第646話 宣戦布告

「どうやら招かれざる者が、紛れ込んでいたようですね」


「ワシや司令官殿にも気付かせぬ腕前か、アレルバレルの世界来訪者か、それとも……」


 バルドは顎に蓄えた長い白髭を擦りながらレアの逃げた先を見つめる。

 レアは『隠幕ハイド・カーテン』を使って移動している為に、一時的に魔力が漏れ出た事で、この場に潜伏していた事自体は気づかれたようだが、現在は再び姿を隠しきれている為に『レア』だという事はバレてはいなかった。


「一応彼らが来る前には周辺一帯に張っています。例の『エルシス』の力を有する女王や、この世界の有力者達にはまだ知られてはいない筈。動くのを少し早めた方がいいでしょう」


 元々『煌聖の教団こうせいきょうだん』の大魔王達やネイキッドが、この世界に来るまでの間、この場所で潜伏している事がこの世界の有力者達にバレなければ、そこまで計画に支障はなかった。


 ルビリス達『煌聖の教団こうせいきょうだん』のやろうとしている事は『レイズ』魔国の及び『』である。


 既に『アレルバレル』の世界に大魔王ソフィを戻させてしまった。

 だが、今はまだ九大魔王を含めた『魔王軍』やその中の『序列部隊』などは戻ってきてはいない。


 『煌聖の教団こうせいきょうだん』の総帥であるミラが『魔神の力』を手にした今『アレルバレル』の世界を手中に収めるには彼らには今しか好機チャンスはない。


 間違ってもエルシスと同等の力を持つシスや、洗脳の解けたフルーフを大魔王ソフィの元に向かわせてはならない。その為にルビリス達は『煌聖の教団こうせいきょうだん』のほぼ全勢力をこの『リラリオ』の世界へと集めたのである。これ以上の不測の事態イレギュラーが起こるのは御免であった。


「ネイキッドさん、よく聞いて下さい」


「ハッ! 司令官! 何でしょうか!」


 レアを捕まえようと部下たちに指示を出していたネイキッドは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の最高司令官である『ルビリス』の言葉に直ぐに振り返って小気味よい返事をする。


「逃げた者についてはもう結構です。それよりも直ぐに貴方は例の国の城へ軍を率いて、攻め滅ぼしてしまいなさい」


「御意!」


「しかし女王のシスという女魔族には手を出さずに、国の兵士達を中心に狙いなさい」


「御意。しかしルビリス様、化け物の直接の配下や仲間はどうされますか?」


 少し考える素振りを見せたルビリスだったが、直ぐに笑みを見せて口を開いた。


「全て始末してしまいなさい」


「……分かりました」


 先程の小気味よい返事とは違い、いま司令官ルビリスが下した命令には少し間を置いて、返事をするネイキッドだった。


 間をおいた理由は『するようにと、が出された為であった。


 もちろんシスもソフィの仲間ではあるのだが、シスを狙うという行為はまだ『』という僅かではあるが、を用意出来る。


 だが、この国とは直接の関係のない『ロード』といった『レイズ』魔国付近に控えさせている配下達や、ソフィの配偶者となったリーネや、直々の忠臣であるラルフに手を出す事は、もう何の言い訳にもならない。


 ――明確な大魔王ソフィに対する『』となる。


 普段は魔族にしては温厚な性格をしているソフィではあるが、彼の仲間に手を出したり、あまつさえ傷つけた場合に状況は一変する。


 大魔王ソフィの仲間に手を出した者は『。それは長い『アレルバレル』の歴史が証明していた。


 更に言えば大魔王ソフィが支配者として『アレルバレル』の世界に今も尚、君臨している事からも分かるだろう。つまり『レイズ』魔国へと襲撃を行えばもう後には引けない。


 大魔王ソフィを滅ぼさねば『煌聖の教団こうせいきょうだん』には明るい未来がなくなるだろう。


 その恐ろしい宣戦布告をネイキッドに行えと命令を下されたようなものなのである。

 命令されたネイキッドの手が、震えるのも仕方の無い事であろう。


「そ、それでは……! 目標レイズ魔国。全軍突撃せよ!!」


 本隊の総隊長『ネイキッド』の号令により『煌聖の教団こうせいきょうだん』に所属する全大魔王達は各々が『オーラ』を纏いながら一斉に『レイズ』魔国へと襲撃を開始するのだった。


 ……

 ……

 ……

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