第七章 幕間

第416話 これまでの清算

 ソフィの屋敷の一室。キーリはレアの話を最後まで聞いた後に涙ぐんだ。


「お前と再会した時に、余りの変わり様にコイツには一体何があったんだと思ったものだが。お前も苦労して頑張って一生懸命に生きていたんだな」


「そうね……。結局フルーフ様を見つける事は出来ないまま『レパート』の世界の留守を数千年守ってきたつもりだったけど、結局騙されて何もかも失っちゃった」


 ヴァルテンに最後の最後に騙されて何も悪い事をしていないソフィに敵対してしまい、大事な配下や同胞を失って最後にはその配下に裏切られて、剰えこれまで頑張って強くなった身体を失い『代替身体だいたいしんたい』の身体でレアは惨めに生きている。


 それも自分が喧嘩を吹っ掛けた相手に温情をかけられて、この場に居るのである。


 レアは今どんな心境でここに居るだろうか? キーリはソフィに戦争を仕掛けたレアに怒りすらわいていたが、今はとてもそんな風には考えられなかった。


「おい! ちょっと待ってろよ? 絶対にどこにも行くんじゃないぞ!?」


 部屋を案内してこいと言われたばかりのキーリだったが、レアの話を聞いて居てもたってもいられずに部屋を出て急いでソフィの元へと向かうのだった。


 ……

 ……

 ……


 屋敷のソフィの部屋でユファと話をしていたソフィの元へ、キーリが駆け込んできた。


「ソフィ様! 頼みがあるんだ。あいつを、レアを見捨てずに当分屋敷に置いてやってくれねぇか?」


「む? いきなりどうしたと言うのだキーリよ」


 ソフィはさっきまでレアにとっていた態度と、明らかに違うキーリを見てそう告げる。


 黙って話を聞いていたレアの同胞である『ユファ』も驚いた顔を浮かべるのだった。


「アイツは騙されていただけなんだよ! 親のために懸命に生きてきただけなんだ」


 レアとをかけて戦い、そして生死をかけた因縁の相手だからだっただろうか。

 キーリはレアの話に感情移入して、普段からは想像できない程の必死の形相を浮かべて、ソフィに直談判をするのだった。


「我はあやつを見捨てるつもりはないぞ?」


「そ、それじゃ、あいつを許してくれるんだな? さ、流石ソフィ様だぜ!」


「まぁ、このままお咎めなしという訳にはいかぬがな。キーリよ悪いがレアを呼んできてくれるか?」


「あ、ああ。分かったぜソフィ様」


 そう言って慌ててキーリは、部屋を出ていった。


「ソフィ様。あまりきついお灸は、すえないであげてくださいね?」


 ユファが恐る恐るそう言うと、ソフィはクックックと笑うのだった。


 ……

 ……

 ……


「よ、呼んだかしらぁ? 大魔王ソフィ」


 必死に平静を装いながら喋るレアだが、足はガクガクと震えており他者からは丸わかりであった。ソフィはじっとレアを見つめたまま喋らず、何をすべきかを告げるかの如く視線を送る。


「大魔王ソフィ。この度は申し訳ありませんでした! 謝罪をしたところで許される事とは思ってはいませんが、私に出来る事で償っていきたいと思いますので、もう少しだけ猶予を頂けないでしょうか」


 ソフィの酷く冷たい視線に晒されながら、レアは唇を噛み必死に震える体を抑えてしっかりと謝罪をするのだった。


「魔王レアよ。お主の謝罪はしかと受け止めた」


 恐ろしい程の威圧感を出しながら、ソフィはレアに言葉をかける。


「お前は罪を償うといったな? ならばフルーフが見つかるまで、お前は我に従ってもらうぞ?」


「分かりました……」


 自分はどうなっても構わないという覚悟が固まったのだろう。レアはソフィの言葉に素直に従うのだった。


「早速だが、お前に命令を下す」


 ゴクリと唾を飲んでレアはソフィの顔を見る。


「お主が我の元から離れる事は許さぬ。フルーフが見つかるまでの間、我の配下となってもらい、キーリやユファと協力してこの『ヴェルマー』大陸の繁栄に尽力してもらう」


 ユファやキーリが目を丸くして驚く中、告げられたレアはこくりと頷いた。


「分かりましたソフィ様、謹んでお受け致します」


 その言葉を聞いたソフィは、出していた威圧を止めて首を縦に振るのだった。


 フルーフという『レパート』の支配者の娘にして、過去の『リラリオ』の世界を支配したレアは、長き時を経て『アレルバレル』の世界の統治者『ソフィ』の配下となった。


 ……

 ……

 ……


 誰も居なくなった自身の屋敷の部屋で彼は静かに呟く。


「フルーフよ。お主の愛娘は我が責任を以て預かる。これ以上誰にもお主の娘を傷つけさせはせぬから安心するがよいぞ」


 こうして長きに渡ったレアとの戦争は本当の意味で幕を閉じた。この時のソフィの決断が後にレアにとって、生涯を左右する程の幸運を得たことは、まだ誰にも分からなかった。


 ……

 ……

 ……

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