ゲンロクの里編

第901話 結界に隠された道

 退魔組を創設したゲンロクという『妖魔召士ようましょうし』の居る里へ向かうソフィ達。

 ゲンロクの居る里へは『ケイノト』からそこまで距離的には離れてはいないようで、ケイノトから更に北にある『妖魔山ようまざん』との間にあるらしい。


 ゲンロクは元々『ケイノト』に住んでいたようだが、どうやら先の『妖魔団の乱』以降に妖魔山からの妖魔の襲撃からケイノトを守る為『妖魔召士ようましょうし』数人を連れて、用意していた近くの里へと移り住んだようだ。


 当然北の『妖魔山ようまざん』に移り住んだ事で、ケイノトの西や南に住んでいる妖魔からの襲撃は手が回らず、その為に町から希望者を募り、新たに退魔士を育成して『退魔組』という組織を設立したようである。


 ケイノトの町から里へ向かう途中、ゲンロクの話をエイジから聞かされていたソフィ達だったが、出立してから半刻程歩いた先で小さな湖が前方に見えた。


 ここまでは平らな道が続いていたが、この湖が見えた辺りから周囲は木々が目立つようになってきていた。ちょうどエイジはその湖が見える場所で立ち止まって辺りを見回し始める。


「む、どうかしたか?」


 急に先導して里までの道を案内してくれていたエイジが立ち止まった事で、ソフィは不思議そうに声を出した。


「まぁ、少し見ていてくれ」


 エイジがソフィにそう告げると何やら詠唱を始める。すると突然視界の先に広がっていた湖に霧がかかった。そして湖畔の先に岩山だった一部の場所に人が通れるほどの細く小さな道が出来た。


「ほう。これは驚いた……」


 ソフィは突然出来た奥へと続く道を見て、感嘆の声をあげた。そしてそれは横を歩くヌーやテアも一緒だったようで感心したようにその細い道を見た後に辺りを見回した。


「待たせたな、この湖畔の先に里はあるのだ」


 どうやら里へはこの木々に囲まれた岩山の先にあるらしいが、一部の『妖魔召士ようましょうし』が施した結界が張られているようで、その結界を解かなければ入る事はおろか、里の存在すら発見が難しそうである。


 空から見ても木々に囲まれた岩山地帯にしか見えず、襲撃しようにも何処に里があるか分からず、逆に敵の侵入に気づいた里の方から先制攻撃をされてしまうだろう。


「全く分からなかったな。お主は気づけたか?」


 ソフィは横に居るヌーにそう声を掛けるが、ちらりとソフィに視線を送りながら首を横振る。


「貴様が気づかねぇのに、俺が分かるわけがねぇだろうがよ」


 そしてぼそりと声を発したが、その声は更に近くに居たテアにしか聞き取れなかった。


「この仕掛けは確かに高度な結界によって出来てはいるが、一度見られてしまえば役には立たない。お主達を信頼しているからこそ、ゲンロクの元へと案内するのだ」


 そう言ってまた先頭を歩き始めるエイジであった。


「サカダイとやらが管理する崖の向こうに在った森といい、この世界の人間達の使う結界は、独自の魔法のように優れておるのだな」


 ソフィはいいモノを見たとばかりに悠然に頷いているが、ヌーは眉を寄せて険しい表情を浮かべるのだった。


(これはテメェみてぇに呑気に考えていられる事じゃねぇよ。ソフィ程のレベルで瞬時に見抜けねぇってことは『アレルバレル』の世界の『魔界』の大魔王達連中であっても見抜けねぇって事だぞ)


 常に生き残る為にあらゆることを考えて慎重に生きるヌーにとって、この世界の人間達は侮れぬと再び思い始める。今は明確に自分達を襲ってこようとする敵が居ない為に悠長にこんな風に考えていられるが、もしあらゆる場所にこの場所程の規模の結界を施された中で、の人間達が大勢自分を襲ってきた場合、流石にヌーであっても死を覚悟する戦いを強いられるだろう。


 ソフィ達に城で拘束された時の彼は生き延びるために、最善の行動をとって自由を取り戻した気になっていたが、徐々にヌーはこの世界に来た事で考え方を少しずつ変えて行くのであった。

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