第486話 本物
今後の組織への対応を話し合ったソフィ達だったが、話が一段落した直後に、別の話へと移っていった。
「ところでソフィよ。この世界の魔族のシスという魔族を知っておるのだろう?」
ディアトロスから切り出された、この一言がきっかけだった。
ソフィもまたこの世界から『アレルバレル』の世界へ跳んだ時のシスの魔力に、エルシスと思われる魔力を感知していたために、直ぐにディアトロスの話に食いつくのだった。
「うむ。シスはこの世界で我が治めている国と同盟を結んでいる国の女王だ」
「その女王とやらの話なのだがな。怒らずに聞いて欲しいんじゃが、あのシスという魔族は『エルシス』という可能性はないか?」
そしてその言葉にソフィは目を丸くしてディアトロスを見る。
まさか自分が思っていた事を先に言い当てられるとは、想像すらしていなかったのだから当然のことである。
「……なぜお主はそう思う?」
組織を相手にシスが『アレルバレル』の世界で暴れた事を知らないソフィは、ディアトロスの言葉に疑問を抱きながら尋ねる。
「当然お主も『神聖魔法』の事は知っているな?」
「もちろんだ」
人間の
組織の総帥である『ミラ』も使えると吹聴していたが、あれは
『神聖魔法』を扱えるのは生み出した『エルシス』と、そのエルシスから直接『発動羅列』を教わったソフィの二人だけしか使えない。
ミラや組織の者達が使う神聖魔法は本来の神聖魔法ではなく、一部の『発動羅列』のみ読み解く事が出来たミラが、その部分以外の間を自身が埋めて改変して
しかし一部分であっても神聖魔法を読み解き、ほぼ同じ効力を持たせることに成功したミラもまた、確かに天才には変わりがないだろう。
だが、決して『エルシス』や『フルーフ』といった、本物の天才と肩を並べるには至らない。
『世に無から生み出された魔法』と『既にある魔法から改変した魔法』では、明確に差があるからである。
後者も凄い事であることに間違いはない。しかし間違いではないが、難度は前者が圧倒的に高いのは覆しようがない事実である。しかしオリジナルの『神聖魔法』を生み出したエルシスは、すでに数千年前にこの世を去っており、ミラの『神聖魔法』が今の時代では或る意味で『オリジナル』と呼べるものになってしまっている。
どんなものであっても生み出された瞬間の『オリジナル』は唯一無二の存在であり、それが誰にも真似が出来ないものであるならば、更にそれは
しかし誰にも真似が出来ないものよりも、それを真似て効果は少し劣るが難度が下がり、ある程度の知識を持つ者が使えるようになるのであれば、皆それを使うようになるだろう。
ミラの使ういわば
僅か百年にも満たないエルシスの『神聖魔法』。
それを現代で扱える者はエルシスと友人であった、
「あのシスという魔族は、
――だからこそ『ディアトロス』の告げた言葉は、ソフィの耳にいつまでも残り続けるのであった。
……
……
……
シスがこの世界に戻ってきたことで『レイズ』魔国では盛大に騒がれて、祝いの場がいくつも作られた。
ようやくその場から解放されて、レイズ城の自室に戻ってきたシスは、自分のベッドの上で溜息を吐くのだった。
「ふふっ。ようやく自分の時間を持てたっていう感じね?」
そんな溜息を聞いていた彼女の師であり、家族同然の魔族『ユファ』が、シスに笑みを見せながら声を掛けてきた。
「貴方にも心配をかけてしまったわね」
シスは自分がまた内に秘めている大魔王が目覚めて勝手を働いた後、別世界にまで向かってしまった事を謝るのだった。
基本的にシスの中に眠る潜在的な存在。レアが言うには『
彼女が記憶が飛んだ時には度々この大魔王が、表に出てきているとユファは言う。
しかし今回はいつもとは違って、シス自身も途中から鮮明に記憶が残っていた。
そしてその記憶の中に居た自分のもう一人というべき存在は『憎悪の大魔王』とは違い、その
――あれは一体何だったのだろうか。そして一体自分は何者なのだろうか?
徐々に自分が分からなくなり、このまま自分は
「シス、震えているの?」
シスは
「ちょっと肌寒いなって思っただけよ。もう大丈夫」
誤魔化すようにそう告げたシスだったが、長年ずっと『シス』を見続けているヴェルを騙せるわけもなく、ゆっくりとヴェルは彼女を抱きしめる。
「あんな事があった後だからね。よく帰ってきたわよ」
勘違いをしているヴェルだったが、今の自分の不安を語るよりは勘違いをしてくれている方がまだいいと判断したシスは、こくりと頷いて見せた。
「よくレアを連れて帰ってきてくれた。それもまさか『
苦笑いを浮かべながらヴェルは、流石私のシスよと自慢気に呟いていた。
――しかしそれは
現在彼女が到達している『魔』の地点より遥かに先へ進んだ何者かが使った代物。
確かに『魔力』自体は『シス』のものを使ったというのは間違いはないが、あんな位階の『魔法』を相手の『発動羅列』を一目見ただけで瞬時に全て頭の中で暗記をして、一語一句間違えずに『発動羅列』を使って後を追いかけるなど、シス自身がこのまま研鑽を続けたところで使えるようになるには何千年かかるだろうか――。
私には潜在している『力』があるとよくユファに言われていたが、あれを使用したのは間違いなく自分ではなく、別の何者かであった事は間違いない。別の存在が自分の中に居て、自分の意識を操って使ったのである――。
それを考えてシスはまた震えが走る。いつもであればヴェルが近くに居る時は、安心感に包まれているというのに抱きしめられている今でも、一切不安は消えてはくれない。
しかしそれをヴェルに悟られるわけにはいかないと、強引に
「
だから私はいつものように、
……
……
……
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