第1339話 巻き込まれた退魔組の者達

 これまで余裕の態度を取っていた『ヒュウガ』が突如として狼狽え始めたのを見て、一派の中で大きな不安を抱き始めた者が居た。


 ――それは『妖魔召士』の下部組織と呼ばれる『退魔組』の『特別退魔士とくたいま』達であった。


 彼らは『キクゾウ』の使役している『黄雀こうじゃく』から先に『加護の森』へ移動するように報告を受けて、門前から先にここ『加護の森』へと移動を果たして、後から辿り着いたヒュウガ達と合流を果たしたところであったが、彼らはようやく門前に居た妖魔退魔師の『隻眼』と呼ばれる『キョウカ』達の監視から逃れられたと喜んでいたというのに、今度は逃れた先に再び妖魔退魔師組織、それもミスズにスオウという組織の副総長や違う組長格が攻め込んで来たときかされたのだから、大きな不安を抱くのも無理はなかった。


「お、おいおい、これ俺達まずくねぇか? 相手は『妖魔退魔師』の更に最高幹部達や副総長だぜ? こんな話聞いてねぇよ」


「そ、そうっすよねぇ。もう今は『』なんかもなくなっちゃったみたいですし」


「ああ。そもそもその協定がなくなったのも元々は『ヒュウガ』様達が『旅籠町』の『予備群よびぐん』の屯所を襲った事が原因なんだろ? だからあちらさんの組織の副総長まで出てきてるんだろうしよ……」


 『退魔組』に所属する『特別退魔士とくたいま』で三白眼で痩せ細っている男『ヒイラギ』は、ヒュウガや取り巻きの『妖魔召士』達に聞こえないくらいの小声で同じ『退魔組』に所属する『サキ』という退魔士と愚痴を零し合うのだった。


「このまま……、ここに居れば間違いなく俺達は死ぬであろうな」


 そしてそのヒイラギ達との会話に入った男は、サキを護衛にしている『クキ』という額に目立つ程の大きな傷を持つ『特別退魔士とくたいま』であった。現在ここにいる『ヒイラギ』と『クキ』の両名と、後はイツキと共に現在ソフィ達のところに居る『ユウゲ』が、最後の『退魔組』に属する『特別退魔士とくたいま』達であった。


 ヒイラギ達にしてみれば普段の任務からいきなり外されて『退魔組』の頭領の『サテツ』に呼び出されたかと思うと、なし崩し的に『妖魔退魔師』と戦争に巻き込まれたのである。


 その上に招集をかけた『サテツ』や頭領補佐の『イツキ』の姿もなく、妖魔退魔師組織との戦争の原因を作った『ヒュウガ』の一派として、現在ヒイラギ達は参加させられているのだから、愚痴を言いたくなるのも無理はなかった。


「私はそれでも構わないけど……」


 ぼそりと恐ろしい事を呟いたヒイラギの護衛剣士の『ミナ』を他の者達が驚いたように見て、そのまま視線をヒイラギの方へと移し始める。すると慌ててヒイラギが話を逸らそうと口を開くのであった。


「そ、そう言えば『ユウゲ』さんは無事だろうか? 退魔組に報告に向かったっきりで、サテツの頭領やイツキに退魔組の若い衆もまだ姿を見せてないけど……」


「やっぱり私も強引にユウゲ様について行けばよかった……」


 ヒイラギの必死に逸らした話に真っ先に食いついたのは、ユウゲの護衛剣士の『ヤエ』だった。


 何やら最近は頭領補佐のイツキと、行動を共にする事が多くなったユウゲを疑問に思っていたヤエだったのだが、遂にそんなユウゲの護衛である筈の自分を外すようになってしまったのである。


(ユウゲ様が言うには『退魔組』の今後に関する大事な話し合いだというけれど、そんな大事な話ならば頭領のサテツ様を交えて話をしないのはおかしい。今回にしても他の『特別退魔士とくたいま』のヒイラギ様やクキ様は別にしても、直属の護衛である私を外すのは流石にやりすぎだ。ついてくるなと言われはしたけれど、やっぱり心配よ。無理やりにでもついて行くべきだった。ユウゲ様、絶対に無事でいて下さいね……!)


 イツキが本当はどういう存在なのかという事を知らないヤエは、ユウゲが何故イツキにここまで構っているのか、その理由が分からずに思案を続けたが、最終的には戦争状態の妖魔退魔師と戦いになっていないことを願うのであった。

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