにしやがる。見ていてこれ程滑稽なモンはねぇぜ。クズが!」


 何度も『黄雀こうじゃく』を小物と呼んで煽るヌーは、厭らしい笑みを浮かべながら『黄雀こうじゃく』を貶し続けるのだった。


「やれやれ……。話の通じない馬鹿だったか。こういう不遜な輩には力の差というモノを分からさなければならぬな。どうやらお主らは二人で戦うつもりなのだろう? 俺ひとりで二人共相手にしてやるから、さっさとかかってくるがいい」


「お前如き、俺一人で十分だと言いたいところだが……。折角テアの奴もやる気満々のようだからな、お言葉に甘えて二人でやらせてもらうとするか。おいテア、お前には前衛の役割を担ってもらう。この俺が攻撃するまでアイツの相手は頼んだぞ? 後は俺が攻撃をする瞬間を見極めて離れやがれ。出来るな?」


「――」(ああ、当然だろ?)


 テアの短いが満足のいく返事を聴いた事で、ヌーは笑みを浮かべて頷くのだった。


「――」(じゃあ……、行くぜ!)


 再び大鎌をクルクルと回し始めたテアは、両手でしっかりと握った後に空を飛んで『黄雀こうじゃく』に向かっていった。


「むっ……!?」


 まさか空を飛んでくるとは思っていなかった『黄雀こうじゃく』は驚きの声をあげたが、直ぐにテアの鎌の一撃を躱したかと思うと、右足で思い切り『テア』を蹴り返そうと突き出した。


 テアもその蹴りを躱して互いに接近戦でやり合い始める。


「どうやら戦力値的には『テア』が大幅に不利だと思ったが、流石にテアの奴の戦闘センスは並じゃねぇな」


 魔族の行うような『基本研鑽演義きほんけんさんえんぎ』の動きとはまるっきり異なる接近戦を行うテアだが、どうやらその戦い方を見て安心するようにそう口にすると、ヌーもまた戦闘のための『極大魔法』の『スタック』の準備を開始するのだった。

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