第747話 ソフィを想う者達

 魔王城に戻ったソフィをイリーガル達が出迎えてくれた。


「親分」


「うむ。留守中何かなかったか?」


「特に何もありませんでしたが、フルーフ殿が親分が戻ってきたら会いに来て欲しいと言ってましたぜ」


「……フルーフが? 分かった、直ぐに向かう」


「はい、それから親分」


 フルーフに宛がった部屋に向かおうとしていたソフィは、そこで再び足を止めてイリーガルの方を振り返った。


「俺達は親分の配下です。気を遣わずに何でも命令してくださいよ?」


「突然どうしたというのだ」


「いえ。ただ組織の連中と片をつけた後から、親分が随分と……。いや、やっぱり何でもありません」


「クックック、おかしな奴だな」


 何かを言おうとして取りやめたイリーガルを見て、ソフィは先程ミューテリアにも何か気を遣わせていたなと思い返す。


「そうだな。頼りにさせてもらうぞイリーガルよ」


「は、はい! 何でも言ってくださいよ? いつでもお待ちしておりますから!」


 そう言って凄い勢いで頭を下げるイリーガルを見て、ソフィは全く愉快な奴だなと思いながら、とばかりに、いつもの笑いを見せるのだった。


 ……

 ……

 ……


「やっぱりソフィ様の様子は、いつもと違っていたよな?」


「ああ。ソフィ様は『煌聖の教団』の連中との戦争が終わってからどこか寂し気だ」


 彼らの主の姿が見えなくなった後、姿を見せたブラストに話を振るイリーガル。


「別世界へ跳ばされたを思っておられるのかもしれんな」


「それももちろんあるのだろうが、もしかするとソフィ様は敵だと思っていたあのミラとかいうイカレた野郎に心の奥底では、ある種のをしていたのかもしれんな」


「はっ……! 馬鹿な。それは無い。親分が直々に言っておられたではないか。アイツは仲間達に手を出しただと。そんな奴に期待を寄せる親分じゃねーよ」


「ちっ……。そんな事は分かってんだよ! てめぇは相変わらず頭が固い野郎だな! だから心の奥底ではって言ってんじゃねぇか!」


「誰の頭が固いだと!? てめぇに言われたら終いだ」


「ああっ!?」


 突然言い争いを始めたイリーガルとブラストだったが、そこに一体の魔族が割って入った。


「ちょっと……! 廊下で騒がないでよ 頭に響くでしょう!」


 どうやら歓迎の宴の場でずっと飲み続けていたのだろうエイネは、頭を押さえながら水を片手に姿を見せたのだった。


「エイネか」


「聞いてくれよエイネ、コイツが悪いんだよ」


「ハイハイ、どっちでもいいからアンタらも戻りなさい」


『女帝』はそう言った後、二人の背中を押して今も尚、宴の行われている部屋に連れていくのだった。


 ……

 ……

 ……


 魔王城の中にある部屋の一室が、コンコンとノックされた。


「ソフィか。待っておったぞ」


 部屋の扉が開かれたかと思うと、本来の青年の姿をしているソフィが部屋に入って来る。


「イリーガルの奴に、お主が呼んでいると聞いたものでな」


「うむ……。しかしその前にソフィよ。少し気になる事があるのだが、聞いても良いか?」


「む?」


 どうやら本題の前に何やら話があるらしい。ソフィの顔を見ながら首を横に傾げたフルーフは口を開いた。


「お主。あの世界では力を抑える為に、姿?」


 ――あの世界とはリラリオの事だろう。

 このアレルバレルの世界では、姿のソフィなのだが、何故かリラリオの世界では、姿となってしまうのである。


「いや、我は何もしておらぬのだが、あの世界に行くと何故か我の姿が変わり、力が抑えられるようなのだ」


 その言葉に眉を寄せたフルーフは、不思議そうな顔をするのだった。


「待てお主……。何故そんな不可解な状況に置かれて、そのままにしておったのだ?」


 興味津々な出来事を前にして何故何もしなかったのかと、フルーフは不思議そうに尋ねる。


 どうやらフルーフはその不可解な現象に、ある程度の興味を持ったようである。


 『魔』に関して異常な興味心を抱く、ソフィがリラリオの世界で子供になるのは、何か『魔』の干渉が行われているのではないかと考えたようである。


 それも力が抑えられるという事は、何者かがソフィに対して気づかぬ内に、魔法を使役したのかもしれない。


「しかしまぁ別に、に預けておる力を戻せば元に戻るしな。別に力をある程度抑えられても普段と何も変わらぬから、まぁどうでもいい事だと思ったのだ」


 ソフィの言葉に、心底呆れるフルーフだった。


 本当にお主は力に関しては無頓着な奴じゃなぁ。いつか気づかぬ内に呪いを掛けられて殺されても知らぬぞ?」


「クックック、我を殺せるというのであれば、


 半分はソフィの本心なのだろうという事を知っているフルーフは、更に呆れ顔になる。


「これだからお主は手に負えぬな。ディアトロス殿の苦悩の表情が目に浮かぶわい」


「む! 別にディアトロスは関係がないじゃろう?」


「まぁ良い……。それでは本題に入ろうと思うのだがよいか?」


 ソフィは『お主から前置きを話始めたのだろうが』と思いながらも素直にフルーフの言葉に頷くのだった。


 ……

 ……

 ……

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