第775話 特殊な結界

 リーネ達と別れたソフィは『高等移動呪文アポイント』を使い、レアの待つレイズ城へと向かっていたが、レイズ城を覆うように張られている結界を見て、レイズ城の近くの空で立ち止まった。


「この結界はシスやエルシスの物では無いな。かといって魔族が得意とする結界とも違う……」


 魔族の張る結界は基本的に『魔』に対して抵抗力のある結界が一般的である。何故ならアレルバレルの世界の魔族のように高魔力を持つ者が、遠くから一度に広域範囲を対象とした極大魔法を放ってくるからである。


 しかし今レイズ城を覆う結界はどちらかというと、物理に対して効力を持つ結界なのだとソフィには感じられたのである。こういった結界はイリーガルのような、剣士や戦士の放つ『衝撃波』タイプの攻撃に対する防御力が高く、対物理に効果的な結界であった。


 こういうタイプの結界は、ソフィにとっては珍しく感じられた。


 ソフィの知り合いの中にはこのタイプの『結界』を使う者は少なく、この結界の下位互換と呼べるモノをかつてラルフが殺し屋だった時に『サシス』の街で『』に使っているのを見た程度であった。


「ふーむ……。強引に結界を壊せばこの結界の主に『感知』されるだろうが、レイズ城に用がある以上は避けては通れぬしな」


 ソフィはそう結論付けると、結界に対して魔力圧を放とうと魔力を高め始める。しかしそこでソフィの元に『念話テレパシー』が入った。


(待って、ソフィさん! 結界を壊さないで!)


 ソフィに届いた『念話テレパシー』の声の主は、このレイズ魔国の女王シスであった。


(むっ! 分かった)


 レイズに入ろうとして結界を破壊しようとしたソフィだったが、直ぐに高めた魔力を元に戻し直すのであった。そしてその後すぐに目の前の結界が、鈍く低い音を立てながら消えていった。


(ソフィさん! もう入って大丈夫よ!)


(では、入らせてもらうぞ)


 シスの言葉通りに目の前の結界が無くなるのを確認し終えたソフィは、空からレイズの中に入っていくのであった。レイズ城を空から見下ろすと、中庭にキーリやレア達の姿が見えた。


 あちら側も空に居るソフィを発見したのかレアやユファがこちらに向けて手を振っている。ソフィは中庭に向けて、降り立つのだった。


 ソフィが降り立つと同時、その場にいた者達が集まって来る。


「ソフィ様! お帰りなさいませ」


 ラルフが最初にソフィの元に来て挨拶をする。


「うむ、久しぶりじゃなラルフよ」


「ソフィ様……! お久しぶり……です!」


「うむ、お主も久しぶりだ」


 慣れていない敬語で挨拶をするのは、始祖龍のキーリであった。


「お帰りなさいませ、ソフィ様!」


 キーリの頭に手を置いて撫でていたソフィは、その声に顔をあげると頭を下げているユファの姿が見えた。


「おお、ユファよ、この前はすまなかったな」


「この前の事……? ああ、いえ! 当然の事をしたまでですから」


 一瞬何の事を言われているか分からなかったユファだったが、直ぐにピンときて、ソフィの言葉に返事をするのであった。


 組織の者達がリラリオの世界に攻め込んでくるかもしれないからと、ソフィがレアにリーネやラルフ達の様子を見に行ってきて欲しいと頼んだ時の事。中々戻ってこないレアを心配して、今度はレアの安否を確かめるようにユファに頼んだのであった。


 結局レアとは行き違いになったのだが、そのおかげでヌーの『汚染魔法』で、危機に瀕していたエルシスをユファが救ったのだと、後にシスに聞かされていたのである。


 まさかそんな事になるとは思っていなかった為、ソフィも驚く事となった。

 あの時にユファがシスを助けに行かなければ、今頃は大変な事になっていただろう。


 横に居るシスもユファのおかげで助かりましたとばかりに、ユファに笑みを向ける。


「ソフィ殿、久しぶりじゃな」


 そして声の方を振り返ると、そこにはリディアと一緒に居たサイヨウが、こちらに向かって来るのだった。


「おお、お主も久しぶりだサイヨウ。成程、この城の結界はお主の結界だったのだな」


 その言葉に頷きを見せる、サイヨウだった。


「縁あってそこのラルフ殿と、リディア殿の両名を鍛える事となったのだが、この二人を鍛えるとなると、結界を要すると小生は判断したのだ」


「ほう! お主がラルフとリディアをか」


 ソフィは遠くでこちらを見ているリディアを一瞥する。

 するとリディアは、ソフィに頷きを返すのであった。


「ねぇソフィ様。時間が差し迫ってなければ、もう少しだけお時間いただいても宜しいですか? 彼らの修行を見ていたいのです」


 この後フルーフをこの世界に呼んで、再びアレルバレルの世界へと戻るつもりだったソフィだが、レアのいう通り自分の配下とリディアが、サイヨウに鍛えられていると知ったソフィは、もう数日程度であれば、予定を遅らせてもいいだろうと考えるのだった。


 何よりソフィが認めたリディアとラルフの双方を強くしてもらっていると知って、自分もその様子を見てみたいと考えたようであった。


(ヌーはイリーガルやブラスト達が見張ってくれておるだろうし、フルーフもゆっくりしろと言っていた。ここは少しだけ甘えても許されるだろう)


「我も見学して言っても良いかな?」


 ソフィはレアに頷きを見せた後、サイヨウにそう尋ねる。


「もちろん構わぬよ。とても良いタイミングだったぞソフィ殿。リディア殿は一日ぶりに、修行の再開をするところだったのだ」


 そう言うとサイヨウは懐から式神の札を一枚取り出すと、何やら詠唱を始める。


「ほう……?」


 サイヨウの詠唱により一枚の『式札』から『鬼女』が、再びその姿を見せ始めるのだった。

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