第621話 健気な孝行娘

「お主……『アレルバレル』の世界の魔族なのじゃろう? 何故ワシの娘を『レア』の事を知っておるのだ!」


 魔力枯渇でフラフラであろうフルーフだが、そんな事はお構いなしに立ち上がると、部屋の入口に居る『エイネ』の元まで走っていき、両肩を掴みながら声をあげた。


「な、何故ってレアさんは三千年前に、わ、私達の世界まできていたからですよ!」


「な、何じゃと!? それで! 娘は無事じゃろうな!?」


 フルーフはエイネの両肩に置いている手に力を込めて、必死な形相を浮かべる。


「ちょ、ちょっと、痛いですってば、フルーフ様!」


 強引に肩を掴むフルーフは余程無意識に力を入れていたのだろう。エイネが痛みに堪えるような表情を浮かべると、我に返ったフルーフは慌てて手を離す。


「す、すまぬっ! だ、だが……!! あの世界はレアにはまだまだ手に負えぬ世界だ。そ、それで娘は無事だったのじゃろうか?」


「はい、無事です! そ、それに貴方が居ないと分かった後に、ちゃんと『レパート』の世界へ帰って行きましたよ」


「そ、そうだったのか。よ、よかった……」


 心の底から安堵したとばかりにフルーフは大きく息を吐いた。


「そうですか……。その様子だとあれからもレアさんは貴方とは会えていないのですね?」


「ああ。先程も言ったが、ワシはつい最近まで『ミラ』とかいう人間に操られておったのじゃ」


「そうですか……」


「娘は……。レアはお主と会ったのじゃろう? ワシの事を何か言ってはいなかったか?」


 事の経緯を聞いたフルーフは余程に『レア』の事が気になるようで、藁をもすがる思いといった様子でエイネに尋ねるのだった。


「レアさんは貴方に褒。アレルバレルの世界へくる前に、のだと私達に教えてもらいました。そして貴方を探して必死に『アレルバレル』の世界中を探してそれでも見つけられなくて、辛そうにしながら、でも我慢して私たちに笑顔を見せて。私は平気だからと告げて彼女は元の世界へ帰っていきました……」


「うっ……。ぐっ……!!」


 フルーフの両目から涙があふれたかと思うと、この世の終わりのような表情で泣き始めた。


「すまぬ……。すまぬ『レア』よ……!」


 レアは幼少の頃に本当の親に捨てられて、育ての親であるフルーフに感謝をして『フルーフ』の命令に応える為に、懸命に苦しい思いをして一つの世界を支配してみせた。しかしそれを約束していた父親に報告する事が出来ず、あらゆる場所を一人で探し続けて遂には三千年が経ってしまった。


 親に褒められた記憶がないレアは余程、のだろう。


 必死になりながら苦労を重ねて約束の為に頑張り続けた彼女はようやく『リラリオ』の世界を支配したのである。


 しかし初めてもらえる筈の、すらもらえずに、三千年以上が過ぎてしまったのである。


 そして今も何処にいるのか分からないフルーフの為に、懸命に探し続けて毎日を生きている。そのレアの事を想うとフルーフはもう涙を止められない。


』である『レア』は『』である『フルーフ』に会って、なんと言いたかったのだろうか? そしてフルーフに何といって褒めて欲しかったのだろうか? 想像すればする程。気持ちを想えば想う程。彼は操られていた自分を許せなくなる。


「すまぬ……っ! すまぬ……、レアっ……!!」


 目の前で涙を流し続けるフルーフを見てエイネもまた過去のレアと別れた時を思い出して、もらい泣きをしてしまうのだった。


「ワシは! !! 何より!!」


「そ、そうでしょう……ね……。フルーフ様! そうでしたら絶対にレアさんに会って、一言褒めてあげて下さい! 彼女は貴方のたった一言の為に、死ぬ思いで必死になって、成し遂げたのでしょうから……!」


「ああ……! 、たった一人の娘じゃ……! 我が子じゃ! 絶対に会って褒めてやるともっ!」


 フルーフとエイネは互いに大粒の涙を流しながら慟哭の声をあげたが、最後には互いの顔を見て泣き笑いの表情を浮かべるのだった。


 ……

 ……

 ……

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