第600話 思慮の果ての命令

「おい、おい! ミラ!」


「……何だ?」


 フルーフと魔神の事を考えていたミラは、ようやく先程から自分に対して掛けられていた声に気づくのだった。


「どうした、ヌー?」


 今ようやく気付いたといった様子のミラにヌーは大きく舌打ちした後、ミラを睨みつけたかと思うと静かに溜め息を吐くのだった。


「このままアレルバレルの世界へ向かったところで、あの、一度この世界に配下達を集めておいた方が、いいんじゃないかといっているんだ」


 二度も同じことを説明させられている為、ヌーは少し苛立ち気味にミラにそう告げる。


「まぁそれも悪くは無いのだがな」


 ミラは顎に手をやりながら小さく唸る。


 フルーフを先に洗脳する事を優先しなければならない上に、ソフィがアレルバレルの世界に戻ってきているとなると、ヌーの意見も十分に考えられる。


 しかしもちろんそうする場合でもソフィ達の動向を図る為に、少数でも部隊は残しておかないとならないだろう。残してきている『煌聖の教団こうせいきょうだん』の『本隊』の魔族達は、その多くが『隠幕ハイド・カーテン』を張れる為に、あちら側の観察などは容易に行える筈である。


 偵察をする部隊と奇襲の襲撃を行う部隊に分けるのもいいだろう。少なくとも魔神と戦った事で今の人数では、何をするにしても心許ない。そこまで考えたミラはヌーの言う通りに、部隊を分ける事に決めるのだった。


「よし……。ではお前は再びネイキッド達の元へ向かえ。そこでこちらに来る者達と、あちらの世界に残る部隊とで編成し直して連れてこい」


 ミラの言葉にネイキッドから寄こされた配下の使者は、敬礼のポーズをとる。


「分かりました。それではどういう編成にしましょうか?」


「一気に動けば『隠幕ハイド・カーテン』でも怪しまれる。まずはネイキッドとリザートを長とする部隊に分けさせろ。数はネイキッドたちに任せれば、間違いはないだろう」


 これまでも大人数となる『煌聖の教団こうせいきょうだん』のメンバーを上手く振り分けて『魔界』のあらゆる大陸へと配備させてきたネイキッドたちであれば、まず失敗はしないだろう。


 ミラ達にとってもこのダールの世界では、ある程度の人手が欲しいところである。

 フルーフを閉じ込めているとはいっても、やはり見張りや自由に動かせる人数は欲しいからである。


 魔神の『浄化の力』は予想を越える被害を生み出させてしまった。

 ミラもある程度は予想は出来てはいたが、あそこまで一瞬で殲滅させられるとは思わなかったのだった。


「分かりました。それでは私は再びアレルバレルの世界へ戻り、事情を伝えた後に編成を終えた者達を連れて戻ってきます」


「ああ、頼んだぞ」


 ミラは使者の男の肩に手を置いて首を縦に振った。

 男はミラに笑顔で頷き、再び『概念跳躍アルム・ノーティア』を使って、アレルバレルの世界へと戻っていくのだった。


「少し私はフルーフの様子を見てくる。ルビリス!」


「はっ!」


 突然名前を呼ばれたルビリスは、慌ててミラに返事をする。


「お前はバルドを連れて一度『リラリオ』の世界の様子を見てこい」


「成程。が居なくなりましたからね」


 すぐにミラのやりたい事を理解したルビリスは、承知したとばかりに頷く。


 あっさりとミラの思いを汲み取れるところは、流石ルビリスといったところであった。


 このルビリスの頭の回転の早さをミラは再評価しながらルビリスと同じように、笑みを浮かべて頷く。


「ヌー。お前は私と共に一度フルーフの様子を見に行くぞ」


「オイ、俺はいつからお前の部下になったんだ? 指図をするんじゃない」


「ククク。そうだったな悪い悪い」


 この僅かな時間で魔神の『技』をコピーしたミラと、ヌーはかなりの戦力差がついたが、それを理解しながらも強気な態度のヌーに満足そうな顔を見せるミラだった。


「よし、戻ってきたらすぐに私に『念話テレパシー』を飛ばすのを忘れるなよ」


「御意」


 ルビリスはミラに返事をした後に先程の使者に遅れて、アレルバレルの世界へと向かうのであった。


 すでにアレルバレルの世界では『中立』の者達と戦うため、ダイス大陸で『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達が集まっている事など知るよしもないミラは、頭の中でプランを考えて行動を始めるのであった。


 元々平和な世界ではない『アレルバレル』の『魔界』は、魔族が至る所に蔓延っていたが、ソフィ達と中立の立場だったステア達。そして『煌聖の教団こうせいきょうだん』の『本隊』達やバルドの部隊達とあらゆる場所でそれぞれが活発的に動き始める事で、より複雑な魔族の軍勢が入り乱れる事となった。


 ……

 ……

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