第1280話 王連の魔力と羽団扇

「後悔させてやるぞ、小娘っ!」


 そして王連は空の上で自身の魔力を込めた羽団扇をキョウカに向けて振り切ると、その衝撃波と呼べるほどの突風は勢いをそのままに、一瞬の内にキョウカの元へと向かっていくのだった。


 ケイノトの門前で『王連』と戦ったヒサトは『天色』のオーラを纏っていた状態でさえ、この王連の羽団扇の突風に身動きが出来ずに初見では、あっさりと空の上へと巻き上げられた。


 二度目の森の中では既に走っている状況から上手く巻き上げられないように移動を繰り返して回避をして見せたが、キョウカにとってはまだ、その『王連』の本気で放った羽団扇の突風を見てはいない。その初見の状態で果たしてどうやってキョウカは回避を行う事が出来るのだろうか。


 仲間であるヒサトはキョウカのことを心配しながらも、どこかどうやってあの暴力的な王連の『力』に向き合うのだろうかというキョウカへの期待感を持ちながら戦闘を見守り始めるのだった。


 ――しかしキョウカは迫って来る『王連』の魔力がこもった突風に対して、何も回避行動をとらなかった。


「何故動かぬ? そのまま空へ巻き上げられてしまえば、人間のお主では空の上では身動きがとれぬということを理解出来ておらぬのか?」


 もうキョウカの目と鼻の先と言えるような間近にまで迫ってきた突風だが、一向に動く素振りを見せずにキョウカは『青』を纏った大太刀を強く握りしめるだけだった。


 王連の魔力が込められたその風は、単なる自然の風のような動きはしない。あくまで同じ『風』という自然の事象ではあるが、王連の思い通りに動く『風』となっている。


 つまり空から叩きつけるような突風だというのに、地上に迫る寸前から一気にキョウカを基点とするような覆う動きへと変わっていったかと思うと、次の瞬間には真下から吹き上がるように風の向く方向指標に変貌を遂げた。


 つまり王連の狙い通りであり、ヒサトの懸念していたことが現実となったのである。


「カッカッカ! 大方、そこまで大した事は無いと『風』を甘く見て、わざと引きつけながら土壇場で回避を行おうとしたのだろうが、考えが浅かったな妖魔退魔師! その風は単なる風ではなく儂の魔力が伴っておるのだ! そう易々と思い通りにいかせると思うなよ!」


 余程、先程のキョウカの言葉に腹を立てていたのか、思惑通りに事が運んだことで饒舌に喋る王連であった。


 ――しかしこの時キョウカは、自分を空へと巻き上げるその突風に覆われて浮上を行う僅かな刹那の間。


 何と自分からその風の気流にのって空へと舞い上がって行くのだった――。


 傍から見れば風に巻き込まれて無理矢理身体が巻き上がられたようにしか見えなかったが、彼女はしっかりと自分の意志で風に飛び乗ったのである。


 そしてそれから彼女は視線を空の上に居る『王連』を見定めると、両手に持つ得の刀を頭上高くに持ち上げるように両肩を上げると同時、両足を思いきり左右に広げながら、自身の周囲にオーラを纏わせる為の『魔力』を解放し始めるのだった。


 だが、密かにキョウカが何かを行おうとしていることなど露知らず、王連は自分の居る空の高さまで徐々に巻き上げられてくる妖魔退魔師に、手痛い一撃を加えてやろうと更にヤツデの葉の形をした羽団扇に更なる魔力を込め始めて行く。


「カッカッカ! 天災に翻弄されて思い通りに動かぬ身体のままで、儂に何をされるか分からぬ恐怖。お主はいま怖くて怖くて仕方がないであろう? どれ、その恐怖に染まったお主の顔を儂によく見せてみろ! そしてその時に更なる恐怖を授けて……ん?」


 もう王連のすぐ傍という高さまで地上から飛ばされてきた『キョウカ』だったが、クルクルと突風に煽られて身体は反転したりしている中で両手両足を大きく広げながら、顔だけはしっかりと何かでガッチリと固定しているかのように一方向を見ていた。


 ――それはつまり、王連の居る位置だけを正確に目で捉え続けるキョウカがそこには居た。


「忌々しい目だ……。少しは怯えているかと思えば、そんなあられもない態勢では何も出来ぬというのに根性だけは大したモノよな人間……。恐怖に怯える表情を見れなかったのは残念だが、しっかりと想像を絶する痛みだけは間違いなく与えてやる!」


 そう言うと王連は羽団扇を右手に持ちながら、思いきり身体をねじるように捻った後、そのまま一気に身体の態勢を戻すと同時、羽団扇をキョウカに向けて振り切るのだった。


 ――その瞬間、キョウカを巻き上げている突風とはまた質の違う『風』。膨大な天狗の魔力が込められた『暴風』と呼ぶに相応しい『風』が、キョウカを対象に指向されて向かっていくのであった。


 今もまだ下から巻き上げられた別の風に曝されて身動きが取れないキョウカは、更に暴力的な『風』を至近距離から放たれて絶体絶命の窮地に追いやられるのであった。


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