第1167話 シグレから語られた真相

 サシャ副組長が人数分のお茶を淹れて部屋に戻ってくると、シグレはしっかりと決意を固めたようでスオウとサシャに向き直り口を開き始めるのだった。


「私がここに来た理由は、旅籠町が『妖魔召士ようましょうし』達に襲撃を受けた事を総長と副総長に報告する為だったのです」


 あれだけ『妖魔召士ようましょうし』に対して恨みをぶつける様子を見せていた為に、何か『妖魔召士ようましょうし』が関係はしているのだろうなとは考えていたスオウ達だったが、話された内容はその予想を大きく越えていた為に驚きで目を丸くする2人だった。


「『妖魔召士ようましょうし』が『旅籠町』を襲う理由……? まさか、今回の会合が開かれるキッカケとなった、例の『の『妖魔召士ようましょうし』が捕縛されているあの『旅籠町』の事かい?」


 スオウは『旅籠町』を『妖魔召士ようましょうし』が襲ったというシグレの話を聞いて、関連性を考えた結果が捕縛されている『妖魔召士ようましょうし』達を解放しようとする『妖魔召士ようましょうし』の一派が襲撃したのではないかという結論に思い至った様子であった。


「はい。情けない話ですが私は襲撃をされた時に『妖魔召士ようましょうし』の扱う『式』の妖魔にあっさりと倒されてしまって、目を覚ました時にはもう捕縛していた筈の『妖魔召士ようましょうし』二名が牢から居なくなっていて……! そ、それで……」


 徐々に言葉が途切れていく様子のシグレを見て、どうやらこの後話す事が彼女の中で一番辛い部分なのだと気づくスオウとサシャは、言葉を挟むような真似をせずにシグレが話し終わるのをじっと待つ。


「我々『旅籠町』に派遣されていた護衛隊のた、隊長。よ、予備群よびぐんコウゾウが、く、首を切断されて戦死っ! 捕縛されていた『妖魔召士ようましょうし』二名が襲撃犯達の手によって、脱獄されましたっ……!!」


 悔しい思いと共に蘇って来る悲しみや怒りの感情を必死に抑え込みながら、ぽろぽろと大粒の涙を流しながらスオウ組長とサシャ副組長に真相を必死に話すシグレ隊士であった。


「『妖魔召士ようましょうし』達がコウゾウを殺めて、仲間を脱獄させた……?」


 信じられない言葉を聞いたスオウは、隣で同じように驚いているサシャと顔を見合わせる。


(おいおい、総長達は『妖魔召士ようましょうし』達の里でしっかりと話をつけてきたと言っていたが、シグレ隊士が言っている事が本当なら全然話がついていないじゃないか……! それにコウゾウがやられたって……)


 本来『妖魔退魔師ようまたいまし』がいちいち『予備群よびぐん』の名前を憶えている事は稀であり、しっかりと名前を憶えているのは特務に所属している者達くらいであるが、予備群のコウゾウだけは違う。


 過去の残して来た功績も中々素晴らしいものがあるが、それ以上に最高幹部の組長達から見ても、コウゾウがその気になれば直ぐに『妖魔退魔師ようまたいまし』になる事くらいは出来ると理解しており、更にはこの組織の副総長であるミスズが彼の潜在能力とやらに惚れ込んでいて、常に『コウゾウは素晴らしい逸材です、絶対に私の手で特務で強くして見せる』と口にし続けている程であった。


 前回の武力戦争スレスレになった事件でさえ、飛ばしている間諜からの報告にいち早く動きを見せたミスズが、組織の総隊長であるシゲンに『今すぐに妖魔召士ようましょうし組織へ報復を』と、進言をして行動を起こさせたくらいなのである。それが今回もまた『妖魔召士ようましょうし』から襲撃が行われたとなればただでは済まないだろう。


 それも仲間の『妖魔召士ようましょうし』を救い出す為とはいっても、同じ『旅籠町』の護衛隊達を襲い、ミスズ副総長のお気に入りの『予備群』を殺めたとなれば前回の比では済まない事が予想される。そこまで考えたスオウは苦虫を噛み潰したような表情になるが、そこで涙を流して悲しみを堪えているシグレの顔が目に入るとスオウは表情を元に戻した。


(そうだったのか。彼女はコウゾウ殿を仕事上の関係以上に信頼や敬愛を抱いていて、それで『妖魔召士ようましょうし』に対してあれだけの憎しみを抱いていたんだね。悲しみに蓋をして必死に本部に報告を行おうと来たところに再び『妖魔召士ようましょうし』が現れて、自分を人質にしようとしてきたんだ……。そりゃあ怒って当然だよ)


 忘れたい事を考えないようにすることは時間が掛かる。しかし彼女は報告という義務を全うする為に、一時的に忘れたい事を箱に詰めて蓋をするに留ませる事しか出来なかった。いつ開かれるかもわからないその感情の箱を抱えて来たところに、その箱をあっさりとぶちまけられたのだ。


 スオウはシグレの気持ちが痛い程に伝わってくるのを感じたが、慰めるという気持ち以上に彼女の為に自分が手を差し伸べなければという気持ちを抱くのであった。

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