第580話 難儀な魔法

「ディアトロスよ、組織の者達に何か動きはないのか?」


 魔王城の玉座に座るソフィは、横で何やら資料を見ているディアトロスに声を掛ける。


 『アレルバレル』の世界へ戻ってきて直ぐに『分隊』の者達や『ユーミル』といった『煌聖の教団こうせいきょうだん』の幹部の者に襲われたソフィ達だったが、この魔王城がある中央大陸に辿り着いてから組織の者達からの襲撃は完全に途絶えていた。


「遠くからこちらを観察する者の気配は感じるが、こちらに近づこうとしておる者はおらん。どうやら連中は一つに固まらずに魔界のあらゆる大陸に分散して、潜伏しておるようじゃな」


 大賢者ユーミルが人形達を引き連れてソフィの前に現れるまでは、確かに多くの魔族達の魔力をこの大陸で感じ取れていた。 

 ソフィの考えでは『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達が、大勢この魔王城近辺に待ち受けていると思っていたのだが、実際に辿り着いてみれば、軍勢どころか偵察すらいなかった。


 どうやらユーミルがやられた事で『組織』の者達は考えを改めて、遠くからこちらの様子を窺う事にしたのだろう。


「こちらから出向いて片っ端から潰して回ってもよいがな」


 ソフィは常識では考えられない事を真面目な表情を浮かべながら告げる。


「いや。それは止めておいた方が無難じゃろう。お主が本気でそれをやると奴らは、完全にこの世界から姿を消す事になる。そうなれば奴らの総帥の動向を捉えられなくなってしまうぞ」


 確かにソフィであれば潜伏している者達を次から次に襲撃して攻め滅ぼす事も可能だろう。

 しかし奴らの頭を潰さない限り、その行動にはあまり意味はない。

 最低でも奴らのキナ臭い計画や、作戦を完全に中断させるには、幹部クラスを全員倒さなければならないだろう。中途半端に警戒させて、この世界から姿を消される事のほうが、長い目で見れば厄介になると、ディアトロスは考えるのだった。


「あくまで奴らが何かをしてくるのを待つしかないという事か」


 ソフィは『面倒な事だな』と告げて溜息を吐いた。


 ソフィはこの世界に戻る事で組織の者達と決着をつけるつもりだったが、その相手のボス達が居ないのであれば『リラリオ』に居た方がよかったかもしれないと考える始める。


 魔王城にはソフィ達の配下だった者達の姿はなく、魔王軍は完全に崩壊していた。

 全員が『煌聖の教団こうせいきょうだん』にやられたわけではないだろうが、それぞれが別世界へ跳ばされてしまったのは確かなのだろう。


 そもそも『概念跳躍アルム・ノーティア』という『時魔法タイム・マジック』を使えないソフィの配下達では、扱える組織の奴らとは同じ舞台にすら立つことすら敵わないだろう。


「全くフルーフの奴も『難儀な魔法』を考えついたものだな」


 過去にこの世界にフルーフが来た時の事を語るソフィであった。

 フルーフはソフィに『概念跳躍アルム・ノーティア』の凄さと、その魔法を見事に覚えて使って見せた娘のレアの自慢をしていた、フルーフを思い出すのだった。


 ソフィ自身も『レパート』の『ことわり』と共に『概念跳躍アルム・ノーティア』の『発動羅列化』を試みてはいるが、まだ扱えるまでは至らずである。


 そもそも『レパート』の世界の魔法を扱うのにも相当の時間を要するというのに、その『レパート』の世界の者達ですら『概念跳躍アルム・ノーティア』を扱える者は、限られている程なのである。


 別世界の存在であるソフィが、簡単に扱える筈がないのも当然であるといえた。


 同じ『アレルバレル』の世界の存在である『エルシス』や『リラリオ』の世界の存在である『シス』が『レパート』の世界の新魔法をあっさりと扱える事の方が異例なのである。


 もちろんエルシスとシスが共に、他者の『発動羅列』を読み解く事が出来る程の『』であるからこそ可能としている事なのだが。


「そういえばソフィよ。お前がさっき言った『難儀な魔法』で思い出したのだが、これに見覚えはあるか?」


 そう言ってディアトロスは懐から、一つのを取り出すのだった。


「それは、まさか……」


 ソフィは驚いた様子で全ての始まりとなった『』を見つめるのだった。


 ……

 ……

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