第1274話 三組副組長ヒサトVS王連

 恐ろしい視線をチジクに向けている『王連』にヒサトはどうするかと考える。当然このまま戦うことになるのだろうが、流石に今の状況でランク『7』の王連と戦っても勝ち目は薄いだろう。


 そもそもチジクを守りながら戦える相手ではないことに加えて、少しは門前に居た時よりはマシになったとはいっても既に『野槌』から味方を救出するときにある程度体力を消耗させられており、その後に目の前に居る『王連』に一度ボロボロにされてしまって、万全に戦える状況下にないヒサトである。


 しかし泣き言を口にしていても都合よく状況が好転する筈もない。


 それに先程チジクが意識を失う前に彼を意欲付けようと、もうすぐ仲間達が『キョウカ』組長を連れて戻ってくると伝えたが、その確率はあまりに低いだろう。


 ここが先程まで居た『ケイノト』の門前や、見晴らしのいい平地であればまだ可能性はあったかもしれないが、周りは何処かも分からぬ森の中である。


 チジクはもしかするとわざとこの見通しの悪い森の中を選んで、妖魔召士達から見つからないように移動をしてきたのかもしれない。ここに『王連』以外の妖魔召士達が居ない事がその証明といえるだろう。


 それならそれで何故、天狗の彼だけが此処に辿り着けたのかという疑問は残るが、彼の様子を見るに相当に必死に探してきていた事は予想に難しくはなく、何か我々人類には分からない天狗の法力や神通力のような類のものが存在しているのかもしれない。


 だが今はそんなことはどうでもよかった。


(まずは奴にこの俺という存在を無視出来ないように引き付けて、チジクから目を離させる事が大事だ。ひとまず今は近くにあの『ヒュウガ』一派の妖魔召士の姿はない。つまり『魔瞳まどう』や『捉術そくじゅつ』の脅威が無い中で『王連』だけを意識して戦闘が行えるというワケだ! 俺達妖魔を討伐することを生業とする『妖魔退魔師』の本質、その真髄をこの妖魔に叩き込んでやるっ!)


 すでにヒサトは先程も言った通り、万全で戦える程に体力が残されているわけでは無いが、それでもチジクのように魔力枯渇で『生命力』を注ぎこまなければいけないという満身創痍という程のモノではない。つまり『瑠璃るり』のオーラを纏えるだけの『魔力』は十分に残されているのである。


 そうであるならば、後は気をつけなければならないのは、ケイノトの門前の時のように『王連』の起こす面妖な神風のように、空へと巻き上げられて自由に動けなくなるという状態を作られないように動きを意識して、相手に手痛い一撃をくれてやることが重要となる――。


 決意を固めたヒサトは『瑠璃』の青のオーラを纏い始めると、流石にチジクを睨みつけていた『王連』もヒサトの方へと視線を移し始めた。流石にどうやら『王連』でさえも今のヒサトを無視出来ないようであった。


「あれほど痛い目に遭わせてやったというのに、まだわしとの力量差を理解出来ておらぬのか?」


「俺達妖魔退魔師を甘くみるなよ? 経験を経ることで俺達は更に強くなるということを思い知らせてやる!」


「カッカッカ! 一丁前に吠えよるわ。これだから人間という生き物は面白いのよな。小童よ、もう一度だけこの儂が相手をしてやろうではないか!」


 どうやら完全に『王連』の狙いがチジクからヒサトに移ったようで、横たわるチジクの方には一切視線は向いていなかった。


(ひとまずはこれでいい。後は奴の動きに集中して、この前のように見失わないようにしなくてはな……)


 副組長のヒサトは前回の二の舞だけは避ける為に、まず『瑠璃』のオーラで自身の『力』の底上げを果たしながら、相手の位置と『神風』のような巻き上げる風の発生に意識を向けながら、渾身の一撃を食らわそうと『後の先』を打つ準備を始めるのであった。


 …………


「クソッ! 勝手に先にいきよって! 王連の奴は何処に行ったのだ!?」


 恐ろしい速度で先に空を飛翔していった天狗の速度に追いつけるはずもなく、ジンゼンは別の鳥の妖魔に跨りながら周囲を探しながらそう口にするのだった。


 既にケイノトの門前での戦闘に片が着いた『ジンゼン』達は、後はもう逃げた数人の妖魔退魔師にトドメを刺すだけであったのだが、その逃げた連中も自分の出した『式』の『王連』も姿が見えなくなり、途方に暮れるのであった。


「ジンゼン様! 我々もそろそろ加護の森のヒュウガ様の元へ向かわなければ、いつ妖魔退魔師の本隊が来るとも限りませんよ。このまま闇雲に探すよりもまずはヒュウガ様と一度合流を果たしませんか?」


 そんなジンゼンの元に他の妖魔召士達も空を飛べる妖魔に跨りながら近づいてくると、そうこの場の指揮官である『ジンゼン』に進言を呈してくるのであった。


「仕方あるまい。お前達は先に加護の森へ向かっていろ。俺は『王連』を探しながらギリギリまで逃げた奴らを追う。ヒュウガ様にあったら直ぐに向かうからと伝えておいてくれ」


 立場が上のジンゼンがそういうのであれば従う他ない妖魔召士達は、素直にその言葉に頷くのであった。


「分かりました。おい、戻るぞお前達!」


「はっ!」


 他の妖魔召士達も素直に従って、そのまま空の上で方向転換をしながら戻って行った。


「ちょっと、あんた何処触ってんのよ!」


「しょ、しょうがねぇだろう! 狭いんだからよ!」


「助けてやってるんだから文句言ってんじゃないわよ!」


 …………


 ジンゼンは空の上で騒ぐ『チアキ』と『キネツグ』の様子を見ながら、えらく仲良くなったものだと小さくなっていく二人を見送っていたが、直ぐにゆっくり見ている場合ではないと頭を振って再び『王連』を探し始めるのであった。


 ……

 ……

 ……

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