第862話 残酷な契約
「何処から説明をするべきかな」
『
「我はサイヨウからは悪に染まった者に徳を積ませて更生させて、来世で善にするのがサイヨウのような『
サイヨウが言っていた事を口にするソフィに、エイジは耳を傾けて軽く頷いた。
「それはかつて『
エイジが口を開く前に、今度はシュウが説明をしてくれた。
「そう。小生達『
「ふむ……。成程」
「昔は自分よりも弱い妖魔のみを『式』とする事が出来た為『式』にしようとする妖魔より強い者しか『
「それが今では、誰でも出来るようになったという事か?」
「誰でもというワケでは無いが、敷居が大きく下がったのは紛れもない事実だ。この新たに生まれた術式は『式』にしたい妖魔に対して、一時的に力を制御させる事の出来る術式なのだが、当然かなりの魔力が必要となる為にほとんどの退魔士は使えない。一定以上の魔力がある者達、退魔組の連中達で言えば『
どうやらその新たに作られた術式が動忍鬼達の言っていた話に繋がっているのだろうと、ソフィはアタリをつけるのだった。
「妖魔から人間を守る退魔士が、かつてより増えてくれたのはいい事なのだ。小生も『
エイジがそこで一度口を閉ざすと、シュウが代わりに口を開く。
「エイちゃんは他の『
「一部分を除いて?」
シュウの言葉に頷きを見せていたソフィだったが、含みのある言葉につい言葉を挟んでしまうのだった。
「小生とて仲間や町の者達を守る為に、退魔士達が戦う術を身につけてくれた事は、大いに感謝しているし、その気概は立派なモノだと認めているのだが、先程の新たな
シュウがソフィの疑問に答えようとしたが、本人が口を開いた為に今度はシュウが口を閉ざして、エイジの言葉に頷く。
「それはどう言った術式なのだ?」
「弱らせた妖魔を
エイジの言葉を聞いたソフィは、動忍鬼の言っていた事は間違いなくこの
「この新たな術式の元となったモノは、元々『
「意思なく契約させて、成立するものなのか?」
「新たな術式とは言ったが『契約術式』そのものは『
「そんな方法が問題にならずにまかり通っておるのか……?」
「当然『
「それは、前提にあるものが人間を守る為だからか?」
ソフィの言葉に重苦しい溜息を吐きながら、首を縦に振って頷くエイジであった。小声でヌーがテアと会話をしている声が聞こえた。どうやらテアの方からどういう話をしているのかをヌーに聞いたのだろう。今までのエイジの話をテアに通訳していた。
しかしソフィはそんなヌーとテアの会話よりもエイジの言葉を聞いた事によって、何故『
(あやつは……、あやつらは望まぬ契約を結ばせられた挙句に、自我を失わされて嫌々戦わされていたのか……)
ソフィは今の話を聞いた上で、動忍鬼の辛そうな顔を思い出した。
(つまりあやつは仲間達が強引に従わされていたのを知っていて、それを助けようとして逆に自分も捕まってしまった)
動忍鬼が『タクシン』に『式』にされてからどれくらいの期間が経っていたのかまでは、ソフィには分からない。しかし『式』の呪縛から解放された時に動忍鬼は言っていた。
――『あの人間の寿命が終わるあと数十年は、我慢しないといけないと思っていた』と。
苦しんでいる同胞を救えず、自分もまた同じく望まぬ契約をさせられて、自我を失わされた挙句、戦いたくもない戦いを強いられていた。それも戦わされる相手は、動忍鬼と同じ妖魔なのである。
もしかしたら自分の記憶が無い間に、彼女の友人や仲間を殺させられていたかもしれない。
(我はあの時なんと惨い事をあやつに言ってしまったのだろうか)
ソフィがあの時に『
――『成し遂げたい思いがあるのであれば、それを叶えられるだけの力を持て』
この言葉は間違いでは無い。しかし間違いでは無いが理屈では無いのだ。無念で無念でどうしようもなく、悲しく辛い日々を過ごさせられていたのだ。
それがようやくソフィ達に出会う事で、幸運にも『式』の呪縛から解放された。
そうであるならば今直ぐにでも同胞達を無理矢理従わせている人間達の元に向かい、
「おいてめぇ……。そのツラは何だよ?」
テアに『式』の術式の説明を行っていたヌーは、ふと恐ろしい形相を浮かべていたソフィに気づいて声を掛ける。
しかしそのヌーの問いかけにソフィは答えない。今ソフィはその余裕が無い。
――今ソフィの胸中では、とある感情が渦巻いていたのである。
「おい、ソフィ! 聞いていやがるの……かっ……よ」
――ソフィは声は出さなかった。
別にヌーに何かをしたわけでは無かった。単に顔をあげてヌーの方を見ただけだった。
しかしたったそれだけだったというのに、ソフィと視線が合ったヌーとその横でソフィの目を見てしまったテアは同時に竦み上がった。
「すまぬが少し待ってくれ……。気持ちの整理をつけたい」
先にテアがソフィの視線で縮こまっていた体が動いたようで、慌てて何度も頷きながら横に居るヌーの頭に手を置いて、強引にその頭を掴んで下げさせる。
テアは契約主であるヌーを守る為にそういった行動に出たのだが、ペコペコと頭を下げさせるように何度も何度もテアがヌーの頭を掴んで上下に振ってきたことで、動けるようになったヌーはブチギレた。
「て、てめぇ! テア! 何しやがる!」
「――!」(ば、馬鹿! てめぇの命を守ってやろうと思ったんだよ! この御方を怒らせるな! 何かやべぇっ!!)
そのテアとヌーの様子にシュウは笑っていたが、エイジはそちらを見ずにソフィを見て感心していた。
どうやら先程の話で、ソフィの抱いた感情を理解したのだろう。
彼らは『流石はサイヨウ様と友人だけの事はある』とばかりに、ソフィを認めるような視線と頷きを見せるのであった。
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