第659話 始祖龍キーリの捨て身の龍滅

「この魔力はまさか……。あのレアさんか」


 レア達の居た洞窟周辺から遥か東北付近の場所で『バルド』はそう呟いた。


 彼らは馬鹿正直に真正面から『レイズ』魔国に侵攻することはせず、その『レイズ』を取り囲むように、東と更に北側に教団の魔族達を向かわせて進軍していたのである。


「まさかそんな! 何故このタイミングであの『フルーフ』の娘が、この世界に居るのです!?」


 バルドの呟きを聞いたルビリスは、驚く声をあげながらバルドに問いただす。


「そこまでは分からぬが、今感知しておる魔力は、間違いなく『魔王』レアじゃな」


 バルドは一時とはいえ『アレルバレル』の『魔界』の集落でレアと生活を共にしていた。そのバルドが間違いがないというのであれば、本当の事なのだろう。


「では、先程我々の話をという者の正体は魔王レア。彼女だったというワケですか……?」


 何という失態だとばかりにルビリスは頭に左手を当てながら、嘆くような声をあげるのだった。


「直ぐに彼らに攻撃をやめさせるように伝えなければ……」


 ルビリスが西南の位置にある洞窟前に居た教団の魔族達に『念話テレパシー』を送ろうとするが、それをバルドが制止する。


「司令官殿。もうそっちは放っておいたほうがよさそうじゃ」


「バルドさん。それは一体どういう……!?」


 バルドの声に疑問を持ったルビリスが、どういう事だとバルドに問いただそうとしたが、そんな彼の遥か前方に見える位置に、が、大勢の列をなしてこちらへ向かってきているのが見えたのであった。


 そしてその騎士達を従える『大賢者』の『金色』に纏われた姿が見えたところで、ルビリスはまた少し計画が狂ってしまったとばかりに、苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをするのだった。


 ……

 ……

 ……


「レアだ! お前達、俺に続けぇっ!!」


隠幕ハイド・カーテン】を解いた事でレアの魔力を探知したキーリは、従えている龍達にそう告げると一気に加速しながらレアの元へと向かっていった。


 慌てて『ミルフェン』や他の配下の龍達も『キーリ』の後を追いかけていく。


煌聖の教団こうせいきょうだん』の魔族達もレアの魔力を感知し、爆発によって起こった煙で視界が悪い状態にも拘らず、そちらに向かって先程の龍族達が一斉に向かっていったのを察して、彼ら二人もレア達に向かって突っ切っていくのだった。


 レアがキーリ達の方へ向かっていき、キーリ達もまたレアの方へと向かっていく。


 しかしそのキーリ達の背後からグングンと『高速転移』によって『煌聖の教団こうせいきょうだん』の魔族達が迫ってくる。


龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』と『普遍破壊メギストゥス・デストラクション』が爆発した時点では、まだ互いにかなりの距離があったはずだが、流石に『高速転移』を『大魔王中位領域』の者達が使えば、速度差は龍をも上回る速度であるようだった。


「くそっ! このままじゃ追いつかれちまう!」


 キーリは少し速度を緩めながら飛ぶ方角を変え始める。


「キーリ様!?」


「ミルフェンに同胞達よ! よく聞け! お前達はこのままの速度を保ったままこっちに向かってくるレアを保護しろ! レアを保護した後は直ぐ様『ラルグ』魔国の『レルバノン』魔国王の元へ向かえ!」


「ぎょ、御意! しかし『レイズ』城ではなく『ラルグ』魔国でよろしいので?」


「ああ。そっちは……『レイズ』城はどうやら戦場になりそうだからな。あの『シス』女王が応戦するようだ」


 そのキーリの言葉にミルフェンは、ようやく大勢の『煌聖の教団こうせいきょうだん』達が『レイズ』魔国の東南に居る事に気づいてその姿を目視する。


「いいか? 必ずレアを保護するんだ。何があっても、を命ずる!」


 キーリの言葉の意味を理解した『ミルフェン』は、返事をせずにキーリの顔を見る。


「俺は始祖龍キーリだぞ? 心配するな。何とかしてみせるさ」


 ミルフェンはその言葉に胸を締め付けられるような思いをしながら、ゆっくりと首を縦に振った。


「分かりました。しかし必ず無事に戻ってくると約束してください」


 守護龍の『ミルフェン』がそう言うと『ミルフェン』の目を見た『キーリ』は笑みを浮かべる。


 しかしキーリはもう言葉を発さずに、その場で立ち止まってしまうのだった。


 立ち止まったキーリに他の龍達も速度を緩めようとするが、そこでミルフェンが怒号を発した。


「同胞達よっ! 立ち止まるなぁ! 『魔王』レア様を保護して『ラルグ』城へと向かうのだ!」


 驚きの表情を浮かべた龍達だったが、ミルフェンの指示に従い再び速度をつけ始めていく。


 そして次々と背後に居た龍達は『キーリ』を追い抜いていき、やがては『キーリ』だけをその場に残しながらも立ち止まらずに他の龍達は加速していった。


「それでいい……」


 そう言うとキーリは『龍化』を解いた後に人型に戻り、再び『』のオーラを纏い始めるのだった。


 あれだけ離れていたというのに、もう二体の組織の魔族達は『キーリ』が目視が出来る距離まで近づいてきていた。


「お前達が誰だか知らねぇがな。レアに手を出そうってんなら容赦はしねぇよ!」


 始祖龍キーリの『魔力』が迸り、恐ろしい程の魔力を一つの『技』に込め始める。


 そしてキーリは迫りくる二体の大魔王にその『技』。


 特大の『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』を放つ為に、その照準を合わせ始めるのだった。


 ……

 ……

 ……

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