第1136話 妖魔退魔師の権威との邂逅
ソフィが放った超越魔法で特務の施設内に大穴が出来てしまった。規模としては施設の訓練場内の中だけではあるのだが、ミスズの刺突の一撃を防ぐ為に即座に影響を及ぼすように、ソフィは自分中心の真下の地面に向けて放った為に訓練場内だけに範囲は収められたのだが、その分深さはとんでもない事になり、底が全く見えない程になってしまった。
この場にフルーフやそのフルーフの『魔』を研究していたレアやユファが居れば『
現在この施設は『
(本当に申し訳ない事をしてしまったな。横着をせずに直ぐに『魔神』の奴を呼んでおればよかった)
ミスズやナギリという猛者を相手に、有意義な戦いの時間を過ごせた事は非常に喜ばしい事であったが、最終的に喜べる状況ではなくなってしまいソフィは『結界』を軽視した事を猛省していた。
それでもソフィは結界を張っていなかったわけでもなく、あくまで一つ前の形態であれば、彼の張る結界と力のコントロールでここまでの被害を出す事もなかった筈である。
しかしやはりというべきか、このソフィの第三形態の『魔法』の規模であれば、魔神の『聖域結界』でもなければ抑えきる事が適わなかったようである。
「お前達は一体……、何をしているのだ?」
「そ、総長……!」
「シゲン総長!」
そしてこれだけ大事になってしまえば流石に人は集まってくる。見慣れない者達が集まってきて、一人の背の高い男が口を開くと、副総長のミスズと最高幹部といっていたスオウが、その男の顔を見るなり直ぐに頭を下げていた。
どうやら彼らの態度と総長と口を揃えて呼んでいるところを見ると、この男が『
「おいおい、なんだいこりゃ!」
「ちっ! ババアもいんのかよ……」
次いで訓練場に入って来た背が高く黒く長い髪が印象的な女性が、訓練場にあいた大穴を見てぽつりと漏らすと、その声を聞いたスオウが、嫌そうに顔を顰めながら女性に反応をしてみせる。
耳聡くスオウの呟きを聞いた長い黒髪の女性は、スオウを睨みつけたが直ぐにそちらを無視して眼鏡を外している副総長の方に向き直って視線を送る。
「副総長。サシャから特務の方に客人が参っていると聞かされて本部に迎え入れる為に呼びに行った筈の貴方が、何で本気で
訓練場が滅茶苦茶になっている事に当初こそ驚きの声をあげたものの、黒髪の背が高い女性はもうその事に驚いている様子ではなく、むしろ客人を迎えに行った筈のミスズが派手に戦闘をやらかしていた事の方の驚きが勝ったようである。
「総長、申し開きもありません。詳しい話は本部の方へ戻ってからお話しします」
ミスズは総長にそう言って頭を下げてスオウの元へと急いで向かった後に、預けていた眼鏡を受け取って掛けるのであった。
「そうか……。しかしこうなった事についての話は後で聞くとして、そちらの御客人達の事はこの場で紹介してもらおうか」
スオウ達から総長と呼ばれていた男がそう言うと、ミスズは隣に居るスオウに視線を送る。どうやら自分よりもソフィの事を詳しいであろうスオウに彼らの紹介をしなさいとばかりに、視線で促したようである。
スオウはミスズの視線の意味をしっかりと解釈した後に、総長達に徐に口を開くのだった。
…………
スオウはミスズに言われた通りに、シゲン達にソフィとセルバスの紹介を行った。
ソフィ達の名前から始まり、別世界から来た事やこうして見た目は人間だが、内実は魔族という別世界の種族である事。その別世界から来たソフィ達の目的は、この世界に先に来ていたという仲間を見つける為だったという事。そして実はその仲間が前回このサカダイの町に現れた『
他にも件の『
――その事実には流石のミスズであっても大変驚いていた様子であった。
何よりスオウの言葉はソフィ達をより好意的に受け取れるように、彼らに紹介を行ってくれた為、彼らもスオウの言葉を聞いている内にソフィ達を警戒するような視線を向けなくなっていった。
そして最後に訓練場でミスズと戦った理由としてスオウがナギリを紹介した事で腕試しを行うつもりが、少々やりすぎてしまった事でミスズが自分の仲間を殺されそうになったと勘違いを起こして、最終的に訓練場がああなってしまったのだとスオウは自分が言葉足らずに招いてしまったが原因であり、決してソフィ達も副総長も悪くはなかったのだと紹介の合間に謝罪を行う事で双方の印象を下げる事なく、そして自分が悪かったのだとこの場で頭を下げるのだった。
「なるほど……。しかし『特務』の者との腕試しでこのミスズと、この場がこのような事になるまで戦いが行われたというのは驚いた。ミスズ。スオウの言っている事は間違いないのだな?」
「はい、この場にソフィ殿達が来る前の事は存じ上げてはいませんでしたが、少なくとも私が訓練場に来た後の事はスオウ組長の説明に間違いはありません。そして彼は信じられない程に強い。私の見立てですが少なくとも、
ミスズは最後にくいっとズレ落ちてくる眼鏡を指であげながら、ソフィの強さを遠回しに総長達や他の幹部達に伝えるのであった。
「お、おいおい。ランク『6』だと? こ、コイツらがか? マジかよ……!?」
スオウとミスズの話を黙って聞いていた最高幹部の一人。現在の『一組』の組長である『ヒノエ』は、華奢な若い青年にしか見えないソフィを見て、どう見ても組織の『
「……はぁ? おい、クソババア! 副総長の言葉を信じられねぇっていうのかよ!」
ソフィ達を見るヒノエの視線が気に入らなかった事に加えて、信頼している副総長の言葉を受けて、信じられないと申すヒノエに対して、どうやらスオウはこの黒髪の女性に思う処があるようで噛んでいくのであった。
「ちっ……! 事情は分かったからよ、いちいち絡んでくるなや、
スオウの言葉に舌打ち混じりにしながら、面倒臭そうに吐き捨てるヒノエであった。
「……もういい、事情は分かった。それでお主達はこれからどうするつもりなのだ?」
二人がまた言い争いを始めそうになるのを制止するかの如く、総長シゲンはソフィを見ながら口を開くのであった。
……
……
……
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