第949話 ソフィの作戦

 ソフィは前にもコウゾウに喧嘩があったと報告してきたのは誰かと尋ねた事があったのだが、その時は守秘義務があるので報告してきた者の事を教えることは出来ないと、コウゾウからキッパリと断られた。


 しかし今こうしてソフィが再びコウゾウに尋ねたのには、単に知りたいから聞いているというワケでは無く、先程男が所属していると言っていた組織『煌鴟梟こうしきょう』とかいう犯罪者集団に宿の主人と関わっているのではないかとソフィが感じ取った為であった。


 コウゾウはソフィが何故そう思ったのかは分からなかったが、確かに報告をしてきたのは、ソフィが泊まっていた宿の主人からだった。


「何故そう思ったのか、聞かせてもらえるか?」


 そしてコウゾウは、気が付くとソフィにそう答えていた。


「いや、そこまで大した考えでは無いのだが、その男がさっき出していたミヤジという男の名前を宿の主人が出しておったのを思い出したのだ。そして騒ぎがあった後に、宿の主人は顔を出してはおらぬ。攫うのを失敗したから喧嘩という事にして我達をお主ら護衛隊に捕らえさせて、自分たちは逃げたのではないかと思ってな」


 最初から宿に誘ってきた男がミヤジと言う男であったならば、その宿に誘ってきたミヤジという男と、宿の主人はグルだと思ったのである。何か確信があったわけでも無く、単にソフィは疑問に思った事が繋がり、その疑問を口にしただけであった。


 しかしソフィのその事情を聞いたコウゾウは、直ぐに行動を起こした。


「お前達! 直ぐに宿の主人を探せ! それにさっき行った酒場の店主も見つけ出してくるのだ!」


「えっ! わ、分かりました!」


 護衛隊の者達は直ぐにコウゾウの命令に従い、走ってその場から去ろうとする。しかしそこでソフィは『金色の目ゴールド・アイ』を使って護衛の男たちの足を強引に止めるのであった。


「まぁ待て。表立ってお主達が動けば逆に奴らは逃げようとするだろう。まだ奴らがこやつらとグルだという確証はない」


 ソフィがそう言うとコウゾウは直ぐに反論する。


「その確証を得るために宿の主人を押さえねばならぬだろう! 今ならばまだ報告があってからそこまで時間は経っていない。急がねばせっかくの手掛かりを取り逃がしてしまうのだ!」


「いや、逆にこの男を釈放してやるのだ」


 見当外れな事を言い始めたソフィに、コウゾウは正気かとばかりに視線をソフィに向けるのであった。


「まぁ聞くのだ、コウゾウ殿。もし宿の主人がこやつらの組織とグルなのであれば、この男の動向を今も注視している事だろう。宿の主人がお主に報告をしたのであれば、この男を護衛隊の屯所から解放するところを見れば必ずこの男に事情を聞こうと接触してくる。こちらから追うのではなく、奴らを泳がせてむしろ、そしてこちらにおびき寄せるのだ」


「な、なるほど……。そういう事か。奴らがグルであるならば、自分達が関わっているという事を知るこの男が、俺達に捕まった後に釈放される事でバラされなかったと判断するか、そうでなくとも中であったことを聞き出そうとこの男に近づいてくるという事か」


「うむ。そう言う事だ」


 確かにこのまま護衛隊の部下を使って宿の主人を捕らえようと、闇雲に旅籠町中を慌ただしく探したところで見つかる確率は低く、奴らを警戒させるだけかもしれない。それならばこの男の罪状を喧嘩沙汰にしておき、数日程この屯所に入れておいてその後に解放すれば、人攫いだという事はバレなかったと奴らに油断させてこいつに接触してきたところを狙って身柄を押さえてしまえばいい。


 ギャンブルに近い作戦だが、一つの策として考えるならばそこまで悪くはないなと、コウゾウは考える。


「よし、ではお前は二日後に釈放させてやる。大人しくこちらの思惑通りに動いてくれるのならば、お前だけは見逃してやってもいい」


「ほ、本当ですか……!」


 『煌鴟梟こうしきょう』という組織に属しているという人攫いの男は、護衛隊の隊長である『コウゾウ』の言葉に嬉しさを滲ませるのだった。


 釈放をされて嬉しいというよりもどちらかと言えば、あっさりと人の命を奪ってみせたヌーと言う男から助かる可能性が出てきた事が、男にとっては救われたと考えたのかもしれない。


 一向にヌーの方を見ようとしないその男は、何度もソフィとコウゾウに感謝をするように頭を下げるのであった。


 ……

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