第1004話 野蛮な妖魔召士達

 セルバスは先程のヌーのオーラと、あっさりとヒロキという男を消し去った時の魔法の威力を見て、自分が知っている時のヌーとはまた比べ物にならない程に強くなっている事を知り、顔を歪ませてこの場に居る事を後悔していた。


(非常にまずい事になった。最初はサッサとこの世界から離れるだけでいいと考えていたが、ヌーの野郎は俺と同じく『概念跳躍アルム・ノーティア』を使えやがる筈だ。どうやらヌー達はまだ、俺が『煌聖の教団こうせいきょうだん』の『セルバス』だとは気づいていないようだが、勝手にこの世界から離れたら追いかけてくるかもしれん……。ヌーだけに事情を説明して置く方が賢明だろうか? それとも『代替身体だいたいしんたい』を明かさずにこのままミラ様の元まで向かうべきなのか?)


 セルバスは生き残る為に何が一番正しい判断かが分からずに、決めあぐねるのだった。先程まで自分を見張っていたシグレとかいう女は、この組織の連中を捕縛しに向かっている上、あの化け物もヌー達と会話をしていてこちらに意識が向いていない。


 今であれば『隠幕ハイド・カーテン』を使いこの場を離れる事は出来るだろう。しかしヌーがソフィと協力的な関係にある以上、この場を一時的に離れられたとしても結局は彼の魔力を探知して、別世界まで探し当てられてしまう事だろう。その時にヌーがソフィをアレルバレルの世界まで連れてきてしまえば彼は、組織や総帥であるミラに重大な迷惑をかけてしまう事になる。


 あれだけ苦労をしてこの『ソフィ』という目の前に居る魔族を別世界に追いやったというのに、セルバスという一体の魔族の所為で再び大魔王ソフィを『アレルバレル』の世界に戻すようなことがあれば、下手をすれば彼本人が『煌聖の教団こうせいきょうだん』から命を狙われるかもしれない。


(ど、どうする? どうすればいい?)


 まだセルバスは『煌聖の教団こうせいきょうだん』が、ソフィ達によって滅ぼされた事を知らない為、を勝手にしながら一人狼狽するのであった。


 ………

 ……

 …


「これは驚かされたな。奴らが退魔組の『特別退魔士とくたいま』を葬ったという話を聞かされてはいたが、今のの威力はそんな規模ではなかった」


「どうやらヒュウガ様が私たちに動く様に命令された理由が、明確に理解出来たわね? あの『二人組』の片割れは、退魔組連中の『特別退魔士とくたいま』なんて目じゃないわよ。下手をすれば私たち『妖魔召士ようましょうし』の魔力に匹敵する」


 ヒュウガの直属の妖魔召士であるキネツグとチアキは、先程『煌鴟梟こうしきょう』のアジト内で『』を用いて大幅に強さを増したヌーに対して、危険度を大幅に上げた様子であった。


「どうやらこの場に『予備群よびぐん』は数人しか居ないようだし、もう様子見何て言わずに乗り込んで全員やっちまうか?」


 悠長に様子を見ている気分ではなくなったのか『妖魔召士ようましょうし』のキネツグは、物騒な事を口にし始める。


「分かってるの? 相手を『退の『予備群よびぐん』と理解した上で襲い死なせたとあれば『妖魔退魔師ようまたいまし』側と戦争よ?」


 チアキはキネツグに確認をとるような言葉を吐くが、その顔は笑みを浮かべていた。


 二人共『妖魔召士ようましょうし』の組織に所属する者達ではあるが、前時代のような組織を最優先に考えて行動をする『妖魔召士ようましょうし』達ではない。


 それもヒュウガ派である彼女たちは、組織の暫定の長である『ゲンロク』をその座から失脚させて『ヒュウガ』を長に挿げ替えようとさえ考えている。


 今、こうして自分達を追手に差し向けている事もゲンロク様に知られてしまえば、ヒュウガ様は立場がなくなるだろう。


 No.2の座に居るヒュウガであっても組織の長が下した決定に逆らえば、それなりに重い罪に問われる事に間違いはない。


 それを覚悟でこうして自分達を差し向けたのである。そうであるならば、更に問題を大きくさせて無茶苦茶にしてやれば、ヒュウガに対しての処罰よりも他の事に手を出さざるを得なくなる。


 一度処分を有耶無耶うやむやにさせて、その後でもっと大きな功績を残せば事態は好転する事に繋がるかもしれない。


 キネツグもチアキも元々改革派の『妖魔召士ようましょうし』達である。だからこそゲンロク達、である里に居るのである。そんな彼女たちは、ある事柄に停滞するくらいなら少しでも可能性のある事を選び、積極的に推し進めようと考える。


 ――『後悔などは失敗してから考えればいい』。


 正に読んで字のごとく、そう考える厄介な『妖魔召士ようましょうし』の者達であった。守旧派の『エイジ』がこの話を聞けば卒倒してもおかしくはない。


 しかし後先考えずに行動する彼女たちではあるが、それを出来るだけの力も当然保有している。単なる不遜ふそんな輩の蛮勇というよりかは、事ある毎にいさかいや戦争を引き起こし、独立独歩どくりつどっぽの精神を持つ『アレルバレル』の世界出身の魔族に近い考えかもしれない。


「なぁに最悪バレなければ問題ないだろう? 全員八つ裂きにして『式』の餌にでもして死体を葬っちまおう」


「ふふふ、気が合うじゃない。別にばれても関係無いわね。全部ゲンロク様に、責任を擦り付けてやりましょうか」


 二人は物騒で野蛮な事を平気で口にし合う。


「お前は本当に恐ろしい性格してるよ」


「ふふ。止めないアンタも良い性格してるけどね?」


 互いに笑い合うとそのまま『式』である鳥類の妖魔に『煌鴟梟こうしきょう』のアジト内へ向かうように指示を出すのであった。


 ……

 ……

 ……

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