第669話 金色の体現者バルド

 バルドは金色のオーラを両手に纏わせながらその場でゆっくりと息を吐いた。

 そして次の瞬間、目を見開きながら遠くに居るエルシスを睨みつける。


「!」


 エルシスは自身の身体が突如重たくなった感覚を味わう。

 直ぐに他の者達に視線を送るが、どうやら自分だけが何らかの影響を受けているようだった。

 どうやら遠くから睨みつけているバルドとかいう老人が、をしているようだと、エルシスはそのバルドの、を見ながらアタリをつける。


 単純な攻撃魔法の類であれば『次元防壁ディメンション・アンミナ』は次元の彼方へと、効力を流す事が出来る筈である。しかし『次元防壁ディメンション・アンミナ』はまだ、展開している状態であり、敵の攻撃を防げてはいない。


 この自分だけが感じる重みは、エルシスに向けた物では無く、この場に居る自分を含めた周囲一帯のみに、影響を及ぼしているのだろう。それはつまり、何らかの『技』だという事に他ならない。しかしエルシスはそんな魔法は聞いた事も、受けた事もないのであった。


 バルドの固有の『魔法』なのかそれとも、体現者によるなのかもしれない。


「今です!」


「!!」


 司令官ルビリスが声を高らかに発したかと思うと、ネイキッドが手をあげて配下達に一斉攻撃の合図を送る。


 エルシスは魔法を回避するために『高速転移』を使って移動をしようとするが、足が地に縫い付けられたかの如く身体が自由に動かない。


(すでに数秒が経過しているが、まだ動けない……。どうやらこれは魔法ではないのかな?)


 移動が出来ないエルシスの元に、次々と大魔王達の極大魔法が襲い掛かる。


「うーん。仕方ないね」


 エルシスは聖騎士達を自身の元へ手繰り寄せる。

 数百を越える騎士達が、極大魔法からエルシスを守る盾となっていく。

 騎士たちの戦力値では、本隊の魔族達の攻撃を受けきる事は出来ず、次々と攻撃を受けた者達が消滅していく。しかし消滅しても再生するかの如く、再び現世へ姿を現し始める。


 だが、騎士達が復活するよりも、大魔王達の熾烈な攻撃の方が速い。


 数十万と居る戦力値500億を越える魔族達が、一斉にエルシスに攻撃をしているのだ。不死身の騎士達であっても、数百体では数の内に入らない。遂にエルシス自身にも極大魔法が直撃し始めた。


「まだ動かないか……」


 恐ろしい程の爆音が鳴り響き、エルシスの身に次々と『神域領域』の極大魔法が襲い掛かる。

 エルシスは自身の守りに『絶対防御アブソリデファンス』を纏っている為、そこまでのダメージでは無いが、それでもあまりに連続に攻撃を受け続けてしまい僅かながらに顔を歪ませる。


「司令官殿! そろそろ限界だ、早くトドメをさせ!」


 エルシスの耳にバルドの声が聞こえてくる。どうやらこの負荷の掛けられている状況は、もうすぐ解けるようだ。しかしそのエルシスの近くに、ルビリスが姿を見せた。


「ホッホッホ。我々の誘いを断ったことを後悔なさい『大賢者エルシス』」


 エルシスの前でルビリスは十字をきる。


 ――神聖魔法、『聖なる十字架ホーリー・クロス』。


 十字架が出現したかと思うと、エルシスにその攻撃が直撃する。


「くっ!」


「さぁ、今です! 止まることなく打ち続けなさい!」


 ルビリスはエルシスに攻撃を与えた後、すぐさまその場から離れる。

 そして次の瞬間には、大魔王達の一斉砲撃が再び行われた。


 『絶対防御アブソリデファンス』が掛けられているとはいっても、すでにルビリスの『聖なる十字架ホーリー・クロス』による攻撃や、戦力値が500億を越える魔族達の『神域魔法』を数多く被弾させられている。流石のエルシスといっても無抵抗の状態でこれだけの攻撃を、一身に浴びれば終わりだと思われた。


「お疲れ様でした、上手く行ったようです」


 エルシスの元から離れたルビリスは、遠くからを放っていたバルドの元へ辿り着く。


「少しばかりやり過ぎのように感じるが、奴は今後生かしておくと危険じゃ」


「確かにその通りです。まさか同時にあれ程の魔法を展開されるとは思いもよりませんでしたよ」


 今もネイキッドを含めた『煌聖の教団こうせいきょうだん』の魔族達は、極大魔法をエルシスに打ち続けている。その様子を見ながら彼らは総帥ミラの言う通り、噂に違わぬ恐ろしい相手だったとばかりに、もう終わったかのように話し始める二人であった。

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