第918話 まだ見ぬ妖魔退魔師の認識

 ソフィ達はエイジの案内で里から徒歩で南下していく。ケイノトからゲンロクの里に行くときに通った道ではなく、どうやら言っていた旅籠の場所へと向かっているのだろう。


 ソフィはをヌーに内緒でテアに伝えたいのだが、神格を持つ死神であるテアとは『念話テレパシー』や『レパート』の魔法を使用しても会話が行えない為に、同じ神格を持つ魔神を介して話をしたいと考えるのであった。


「それにしても旅籠には護衛の退魔士が居るとは言っていたが、その者達はケイノトの退魔士達が居たりはしないのか?」


 ソフィはケイノトに居た退魔組の者達を思い出して、エイジに向けてその事を聞いてみるのだった。


 ゲンロク自身は今の退魔組の現場の動向には、あまり関わってはいないようだったが、それでも退魔組の創始者である。当然関係が無いわけがなく、ヒュウガの使いが紛れ込んでいる可能性がある為、その事をエイジに尋ねたのだが、返ってきた言葉は予想外の言葉だった。


「安心召されよ。よっぽどの事が無い限り、退魔組に属する者達は、ケイノト以外には居らぬ」


「ほう? 断言するのには何か理由があるのか?」


「ああ、小生達が利用しようとしている旅籠は、ケイノトの管轄外の場所にある町だからな。退魔組はあくまでケイノトの管轄内や町の者達を守る為に作られた組織だ。ここまで離れてしまえばよっぽどのことが無い限りは居ないだろう」


 ソフィにはあまり答えにはなっていない返事だったのだが、まぁエイジがここまで言い切るのだから、そこまで心配は無いのだろう。


「退魔士の護衛か。我は退魔組の退魔士しか知らぬのだが、やはり他の町の退魔士とやらもタクシンやミカゲのような強さなのか?」


 『妖魔召士ようましょうし』よりは弱いと聞かされていたが、それでもタクシンは戦力値的には、九大魔王を上回る程の戦力値を持っていた。


 直接戦えば流石に戦闘経験の差でタクシンと戦ったヌーのような結果になるだろうが、それでも同じくらいの戦力値を持っているというだけでも相当に強い者達である。


「いや、ケイノトの退魔士のようにゲンロクの術式を使える者でも無ければ、妖魔を『式』にすることも出来ぬし『捉術そくじゅつ』なども扱えぬ者達だ。あくまで刀を用いてランクの低い妖魔を討伐出来る程の力しか持ってはおらぬ」


 どうやら退魔組の退魔士が特別だったようで、基本的にこの世界の退魔士とはミカゲ達の護衛を務めていたを指すようであった。


「少々色々とややこしいのだな。刀を使う退魔士にお主のような『妖魔召士ようましょうし』とやらの術を使う退魔士。はては刀や剣を使う退魔士と同じような剣士も居て、それが『妖魔退魔師ようまたいまし』なのだろう?」


 元々この世界の存在では無いソフィにしてみれば、似て非なる組織が多すぎて、把握するのが難しいと考えるのだった。


「うーむ、そこまで難しく考えずともよいのだがな。あくまで今代は『ゲンロク』の奴が編み出した術式の所為でここまでややこしい所属の者達が増えたが、元々は妖魔と戦える者達を退魔士と呼んでいたのだ。退魔士は単に刀で戦うか捉術で戦うかの二種類しかなく、妖魔を使役したりする者が妖魔召士という感じで捉えて貰えれば分かりやすいと思われる」


「成程。では『妖魔退魔師ようまたいまし』という連中は刀で戦い『退魔士』とやらよりは少し強いくらいだと思っても大丈夫なのか?」


 この世界に来てまだケイノトの退魔士以外見たことが無いソフィは、直接『妖魔召士ようましょうし』と戦ったのもエイジくらいなもので『妖魔退魔師ようまたいまし』などは、見た事すらなかった筈である。


 当然の事ながらソフィの認識としては、先程の言葉程度にしか理解出来てはいないのだった。


「いや妖魔と戦うという点では変わらないが、護衛を務める退魔士の剣士と、妖魔を滅する事を生業とする『妖魔退魔師ようまたいまし』は全く異なるな」


「そうなのか?」


 全く同じような感じだと思っていたソフィが、そう問い返すとエイジは足を止めた。


「あやつら妖魔退魔師とは、必ず敵対してはならぬ。たとえ稚児程の年齢であっても『妖魔退魔師ようまたいまし』と名乗れる者であれば、小生であっても手が一切抜けぬ相手であろうからな」


 その言葉にソフィも驚いたが、背後で聞き耳を立てていたヌーもまた、驚きで眉を寄せるのであった。


 ……

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