第507話 仲間へのプレゼント
エルシスとようやく話が出来たソフィは、普段よりも上機嫌のまま『レイズ』魔国を後にした。
エルシスの
だが、そもそもラルフは魔法使いではない。これまでユファと出会うまでは『障壁』や『魔力』を使う事すらしてこなかった為、ユファはラルフに普段の『魔力』の供給の仕方から、丁寧に教える事となった。
何はともあれ思わぬ幸運を手にラルフは、ここから1%でも勝率を上げる為に、必死に研鑽に取り掛かるのであった。
そんな配下の様子を見たソフィは『闘技場』があとどれくらいで直るかを確かめる為、再びシチョウの居る『トウジン』魔国へ向かうのだった。
そのソフィの隣には『リーシャ』と『ディアトロス』もついてきている。
リーシャは何故かラルフの元を離れたがらなかったが、ラルフがユファと『魔』の研鑽をすると知り、渋々その場を離れて『ソフィ』についてくるのだった。
『
前回に来た時よりも更に全体的に復興が進んでおり、これまで以上に『トウジン』魔国にある街は活気づいていた。
ソフィは感心するようにその場にいる者達や建物を見つめていたが、やがて三人は『闘技場』へ向かい始めるのだった。
「ソフィよ。この『トウジン』魔国とやらも魔族が多くいる国なのじゃろう?」
横を歩くディアトロスがソフィに尋ねる。
「うむ。この大陸にある国はほとんど魔族が暮らしておるぞ。我々の『アレルバレル』の世界でいえば『魔界』のようなものだな」
「成程。しかしあれじゃな『ラルグ』や『レイズ』を見て回ったときも思ったが、ワシらの世界とは違って、力の弱い者でも臆する事なく堂々と街を歩いておるし、魔族同士の抗争なども一切行われておらぬ。やはりお主がこの大陸の王となった事が影響しておるのか?」
すでにディアトロス達は『ラルグ』魔国の前王である『シーマ』が起こした戦争や、それによって、現在の三大魔国が手を取り合って同盟関係になった歴史を『レヴトン』から聞かされて知っている。
このヴェルマー大陸が平穏な大陸になったのは、やはりこの世界でソフィの為してきた事が、多分に影響をしているのだろうと考えての発言だった。
「確かに三大魔国が手を取り合っての同盟を果たしたのは、我の影響があるだろうが。シスやシチョウといった国家を治める王が優秀であったからこそ、このように再び国の復興が出来ていると我は思っている。特にこの『トウジン』魔国を治める『シチョウ』という魔族は素晴らしいぞ? 我よりも統治に関しては遥かに優れておると思っておる。お主も一度会えばわかる」
長年ソフィの統治を見てきたディアトロスは、そのソフィの言葉に目を丸くする。
(……ソフィは国の統治に関しては、かなり頭を悩ませておった。そのソフィがまさか別世界の一国家の王をそこまで買っておるとは驚きじゃ。どうやら相当に優れているという事だろう)
ディアトロスはこの国の王である『シチョウ』という魔族に、一度会ってみたいと強く考えるのだった。
そんな中ディアトロスの後ろできょろきょろと、周りを見渡していたリーシャが、一つの露店に目を奪われていた。
「わぁ! これ凄い素敵!」
リーシャの目の先では、人が二人分座れる程のスペースの露店が立っていた。
そしてそこにはキラキラと綺麗な輝きを見せる『アクセサリー』が並んでいるのだった。
『アレルバレル』の世界にある『魔界』では、こういった露店商などは存在しておらず、至る所で何がきっかけで魔族同士の戦いが始まるか分からないために、決まった町やら場所以外で商売などはほとんどが行われない。
リーシャはこの世界にきて初めて露店というモノを経験する事となり、そこで売られている物に目を輝かせる。
リーシャはまだまだ人間でいえば年頃の若い女の子であり、露店に並ぶアクセサリーに心を奪われるのも仕方が無かったようである。
「わわっ! これいいな! これも! いいなぁ……」
喜々として売り物を見ていたリーシャだったが、徐々にその声が沈んでいく。
リーシャは綺麗なアクセサリーと自分の恰好を見比べて『あたしには似合わないかな』とばかりに、気を落としたのだった。
「どうしたのだ? 気に入った物があるのなら、どれでも我に言うが良いぞ」
座り込んで露店の品物を見ていたリーシャの頭に手を置いて、ソフィは微笑みかける。
「あ、ソフィ様……。い、いえ大丈夫です! よく考えたらあたしはお金持ってないですし、そもそもこんなに綺麗な装飾品、
えへへとソフィに笑いを返すが、その表情を見たソフィは何かを決心したような顔をして、直ぐに並んでいる露店の品々に視線を移して、商品を見渡していく。
「おお! リーシャよ、これを見るがよい。
そう言って一番最初にリーシャが見ていた『レグレス』という、この大陸にだけ取れる素材をあしらった首飾りを手に持ってリーシャに渡す。
「あ……っ!」
リーシャはこの首飾りを余程気に入っていたのだろう。自分に似合うかどうか迷っていたのも忘れて、持たせてくれた首飾りを見て嬉しそうに顔を綻ばせる。
「店主よ。この『アクセサリー』をこれで譲ってくれぬか?」
そう言ってソフィは懐からジャラジャラと音がする袋を差し出す。
「ん? 何が入っているんです? 申し訳ないがここに並べている商品は、一流のモノばっかりだから値を安くするつもりは……、んん!?」
店主は溜息を吐きながらソフィに渡された袋の中を改めたが、そこには『光金貨』がギッシリと詰まっていた為に驚きで目を丸くするのだった。
「悪いが今手持ちはそれしかなくてな。足りなければ値を言ってくれれば、配下に後で届けさせる。だからひとまずは、これを手付に売ってはくれぬか?」
ソフィがそう言うと慌てて店主はローブに包まれているソフィの顔をじっくりと覗き込んだ。
「あ、あ、あんた! い、いや 貴方様は、も、もしや『ラルグ』魔国のソフィ様!? ど、どひゃー!! じ、冗談はやめてくださいよ! そ、その商品はお連れのお嬢さんに差し上げますとも! ど、どうか好きなだけ持っていってください!」
露店の店主は目の前に居るのが『ラルグ』魔国王の『ソフィ』だと気づくと、慌ててそう口にするのだった。
「むっ! そうか? しかし売っている物をタダでもらうわけにはいかぬ。是非これだけでも受け取って欲しい」
ソフィがそう言って袋から『光金貨』を数枚取り出して店主へ渡すと、店主は頭を何度も下げて、ソフィから代金となった光金貨を受け取った後に、慌てて露店を閉めてその場から去っていった。
「……お主は本当に難儀な奴じゃな」
ディアトロスはこの世界の金貨の価値を知らないが、あの露店主の慌てっぷりからみても、十分過ぎる程だったのだろうなと悟り、溜息を吐くのだった。
「まぁよいではないか。さてリーシャよ。それは我からのプレゼントだ、貰ってくれると嬉しい」
リーシャはそう言われて手に持っている首飾りと、ソフィを交互に見ていたが、やがて嬉しそうにリーシャは首飾りを着けた後に、満面の笑みを浮かべてソフィにお礼を言うのだった。
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