第461話 最高位階とされる神聖魔法

 遂に『組織』との直接の戦闘が始まったが『九大魔王』の三人は、百を越える組織の『本隊』達を相手にしても一歩も退かなかった。


 そして彼らはに対しての戦い方にも秀でていたため、この数の差であってもモノともせずにいつものように勝利を手にするかと思われたのだが、実際には徐々にではあるが旗色は悪くなっていくのであった。


 ――その明確な原因は組織の司令官『ルビリス』の存在の所為であった。


 ディアトロス達が倒していった者達をこの『ルビリス』というこの場の指揮官は、次々とその魔族達の身体を治してしまうのである。


 それもただ単に回復させるわけではなく、戦闘開始以前のように『体力』と『魔力』を元通りにしてしまう。


 同じ魔法ではあるのだろうが『ミラ』とは違い、首を落とされた魔族達までは元通りにはならなかったが、致命傷である筈の者達が修復され続ける事で、敵の大元の数がなかなか減らない。


「やはりあの魔族のを何とかしなければならぬな……」


 呟く間にも攻撃を繰り出す『ディアトロス』だが、やはり潰した相手が即座に元通りになっていく。


 そこへ縦横無尽に敵を攻撃していた『リーシャ』が戻ってきた。


「ディアトロス様! アイツら全然減らないしきりがないよ!」


 ディアトロスに喋りかけながらもリーシャは、こちらに向かってくる奴らを切り伏せていく。


 しかしやはりディアトロスが魔法で攻撃したときと同じように、ルビリスによって瞬時に元通りにされていく。


「それに奴らは元通りになる毎に、徐々に耐久力が増していっているようだ。段々と俺の攻撃でも胴と首が切り離せなくなってきている」


 最初の方は衝撃波だけで敵を蘇らせないように出来ていたが、一度イリーガルの攻撃に耐えられた者は、あのルビリスの『魔法』によって耐久度が増してしまい、二度目はもうまではいかなくなっていくのであった。


「それもアイツの魔法が原因なのだろうな……。今では失われし根源の魔法と呼ばれてはいるが、かつては『神聖魔法』と呼ばれていた魔法の類だろう。あの大賢者『エルシス』と呼ばれていた人間が、編み出した魔法を使っているようだ」


 魔法の位階では『神聖魔法』は、現在の『神域魔法』と同列に扱われているが、効力を含めてより複雑なギミックが多く、更に使う者が極端に少ない為にあまり見る機会はなく、対策もあまり立てられてはいない。それもまた苦戦する要因であった。


 どれだけ強い魔法であっても『魔法』の仕組みを理解していれば『九大魔王』と呼ばれる者達の領域に立つ者であれば、対策の一つや二つたてられるものだが、倒した相手が元通りになる魔法をこの頻度で使われては、流石にどうしようもなかった。


 ――そして何より一番厄介なのは、その魔法を使う司令官『ルビリス』自身が強い事である。


 流石に組織の司令官と呼ばれるだけはあり『真なる大魔王』領域に居る他の組織の魔族達であれば、一撃で絶命させられる程の攻撃であっても何事も無くルビリスは、耐え凌いで見せるのだった。


 周りの敵も倒すたびに少しずつ耐久力が上がっている為に、ルビリスだけを狙う程余裕も無くなりこのまま戦闘が続けば、ジリ貧に陥っている自分達が不利になっていくだけだろう。


「全く『神聖魔法』は厄介な魔法じゃのう……!」


「ディアトロス様……」


 普段のディアトロスからは聴いたことがない弱音に、リーシャは驚きながら、やがては苦悩の表情を浮かべるのだった。


精霊女王ミューテリア殿よ。貴方の『魔法』で一時的にでも何とかすることは出来ないだろうか?」


 精霊女王『ミューテリア』を守るように、横に立っていたイリーガルがそう口にするが、ミューテリアは首を振って無理だと態度で示すのだった。


 『リラリオ』の世界と同じように『アレルバレル』の世界でも、かつては『魔』を司る種族として『精霊族』は『四元素』の『ことわり』を生み出して用いることで、その地位を確立していたものだったが、当時の大魔王『ダルダオス』が魔族達を率いて他種族を戦争に巻き込む頃には、とても抵抗が出来るほどではなくなってしまった。


 やがては大魔王『ソフィ』や、大魔王『ディアトロス』が台頭し始める時代に入った頃。すでに精霊を上回る『ことわり』を生み出した大賢者『エルシス』という人間の出現に際して、精霊は遂に『魔』の頂点グループから外れてしまった。


 そんな旧世代の『ことわり』しか持っていない精霊女王ミューテリアに、当時でさえ『エルシス』が作り出した『ことわり』の中でもであった『神聖魔法』をと言うのは酷だろう。


 もしこの場に『エイネ』や『ホーク』といった、対する相手の『魔力』に干渉し得る戦い方をする者達や『九大魔王』の仲間達が揃っていれば『智謀』を活かして作戦の一つや二つ。ディアトロスが立てる事も可能だっただろうが、今の状況では流石に知略に使う駒が少なすぎた。


「やむを得ぬ、お主達は離れよ」


 ディアトロスが溜息を吐いた後に『イリーガル』達にそう告げると『魔力』を開放し始める。


 それを見たリーシャとイリーガルは頷き、即座に配下の者達や『ミューテリア』を守る為に行動を開始する。


 ――『九大魔王』筆頭である『ディアトロス』は、自身の持ち得る最大の『魔法』にして敵を『の魔法』を使う準備を始めるのだった。


 …………


「どうやら『智謀』殿も本気になられたようですねぇ? かつてはあの化け物ソフィと渡り合ったといわれる『智謀』殿。その『計略』とやらを見せていただきましょうか?」


 『魔』に対して異様な執着心を持つミラと同じく、その配下である彼もまた『魔』に魅了された者のようであった。


 ……

 ……

 ……


 『リラリオ』の世界に戻ってきたレアだが、直ぐに追いかけてくると思っていたシスが、なかなか戻ってこないために焦り始める。


「やっぱりおかしい! あの後に何かあったのかしら?」


 このまま一度ソフィ達の元へ戻ろうと考えたが、何かあったとしても向かえるのは『自分』と『ユファ』しか居ない。


 ――悩んだ末にレアは再び『概念跳躍アルム・ノーティア』の詠唱を始めるのだった。

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