　コウゾウに命令をされた護衛隊の男は、騒音があった場所まで急いで向かっていく。そしてそこで壁が突き破られていて、同志の者が手を掛けられていると、勘違いをするのであった。

「き、貴様！！　そこで何をしているか！」

　ソフィは別に護衛隊の男を傷つけていたわけでは無く、地下へと降りる階段の場所を聞き出そうと『金色の目（ゴールド・アイ）』を使ったところであった。

　しかし下から登ってきた男にとっては、攻撃をしているのだと思うのも仕方が無いと言えば、仕方が無いだろう。ソフィの横では不機嫌そうに壁を突き破っていたヌーや、他の者達も小部屋から抜け出して、この場所まで来ていたのである。そして男は壮大な勘違いをするのであった。

（もしかすると地下に居る人攫い疑惑の者達とグルなのでは無いか？　これまで捕らえてきた者達を解放しようと、わざと騒動を起こして屯所に潜り込み、そしてあわよくば全員を屯所から助けようと……）

「あっ……」

　見当違いの勘違いをしている男に向けて、ヌーが『金色の目（ゴールド・アイ）』を使ったのであった。

「ちっ、お前がモタモタしている間に、どんどん人が集まって来るじゃねーか。さっさと場所を聞き出して地下へ向かうぞソフィ」

　自分から騒動を起こしておいてこの言い草である。ソフィはようやく自分の知っている『ヌー』という男の振る舞いに、どこか安心するのであった。

「クックック、それでこそお主よな」

「なに？」

　突然自分を見て安心したとばかりに告げるソフィに、眉を寄せて首を傾げるヌーであった。

　……

　ソフィ達はコウゾウの部下の案内に従いながらその後ろをついて歩いている。元々は最初の男に地下のある場所を『魔瞳（まどう）』で尋ねようとそう考えていたのだが、後から来た男をヌーが操ってそのまま案内を指示したのであった。

　そして先程まで通っていた場所とは違う道を使い、一番最初の部屋の通路へと戻ってきた。ここには地下への階段など無かったはずだとソフィが考えていると、コウゾウの部下の男は立ち止まった。

　そして唐突に床にしゃがみ込んだかと思えば、男はコンコンと地面を叩き始めた。その場所ではなかったようで、くまなくその周囲の床を再度叩き始める。

「奴は一体何をしておるのだ？」

「さぁな。隠し階段でもあるんじゃねえのか」

「うむ。ヌー殿の言う通りだろう。ケイノトの町でも隠し扉や隠し階段は、当然のようにあるからな。小生の家でも隠し扉があっただろう？」

　ソフィはエイジの言葉を聞いて、そういえば確かに隠れる場所があったなと、エイジの長屋を思い浮かべるのだった。

　そしてそんな事を考えていると床を叩いていた男が、お目当ての場所を探し当てたようで、執拗に同じ箇所を叩き始めた。確かにその場所は、別の場所よりも音が軽く感じられる。よく聞いていなければ分からない程度の違いだったが、この場所に隠し階段があると分かっている者であれば、十分に聞き分けられるようだった。

　護衛隊の男がダミーの床をこじ開けると、その下に灯りが見え始める。どうやらここが地下への入り口なのだろう。男はそのまま床に身を伏せた状態で開けた穴に手を突っ込み、何やら操作をしているような動きを見せる。何をしているのだろうかと、ソフィが近づいて覗き込むと、どうやら開けた穴付近に見分けづらい木の収納梯子があった。

　男が器用に梯子を落とすと、ペコンという気の抜ける音と共に、木で出来た収納梯子が地下へと落ちていった。

「手の掛かった仕掛けだな」

　ほうっと感心したような溜息を吐いて、ソフィは男が梯子に足をかけながら降りて行く姿を見る。もしこの場に忍者であるリーネやスイレンが居たら故郷を思い出して、懐かしいと騒いでいたかもしれない。

　ソフィ達は先導する男と同じように、梯子からコウゾウの居る地下へと降りて行くのであった。

　……