第1150話 総長シゲンの信じられない発言

「はい。訓練場でお伝えした通りですが、ソフィ殿の実力は確かなものです。私が彼をランク『6』以下は有り得ないとお答えした事は覚えておられますか?」


「ああ……。我々のような『妖魔退魔師ようまたいまし』でもなく、ましてや『妖魔召士ようましょうし』でもないソフィ殿がランク『6』に至っているという話をお前の口から聞かなければ、誰も信用をしなかっただろうがな」


 ソフィ達の住む世界である『アレルバレル』でいえば、ランク6は『魔神級』とされる程の領域であり、分かりやすく数値化するとなると『魔神級』とされる領域に立つ者は、戦力値が『5600』~『6500』億前後となる。リラリオの世界の原初の魔族である『レキ』や、その『レキ』に『魔神級』で間違いないと言わしめた大魔王状態のシスが、このランク『6』に届くかどうかと思われるラインである。


 当然『レキ』は『代替身体だいたいしんたい』の身である為、本来の彼をこのランク『6』で区分する事は流石に難しい事ではあるが、それでもれっきとした『魔神級』である事に変わりはない。


「総長、実はあの場では他の隊士達も多く居た為に、私も遠回しな言い方をしましたがソフィ殿はランク『7』いや、下手をすればランク『7.5』から更に上に該当する存在かもしれません」


「お前はソフィ殿の強さをうちの幹部連中と同等と言いたいのか?」


「……」


 総長シゲンの返答に対しミスズは無言だが、その態度で言いたい事を表した。否定を行うでもないミスズだが、更に言葉を足すのではなく無言を貫く事で『私は誇張を示してはいない、あくまで正しい情報を伝えているだけ』という明確な意思を込めてシゲンに伝えたのであった。


「そうか。お前が実際に戦った上でその考えに至ったというのであれば、どうやら彼は俺が思う以上に大物だったという事なのだろうな」


 そう告げるシゲンの態度を見るに、既に彼はソフィを認めているような口ぶりだった。どうやらソフィという者の強さを一目でと判断していた上で、実際に戦ったミスズからの言葉を自身の結論と照らし合わせるつもりだったのだろう。


「是非、欲しいな」


「え?」


「彼を、我々の仲間に迎え入れたいと言ったのだ」


「はっ!? ちょ、えっ……、えぇ!?」


 副総長ミスズは眼鏡がズレ落ちていくのも無視して信じられない言葉を発したシゲンに、目を丸くしながら素っ頓狂な声をあげるのだった。余りに大きなミスズの声にソフィは、ヌー達との会話を止めてミスズの方を振り返る。しかしミスズがここまで驚くのも無理はなかった。


 当代の『妖魔退魔師ようまたいまし』の副総長となってからミスズは、総長のシゲンが他人を『妖魔退魔師ようまたいまし』に迎え入れたいと口にしたのは――。


 ――現体制が発足してから十余年で、今回が初めての事だったからである。


「そのように大きな声をあげて、何かあったのだろうか?」


 そう告げるソフィだったが、魔族の聴覚を持つ彼やヌーにセルバスもまた当然のように、シゲンやミスズ達の会話が筒抜けであった。


 しかしシゲンが何かソフィに対して言いたい事があるのであれば、話をしやすい様にしようと考えたソフィは、あえて何があったのかと問いかけるのだった。そしてそのソフィの目論見通り、シゲンは言葉を投げかけて来たソフィの方に向き直ると、そのままソフィの方へと歩いて行きながら静かに口を開いた。


「ソフィ殿、お主の仲間を探す事に我々は協力をしようと考えている」


「本当に感謝するぞ、シゲン殿。妖魔山とやらにはお主達の協力がなければ、相当に入る事は難しいようじゃしな」


 突然ソフィの口調が若者の姿をしている彼からかけ離れた老人のようなものに変わった為に、少しだけシゲンとミスズは眉を寄せた。しかしその事に対しては、特に言及する事もなくシゲンは話を進める。


「まだ『妖魔山』の管理を行っているのは、うちではなく『妖魔召士ようましょうし』側ではあるが、俺が必ずソフィ殿が『妖魔山』に同行出来るようにすると約束しよう」


 再び礼の言葉を告げようとしたソフィだったが、その言葉にかぶせる様にシゲンは言葉を重ねる。


「そこで相談なのだがな、ソフィ殿。協力をする事に対しての見返りという事でもないが、無事にお主が仲間と再会できた暁には、一つ俺の要求を呑んでもらえないか?」


「……」


 シゲンの目の色が少し変わったのを確認したソフィは、どうやらここからこの男が話す内容が本題なのだろうなとそう考えるのだった。


 ……

 ……

 ……

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