第895話 種族の壁を越えて通じ合う
鷺の妖魔である『
『
この場に集まっているイダラマ一派の護衛剣士たちは、流石に一流どころの集まりというべきか。何の前触れも無く現れた『
地面に横たわるイバキの元まで、まだかなりの距離がある。これだけの
しかしそれはランク『2』までの妖魔であればの話である。
『
突如として現れた劉鷺が恐るべき速度で向かってくるのを見て、イダラマ一派は一斉に劉鷺に襲い掛かっていく。一番前に居た剣士の一振りを難なく躱して、その護衛剣士の剣の上を足場にして、更に前方高くへ跳びあがる。跳躍を見せた『
器用に羽を羽搏かせながら剣士達の刀を掻い潜って見事に躱す。二人の影に隠れて三人目の剣士が、姿をすっと見せる。
「とったぁっ!」
三人目の剣士が声を高々にあげながら劉鷺に向けて刀を振り切る。流石に回避が出来ない状況を生み出された劉鷺は、舌打ちをしながらその剣士の迫りくる刀を睨みつける。
『
その覚悟をもって『イダラマ』の護衛剣士の迫りくる刀を見据える。劉鷺の頭の中では、この後の行動を既に張り巡らせている。この襲い掛かってきた三人を抜ければ一直線に道が開く。直ぐに他の者達がその穴を埋めようとしてくるだろうが『
――だからこの一撃で持っていかれる左手は、イバキを助けるための必要な代償なのだ。
そう言い聞かせた劉鷺は、数秒後に来るであろう激痛に耐える為、身体に力を入れて覚悟を決める。
――どすっ。
刃物が刺さる音が聞こえてきた。覚悟をしていた以上は止まるつもりは無い劉鷺だったが、予想より痛みが無いなと感じて、僅かながらに視線を自分の左手に向ける。
だが、まだ自分の腕の先が繋がったままであった。
「?」
自分が斬られた訳ではないと気づいた劉鷺は、そのまま襲い掛かってきた筈の目の前に居る剣士の顔を見る。
その剣士の首に刀が刺さっている。中々に長い刀が深く深く突き刺さっていて、その男の頭の上に居る劉鷺の視線の先では、反対側から貫通している刃の切先が姿を出していた。余程力のあるものが押し込まなければこんなに深く刺さる筈が無いだろう。
しかし自分の周りには『敵』しかいないはずなのに何故? と劉鷺は僅かな時間の間に考えながら右側の木陰で立っている人間を見つける。
――ああ、成程……。
劉鷺は空中で何が起きたかを把握した後、地面に着地してそのままそちらの方を向かずに、自分の主の元へと走り出して向かうのだった。
劉鷺は先程空中に飛んだ時に、視界の端に見つけたのは『
――劉鷺はスーと特別親しかったわけではない。
会話も一度か二度したくらいの間柄であっただろう。だがそれでも、先程空中で一度だけ目が合ったスーからその必死の声なき言葉を受け取った。
――もうそちらに視線を向ける必要はない。
イバキの護衛剣士『スー』と、イバキの『式神』の妖魔である自分。種族間という壁など互いの間には無かった。
――心は既に通じ合えた。
『
彼の目は助けに向かっている自分にそう告げたのである。劉鷺は先程木陰から飛び出した時よりも、もっと大きな感情が胸いっぱいに広がっていくのを感じた。
――今の自分は無敵だ。
志を同じくとする物が贈ってくれた信頼をその身に内包した自分が、裏切ってなるものかよ。
――親愛なる同志よ、安心してくれ。必ず私が
「と、止めろ! 誰か止めろ!!」
慌ててイダラマ一派の者達が声をあげるが、まるで神風の如く恐るべき速度で駆け抜けていく劉鷺を止めに入ろうとしていたイダラマ一派の護衛達は、驚いた様子で見つめる事しか出来なかった。
…………
(イバキを頼んだぞ……)
必死に立ち上がって、唇を噛み切るほどに力を込めて、自分の『同志』の『
そしてその直後、アコウとウガマの両名によって、前と後ろから同時に剣を体に深く突き入れられて、
――ガッチリと固められていた彼のオールバックの前髪の一部が、少しだけ前に垂れてくる。
いつもであれば、ご自慢の艶やかな櫛で整えるその手は――。
――
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