第383話 スパルタ教師

 それからも連日レアはエイネに修行をつけてもらっていた。


 エイネに『』の練度と『』の練度のバランスの調整方法を教えてもらいながら『紅』から発動して『青』を段階的に上げていくという方法にシフトしていった。


 ようやくレアも魔力を制御するコツのようなモノを掴み始めて、一定時間であれば『金色の目ゴールド・アイ』で制御せずともおさえられるようになっていた。


 ――だが、これではまだまだ戦闘などでは使い物にはならない。


 こちらが練度の調整をしている間に敵がゆっくりと待ってくれる筈がないだろうし、相手がエイネのようなデバフを用いるような攻撃者であれば、今のレアはあっさりと敗北してしまうだろう。


 ここにきてようやくレアは『バルド』が言っていた『』の意味を理解し始める。


 単に魔力や戦力値が高いから戦闘で勝てるという単純な事ではなく、それは戦闘を有利に推し進める為の材料だと理解することが重要だったのだ。


 確かに魔力や戦力値が相手より高ければ、それだけ余裕をもって相手の攻撃に対応できる。戦力値の高さなどのアドバンテージは、それくらいの物だと見ておくくらいで丁度いいのである。


(でも多分エイネがオーラを纏い始めたら、今の私じゃ相手にならないでしょうけどねぇ)


 だいぶゆとりを持ってオーラの制御が出来るようになってきたレアは、通常状態であれだけ強いエイネが本気になって『二色の併用』などの技法を使い始めたら、どれだけ恐ろしい強さになるだろうかと考え始めるのだった。


「30分経過! バッチリですよ、レアさん! オーラの維持を解除して構いません」


 エイネがそう言うとレアは息を吐きながら通常状態へと戻っていった。


「ふぅ。疲れたわぁ」


 そう言うレアだが当初に比べたら比較にならない程落ち着いている。最初の数日間は『金色の目ゴールド・アイ』なしの『二色の併用』の魔力制御は10分程度さえも持たなかったのである。


 それが今はある程度余裕を持って30分の維持が可能になっていた。戦闘になれば相手に集中しながら戦わなくてはならなくなるために、実戦では半分の15分程しか制御が出来ないだろうが、それでも最初に比べれば大きな躍進である。


「いいですね。ではこれからの修行は、もう一つ先へと進みましょう!」


「ここまでして、ようやく一歩前進なのねぇ」


 疲れた顔を見せていたレアだが、ようやく修行が先へ進んだ様子に嬉しそうな顔をするのだった。


 エイネは後ろを振り返り、未だに『』をずっと維持し続けているリーシャに声をかけた。


「リーシャ? 『紅』をやめてこっちへ来て」


「エイネさん? うん、分かった!」


 たたっと駆け寄ってくる『リーシャ』の頭にエイネは手を置きレアを見る。


「それではレアさん。今度からはこの子と戦いながら『二色の併用』を制御してください」


「「え!?」」


 レアとリーシャは、同時に驚き声をあげたのでハモってしまう。


「わ、私はいいけどその子が私の魔力に圧し潰されないかしらぁ?」


「私も自信がないよ。エイネさん……」


 レアと一緒に修行を始めた当初に、レアの『二色の併用』の魔力に圧し潰されそうになったリーシャは、それからはエイネが緩和材のように間に入り、魔力の分散の役割をしてもらっている。


 しかしその魔力の大元の持ち主であるレアと戦うとなると、今のリーシャでは一瞬で意識が落ちてしまうだろう。そう考えた二人は、同時にエイネを見るのだった。


「そうです! レアさんの次の修行はそこがポイントですよ」


 二人の疑問をすでに予想していたエイネは、そう告げるのだった。


「いいですかレアさん? 今度は魔力の制御をするときに、封印していた『金色の目ゴールド・アイ』を使ってください。但し使用目的は、魔力の余波をリーシャに向けないように矛先を私に向けるためにです」


「ま、待って! 流石にそれは……。リーシャと戦いながら今まで通りに練度の調節をしつつ『金色の目ゴールド・アイ』で貴方に魔力を向けるってことよねぇ? そんな器用な事は出来ないわよぉ」


 レアがそう言うとエイネは首を振る。


「大丈夫。魔力の制御を30分持たせられるようになったレアさんであれば、可能であると判断しました。私が出来ると言っているのですからやってください」


 怖い笑顔を見せながら堂々と言い張るエイネに、レアは一歩後ずさる。


「あーあ。エイネさん本気の時の表情だ……」


 リーシャも顔を引きつかせながらそう呟く。


「あの子って修行の事になると普段からは、想像がつかない程にスパルタになるわよねぇ」


「エイネさんを怒らせると、いつもああなるんだよ? 大人しく言う事を聞いた方がいいよレア」


「ほらほら!休憩終わりですよ! レアさん、リーシャ! 早く準備してくださいね!」


 こそこそと二人で話し合っていると、ぱんぱんと手を叩きながらエイネは大きな声を出して、そう告げるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る