第1038話 地獄の一丁目
「それでは、直ぐに戻って参りますので」
そう言って踵を返したシグレが再び戸に手を掛けるが、その背を向けたシグレのうなじに目を吸い寄せられたセルバスは慌ててその後ろ姿に声を掛けた。
「あ、い、いや、ま、待て! お、お前もあれだけの怪我をしていたんだから無理はするな。俺達が自分で呑む酒くらい自分で運ぶ。だから……、一緒に行くから場所を教えてくれ!」
シグレは再びきょとんとした表情を浮かべたが、食い下がるセルバスに根負けをしてその優しい言葉に、お願いしますとばかりに頭を下げるのだった。
…………
その頃一足先に屯所の執務室に戻ってきていたコウゾウだが、机に突っ伏したかと思えば、そのまま溜息を吐いていた。
彼はソフィやヌー達の酒のペースについていけず、休憩だと告げて数人の『
「ふぅっ、やはり俺は酒が弱いな。ソフィ達殿と同じペースで酒を呑んでいたら潰されちまうよ」
他の部下達も同じ気持ちだったのだろう。コウゾウの言葉を聞いて、同意をするように笑みを浮かべるのだった。
「それで例の彼らは大人しくしているのか?」
声のトーンが変わったのを確認した部下達は、コウゾウの言葉にこくりと頷く。
「『
コウゾウが言った彼らというのは、地下に居る『
現在はソフィとエイジの手によって気絶させられて大人しく寝ているが、問題はソフィ達がこの屯所を去って『サカダイ』へと向かった後の事であった。
ソフィ殿に届けてもらう書簡が『
サカダイから派遣されてきた『
『
首を落として即座に殺すという話であれば、捕えた時点で『
しかしその事にコウゾウ達が悩んでいたところに『我が結界を張ろうか』とソフィが何でも無い事のようにそう提案をしてくれたのである。
そして現在は地下だけではなく、この屯所全体にソフィの『結界』が張られている状況である。
ソフィ殿が言うにはこの結界内では今後、魔法という物や魔力を使って行う全ての行為が制限されて使えばその者の魔力を吸い上げて、即座に枯渇させるという物らしい。
『
エイジ殿曰く『
『
「術や魔法とやらを無効化させた挙句、更に同じ事をさせないように、相手から魔力を奪う『結界』か。ここはまるで『
「はははっ! 術を無効化させる事で一丁目。魔力を奪う事で二丁目へと続いていく。つまり隊長が言いたい事は、この屯所の地下から更に地獄へと続いて行くという事を言いたいのでしょう?」
「いや、笑い事でもないんだが『
「絶対に敵に回したくはない方々達ですよね……」
コウゾウも部下達も互いに顔を見合わせるが、それ以上の言葉が出せず、執務室は静寂に包まれるのであった。
……
……
……
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