第628話 嘘か真か

 どうやらこの場にもうすぐ魔人達が大勢来る事を察知したエイネは、部屋から出て行こうとする。


「それでは少し彼らの相手をしてきます。フルーフ様も準備を整えておいてくださいね」


「ああ。こっちの準備が終わった後に、そっちに向かおう」


「はい。お願いします」


 コテージの外へと一歩踏み出したエイネは振り返り、フルーフにニコリと笑いかけるのだった。


 数十万の魔人の軍が戦争の為にこの場所へ向かってきているのを理解しながらも、全くその事に対して、脅威を感じさせない『エイネ』の笑みはある種、凄みのある表情に見えた。


 コテージの扉が閉まったのを確認したフルーフは、右手を前に出して『概念跳躍アルム・ノーティア』の『スタック』とは他に一つの魔法の『発動羅列』を並べ始めた。


 ――根源魔法、『映見接続リース・コネクトア』。


 あまり魔力を必要としないその魔法を発動させるとエイネの姿が、フルーフの手の先で映し出された。


「さて、お手並み拝見と行こうか。九大魔王『』」


 フルーフは『概念跳躍アルム・ノーティア』の『スタック』を準備しながらそう言葉にするのだった。


 ……

 ……

 ……


 カストロL・K地域にある基地。魔族達が使っていた駐屯地に次から次に大きな戦力値を持つ、魔人族の兵士達が集まり始めた。


 上空に残る者。地に降り立つ者。岩山などに身を隠す者。

 彼らは一箇所に留まらずに、散らばりながら持ち場につき始めた。


 どうやら龍族との戦争を想定した訓練は、相当に行ってきたのだろう。

 これまでの戦争の常識は、龍族には通用しないとよく理解しているように思えた。


 そこにコテージからこの基地に向かって、歩いてきたエイネが姿を見せる。

 パッと見ただけでは、魔人は少数しか見えないが、エイネには至る所に潜伏しているのが魔力で感知出来た。そしてそこで目ざとくエイネの姿を見たと、同時に近づいてくる者が居た。

 このカストロL・K地域の基地の指揮官『バルザー・レドニック』であった。


「魔族エイネ」


 声を掛けられたエイネはバルザーの方を見る。


「確かバルザーと言ったかしら?」


「ああ。このカストロL・K基地の指揮官を任されている」


「それで? これだけの兵隊を連れてきて、どういうつもりなのかしら?」


 バルザーはエイネの言葉に一瞬目を鋭くするが、直ぐに柔和な笑みを浮かべた。


「先程はすまなかった、魔族エイネ。しかし今は大事の前の小事だと思って、水に流して聞いてほしい」


 エイネは黙ってバルザーの言葉に耳を傾ける。


「今まで龍族とは冷戦状態にはあったが、これまでは兵を差し向けて攻撃をしてきた事は無かった。しかしどうやら奴らは考えを変えて我々と戦う事を選んだらしい」


 バルザーは両手をあげながら溜息を吐いた。


「そこで我ら魔人の王の『エアル』様は、龍族と全面戦争を行う事を決めた」


「……」


 エイネは無言でバルザーの話に頷いた。


「我々も負けるつもりはないが、龍族はこれまで争ってきた種族達とは違い、かなり苦戦を強いられる事になるだろう。そこで魔族エイネ。キミの力を借りたい」


「私は貴方が今まで『魔族』なのよ?」


 突然のバルザーの言葉に少し驚きながら、エイネは現実を語る。しかしバルザーの表情は変わらず、首を横に振って口を開いた。


「魔族エイネ。貴方は龍族と戦ったのだろう? この基地で魔族達が滅ぼされていたというのに近くに倒れていた龍族は全員命を失っていた。それはつまり本当はキミが龍族を倒した。違うか?」


「ええ、その通りよ」


 龍族の亡骸を確認されている以上、これ以上シラを通すことは出来ないとそう考えたエイネは素直に認めるのだった。


「先程の失言は本当に許してほしい! 私の見立てでは貴方は我々『一流戦士』とを保持していると見ている。どうか同じ軍に所属している身として、そしてを、我々と共に取ろうではないか!」


 真に迫ったバルザーの表情からは、嘘か真実か見分けがつきにくい。それにどうやらこの場に集められた軍の者達はエイネを捕らえに来たというワケではなく、魔人の王『エアル』とやらは、本当に龍族達と全面戦争をしようとしているのだろう。


 エイネはバルザーの言った『魔族の仇を共に取ろう』という言葉に反応する。この世界の魔人族の軍にはカストロL・K地域の魔族のように軍に協力している魔族も多い。そんな魔族達の今後の為に、この『バルザー』という指揮官と協力関係を築いておいてもいいのかもしれない。


 エイネが思案顔を浮かべているのを横目で見ながらバルザーは、歪んだ笑みを浮かべるのだった。

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