第1074話 冷酷無比な追及

「分かっておるよミスズ殿。謝罪して許してもらえる事ではない事は分かっているが、ひとまずは部下の不手際を謝らせてくれ」


 そう言ってゲンロクは居住まいを正すと『妖魔召士ようましょうし』組織の代表として、シゲンやミスズ、その他『妖魔退魔師ようまたいまし』の者達に深々と頭を下げて、謝罪の言葉を口にするのであった。


「「ゲンロク様……!!」」


 本来はこの場でゲンロクと同じように頭を下げなければならない、張本人の筈のヒュウガは、責任を逃れてさっさと里を逃げ出して去って行き、たった一人ゲンロクは『妖魔召士ようましょうし』の長として、部下の起こした不始末に対して『妖魔退魔師ようまたいまし』達に謝罪をするのであった。


 自分の子供くらいの年齢のシゲンやミスズ達に頭を下げるゲンロクを見て、彼らと同世代の者達は悔しい思いを抱えながらも、その場に居る『妖魔召士ようましょうし』一同、ゲンロクに倣って一様に頭を下げるのであった。


 …………


 どうやら彼女の予想以上にゲンロクという男は『妖魔召士ようましょうし』の長として、を持っていたようである。


 先程ゲンロクに対してヒュウガがこの場に居ない理由を訊ねたミスズだが、当然彼女はケイノトに居る間諜を通してヒュウガが原因で『予備群よびぐん』のコウゾウが襲われる事になった事や、この場に居ないのは、責任逃れをしたのだろうという予想は簡単についていた。


 その上でわざとゲンロクの口から、ヒュウガの事をはなさせて、色々な感情をあえてこの場で表に出させて、失言や失礼な態度を出させるように仕向けた後『妖魔退魔師ようまたいまし』側に更に有利な方向へと話を持っていこうと企てていたのだが、その色々な感情を呑み込んでか、そこまでは分からないが、謝罪を行ったゲンロクに対して副総長ミスズは気が削がれた様子と言うべきか、拍子抜けをしてしまった。


 ゲンロクが本音で謝罪をしたのか、それともミスズの意図を読んで『妖魔召士ようましょうし』側の立場をこれ以上悪くさせないようにあえて謝罪をしたのかまでは、このゲンロクの様子からは探れなかったが、どちらにせよこれでミスズの思っていた目論見通りには事が運べなくなってしまった。


(まぁいいでしょう……。どちらにせよゲンロク殿がこの様子では『妖魔召士ようましょうし』側がうちと本気で事を構えるつもりはない事が分かりましたしね。それならばそれで、こちらが戦争をちらつかせるような発言で誘導して、色々とこちらに有利な条件を叩きつけてしまいましょうか)


 普通の人間ならばこうして頭を下げて誠心誠意謝罪をする人間を前にすれば、色々と同情心が芽生えたり、頭をあげさせようとしたりするものだが、ミスズは無表情のままゲンロク達の下げている頭を見ながら、どうやって『妖魔召士ようましょうし』というと頭の中で冷酷な考えを張り巡らせるのであった。


 そんなミスズの考えを分かっているのか、総長のシゲンは腕を組んだままで、まだ何も発言をせずにちらりと副総長のミスズを一瞥する。どうやら彼の出番はまだ先のようであり、この場はまだ更に自分が先に進めても良いと言う事なのだろう。


 シゲンの視線をそう解釈したミスズは、眼鏡をくいっとあげた後、まだ頭を下げて謝罪を続けているゲンロク達に口を開いた。


「貴方がたの気持ちはよく分かりました。頭をあげて下さいゲンロク殿。それに『妖魔召士ようましょうし』の皆様がたも」


 ミスズは慈しむような笑みを見せながら、優しい声で彼らの頭をあげさせる。この場だけを見れば、ミスズの人柄が素晴らしく映る事だろう。


 ミスズの言葉を聞いたゲンロクは、ゆっくりと頭を起こしてもう一度軽く頭を下げるのだった。


「しかしもちろんこのまま何もお咎め無しというわけにもいきません。このままそちら側の謝罪の言葉と態度のみで済ませてしまえば、また同じことが起きた時にこちら側としてもそちら側としてもいい結果を招かない事でしょうし、下手な前例を作るわけにも参りませんでしょう?」


 そう告げるミスズの顔は誰が見ても心苦しそうに映っていて、言いたくはなくとも心を鬼にして喋っていますといった風に見えた。


 隣に居るヒノエは『をよく知っている為に『よくそんな言葉がぽんぽん出てくるな』とばかりに心の中で感心をするのであった。

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