第608話 死神皇

「――?」(フルーフよ。私を呼び出したという事は、好きにさせてもらってよいのだな?)


「ああ。もうワシも手段を選んでいる場合ではないからな。よいか『死神皇』。ワシはどうしても娘に会いたい、いや会わねばならぬのだ!」


「――」(いいだろう。この死神皇が契約に基づき、主に出来る限りの力を貸そうではないか)


 大賢者ミラに補助の魔法を受けて全ての能力が向上したヌーは、更に自身の魔力を大幅に上昇させる魔法『仮初増幅イフェメール・アンプ』の効果が増加して、強制的に支配している死神達の数を増やしていく。


 死神達は、ヌーの魔法によって契約をしている為、如何に死神達の王である『契約主であるヌーを優先する事となった。


 死神達は気が乗らないが、契約に縛られている為に仕方無くヌーに従うのであった。

 ヌーの周囲に並び立つ死神達の数は、およそ三十を越えた。


 神の位階である『神位』ではそこまで高くはない『死神』ではあるが、それでも神格を有する『神』である事には間違いはない。


 『命』を司る『神』として『死神』は、契約を交わしたヌーの為に、敵の命を刈り取ろうと準備を始めた。そしてヌーとミラは、同時に複数の『スタック』の準備を始める。


 ミラはどうやらフルーフを痛めつけた後に、強引に操る事に決めたようだが、ヌーはここでミラを無視してフルーフをこの場で八つ裂きにしようと考えている。


 フルーフもヌーも大魔王としては、互いに最上位領域の存在である。

 但し最上位同士といっても、まだその中でも多少の差はある。


 かつてのフルーフとヌーの戦闘では、あっさりとフルーフはヌーに敗れてしまった。

 更にあの時からヌーは力をつけて、今はミラから補助も受けている。あの時のままのフルーフでは、どう足掻いた所で勝ち目は無いだろう。


 ――しかし、フルーフはかつての闘争では使わなかった『死神皇』という奥の手カードを切った。


 この『死神皇』の力の有無がこの戦いで『フルーフ』が生き残れるかどうかの命運が決まる事だろう。


 ――まさに『命』を司る『死神』らしい、戦いの場となるのだった。


 …………


「『死神皇』よ。先程も言ったが、ワシはこの場から離れなければならぬのだ。戦闘をしながらで良いからワシのサポートを頼むぞ」


「――」(この私に任せるがよい)


「それでは、行くぞっ!」


 フルーフが『魔力回路』からありったけの魔力を『スタック』し始める。どうやら『概念跳躍アルム・ノーティア』の準備だけではなく、残された『魔力』をに使おうとしている。


 その『』とは――。


 ――愛娘レアの『魔力』をこのである。


 数多ある世界からたった一体の『魔族』の『魔力』を見つけようというのである。

 そんな事は大賢者ミラはおろか、大賢者エルシスでさえ容易には行えないだろう。


 しかしフルーフは意地でも『会いたい者レア』の為に、必死に不可能を可能にしようとする。


 単に自分の世界へ向かうだけであれば、直ぐに行えるところを大魔王と大賢者と相対しながら、愛する娘レアの為に危険に身を置いて『漏出サーチ』を行うのだった。


 …………


「よし、こっちの準備は整ったぞミラ」


「ああ、私もだ」


「行くぞ!」


 ヌーの掛け声と共に三十体の『死神』が鎌を持ち、一斉にフルーフに襲い掛かっていった。


「『死神皇』!」


 フルーフは大きな声で叫ぶと同時に、背後へと大きく飛びながら『死神』達から距離をとる。

 死神達は捉えきれなかったフルーフに追い縋ろうとするが、そこで一気に七体の『死神』の首が吹き飛んだ。彼ら死神達の王『死神皇』が漆黒のマントを靡かせながら別の死神達が持っているのと、同じ魔力が施された鎌を振り切ったのである。


 それだけに留まらず、死神皇の目が紅く光ったかと思うと、再生を始めていた死神達の体が現世から消え失せて行った。どうやら死神皇の力によって、強引に幽世へと送り返したのだろう。


 ――まさに死神の真骨頂というべきに、他の死神達はどうするべきかと狼狽え始める。

 自分達の上位の力を有しているのは当然であり、彼ら死神が如何にといっても『死神皇』とは


 『死神』達がまごついている間に次から次に『死神皇』の力によって、その数を減らしていく事となるのであった。

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