第686話 不死の存在

 流石に上空で吼えていた大魔王シスも勝利を確信していた。


 そして『』を解いて、戦力値コントロールなどもせずに通常状態に戻った。


 流石に連戦に次ぐ連戦にシス自体の魔力も大きく消耗していたのだった。


 まだ戦えない事はないが敵が居なくなった以上は、無理をする必要はないと判断したようだ。


「ふぅ……」


 金色に輝いていた目も通常のものとなり、本来のシス女王に意識が戻っていた。


「想像を絶する戦いだったようね」


 シティアス周辺の陸地を空から見下ろすと、あちらこちらにの地形が変わり果てており、一部分に至っては陸地がなくなっている。


 その様子を見たシスは、ミラとの戦闘が如何に激しかったのかと考えるが、ほとんどこの凄惨な状況を創り出したのは、


「私に意識を戻してくれたという事は、もう無事に済んだってことよね?」


 シスはそう判断して、状況を伝えに行こうとレイズ魔国へと戻ろうとする。


 ――その瞬間であった……。


 何か真下から光が迫って来るのをシスは見た。


「!?」


 再びそこでシスの意識が代わり、エルシスが表に出てくる。必死にシスを守るためにエルシスが飛び出してきたのである。


 しかしエルシスはこのレーザーに対し、身体を捻って何とか致命傷を防ぐ事しか出来なかった。


 何故ならこのレーザーは『時魔法無効化タイムマギア・キャンセル』の効力を持っていることを理解していたからである。


 その事を失念して『次元防壁ディメンション・アンミナ』を使っていたならば、シスの身体はレーザーによって、貫かれていただろう。だがそれでもレーザーは、シスの横腹を貫いていった。


「か……ッ、はッ……!」


 正に刹那の時間の出来事だった。


 あのままもう少し大魔王シスのままで『』を使っていたならば、こんなことにはならなかったかもしれない。


 しかし現実に起きた事を今更後悔してももう遅い。シスの身体のエルシスはお腹を押さえながら、ゆっくりと地面に着陸する。傷は深く直ぐに治療を開始しなければ、危険な状態であった。


「ククク、私が不死身だという事を失念していたか? エルシス」


 しかし治療を開始しようとした瞬間に、目の前にミラが現れるのだった。


 ……

 ……

 ……


 その頃『ヴェルマー』大陸の『ダイオ』魔国の近くで、四体の魔族が姿を見せた。


 それはアレルバレルの世界から、フルーフの『概念跳躍アルム・ノーティア』で『世界間転移』を果たしたソフィ達であった。


「青い空に海か、ここは確かにリラリオの世界ようだ」


 ソフィがそう言うとフルーフは頷く。


「うむ、どうやら無事に辿り着いたようだが、どこに煌聖の教団の者達がおるか分からぬ。気をつけるんじゃぞソフィ」


「む、ソフィ様! あちらの空から何かがこちらに飛んできます!」


 フルーフに頷きを返そうとした瞬間、ブラストの声でソフィは上空を見上げる。


「あれは、ユファか?」


「!」


 今自分にとって必要な者のところへ飛ばす『シス』の『根源魔法』によって、ユファはソフィの元へ飛ばされてくるのだった。


 地面に叩きつけられそうになりながら飛んでくるユファをブラストが飛びあがって、両手でキャッチする。


「あんた、ブラスト?」


「ああ、大丈夫か?」


「あ、ありがとう。 もう大丈夫よ」


 ユファを抱えたままソフィの元へ降りてきたブラストの手から慌てて離れたかと思うと、近くに居たソフィを見てユファは即座に口を開いた。


「ソフィ様!? そ、それに! ふ、フルーフ様!」


 即座にユファは跪いてフルーフに頭を下げた。


「よ、よくぞご無事で!」


「おお……! 久しぶりじゃなユファよ」


 ユファにとってはフルーフは、レパートの世界の主である。それは実に数千年ぶりの再会であった。


「今までどこにおられたのですか、心配したんですよ!」


「すまぬ……。しかしユファよ、今は積もる話は後にしよう」


「ここに組織の者達が、集まっているとレアから聞いたのだが」


 ソフィのその言葉にユファは目を見開く。


「そ、そうでした! ソフィ様、シスを、シスを助けて下さい! シスの様子がいつもと違う上に、組織の者達が襲撃を……!」


「うむ、ようやく見つけた」


 隣でずっと魔力を探知していたディアトロスが口を開いた。


「ソフィよ、レイズ魔国の近くで大きな力を持つ者達が集まっておるようじゃ」


「レイズ魔国か、よしユファ案内を頼む」


「はい! こちらです!」


 そう言って空を飛びだそうとするユファをブラストが止めたかと思うと、再びユファを抱き抱え始めた。


「ちょ、ちょっとブラスト! アンタ一体何してるのよ!!」


「この方が速い、お前は『高速転移』を使えないだろう? 俺が抱えて行ってやるから、逐一場所を教えろ」


「そ、そうね。分かったわ」


 確かにこの場で『高速転移』を使えない自分が飛んで案内するより、ブラストに連れて行ってもらった方が速い。そう判断したユファは、納得せざるを得なくなった。


 ユファを抱えたままブラストが空を飛ぶと、ソフィ達も一斉に空へと飛びあがり、レイズ方面に向かって全員が『高速転移』で移動を開始するのだった。 


 流石にソフィや、九大魔王の移動は恐ろしく速い。


 グングンとレイズ魔国へ向かうその速度は『高等移動呪文アポイント』の魔法と遜色がない程であった。

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