第1088話 ケイノト方面と、旅籠町方面の分かれ道

 ソフィ達がサカダイの町の『妖魔退魔師ようまたいまし』の本部に辿り着いた頃。ゲンロクが長とする『妖魔召士ようましょうし』の組織を抜けたヒュウガは、里に居たヒュウガ派の『妖魔召士ようましょうし』達を連れて、コウゾウ達が護衛を務めている旅籠町へと向かっていた。


 彼らの目的は旅籠町で捕らえられている『妖魔召士ようましょうし』の『キネツグ』と『チアキ』を解放して、ヒュウガが新たに作った組織に迎え入れる事。


 元々キネツグ達は『妖魔召士ようましょうし』の組織の中で、ヒュウガに付き従っていた側の『妖魔召士ようましょうし』達である為、ヒュウガが直接『旅籠町』に出向いて事情を話せば、あの二人もまたゲンロクの『妖魔召士ようましょうし』の組織を抜けてヒュウガ側につく事だろう。 


 キネツグ達に断られる事など考えもしていないヒュウガは、既に今向かっている旅籠町の事よりも、ケイノトの退魔組の事を考えていた。


(先に退魔組のサテツの所へ『式』を飛ばして事情を通しておきたいところだが、既にケイノトでは私を取り押さえる為にゲンロクの息のかかった者達が、多く潜伏して待ち受けている事だろう。下手に『式』を放てば退魔組は厳重にマークされてしまい、今後より一層近づく事が難しくなってしまう。何よりゲンロク達だけでは無く、下手をすれば『妖魔退魔師ようまたいまし』も見張っているかもしれない。今奴らはキネツグ達が旅籠町の『予備群よびぐん』を襲った事で『妖魔召士ようましょうし』達と戦争の準備を整えている筈である。そんな状態の奴らが『妖魔召士ようましょうし』の下部組織である『退魔組』を野放しにする理由が無い事は誰でも察しが付く。ゲンロク達と『妖魔退魔師ようまたいまし』達の話合いのケリがつくまでの当分の間は、私達もイダラマのように息を潜めて、機を窺う他はないだろう)


「ヒュウガ様。もうすぐケイノトと件の旅籠町へ繋がる道とで分かれる場所ですが、このまま南下を続けて旅籠町の方へ向かっていいのですか?」


 今、まさにケイノトの事を考えていたヒュウガは、キクゾウの言葉に意識を取り戻されるのだった。


「そうですねぇ。お主たちにケイノトに向かわせて、手っ取り早く二手に分かれて退魔組のサテツ達と合流を果たして、ほとぼりが冷めるまでの間『サカダイ』側の隠れられる洞穴の中にでも身を隠しておきたいところですが『妖魔退魔師ようまたいまし』が目を光らせている内は、そこまで欲を出すのは危険だでしょうねぇ。しかしあまりに大人数で『旅籠町』へ向かうというのも危険と言えば危険ですしねぇ……」


「そうですね……。あれから既に数日が経っていますし『式』を通じてあらゆる町に間諜やら見張りが事情を得ながら、我々を追っていてもおかしくはないでしょう」


「ゲンロク以外の奴には知られてはいなかったでしょうが、私が『退魔組』の『サテツ』と裏で繋がっている事は、もうバラされている事でしょうしね。ふむ、キクゾウ。お主がこの場に居る半分の者達の指揮をとって、先にケイノト近くの目立たない洞穴で『旅籠町』から戻った私達を待っていなさい」


「分かりました。それではヒュウガ様と連絡を常に取り合えるように『浮梟うふく』を再び使役しておきます」


 ヒュウガは自分の考えていた通りの事をキクゾウが口にするので、物分かりもよく機転も利くとばかりに、認めるような視線を向けるのであった。


「それでは我々はこちらの道から向かいますので、毎日決まった時間に定時連絡用の『式』を夜にでも『旅籠町』近くの見晴らしのいい盆地付近の高い山に飛ばして下さい」


「イツキの子飼いの組織のアジトが近くにあった、あの盆地地帯の西側の高い山の方で構わないか?」


「それで構いませんヒュウガ様『浮梟うふく』がよく見渡せるように、高い山の空辺りを目安にして下さい」


「ああ。こちらも人型の姿の取れる『』を放ちますから『式』同士で互いの情報を共有する事にするとしましょう」


「宜しくお願いします、それではまた後ほど……」


 キクゾウが別れの挨拶を告げるとヒュウガに向けて、キクゾウについて行く事が決まった大勢の『妖魔召士ようましょうし』達が頭を下げた。


 キクゾウ達がケイノト方面へと向かっていく後ろ姿を見届けた後、ヒュウガ達も旅籠町の方へと歩を進め始めるのであった。

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