第361話 世界を支配する魔王レアとエリス達への涙

「何て事だ……! 始祖様の本来の姿を再び目の当たりにすることになるとは……」


「一体、何千年ぶりだろうか?」


「私は初めて見ますよ」


 まさか魔人族ではなくましてや精霊でもなく、たかが魔族とすら思っていた守護龍達はこの『魔王』レアの強さに驚き、その『魔王』を滅ぼすために彼ら龍族の女王『キーリ』が龍型になったのを見て『十体の守護龍』達は口々に思い思いの言葉を漏らすのだった。


 ――『始祖龍キーリ』。


 この『リラリオ』の世界で最古の存在にして調停者。そして現在に於ける世界の全ての種族の頂点に立つ龍族達の王――。


 その最強の座に長きに渡り君臨する始祖龍キーリが、たった一体の魔族を『強敵』と認めたのである。


 そしてその『キーリ』に対するレアは、この世界に来た時に感じた『圧倒的強者』の魔力を目の前の龍から再び感じ取っていた。


(ああ……。こいつで間違いないわねぇ……! 今の私でも必ず勝てるとは、言えなくなっちゃったわねぇ)


 彼女レアは二色のオーラを併用して尚、キーリの底知れぬ力を感じ取って微かな恐れを抱く。


 レアはキーリがいつ攻撃を仕掛けてきても、いいように集中力を研ぎ澄ませる。


 そして何の前動作もなく、キーリは一瞬で口から炎を吐いた。


 先程までのレアであればこの『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』の速度に、ついていけずに焼かれていただろう。


「は……っ、や……! 速すぎる……!」


 レアは何とかキーリの炎を躱すことに成功するが、いつの間にか目の前にまでキーリが迫ってきておりその鋭利な爪でレアの肩を引き裂く。


「くっ……!」


 二色の併用に包まれているレアだが、それでもキーリの真の姿の前では力も速度も一歩届いていなかった。何とか直撃を避けるが、彼女はそれでもやられるのは時間の問題だと判断する。


 そして再びレアに向かって『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』が吐かれる。


「何度も何度も……、しつこいのよぉっ!」


 ――神域魔法、『凶炎エビル・フレイム』。


 『青』3.2 『紅』1.2からなる二色の併用を用いたレアの出せる最大級の魔法を『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』にぶつけるのだった。


 キーリの『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』と、レアの『凶炎エビル・フレイム』。


 互いの炎が混ざり合い速度が殺されて、そのままその場で大炎上する。


「相殺すら上手く出来ないのは……、まずいわねぇっ!」


 キーリは空を泳ぐように移動しながら、いつの間にかレアの傍まで迫り寄ってきていた。そしてレアはそれに気づいて高速転移を繰り返しながら距離をとるが、恐ろしい速度を出すキーリに一瞬で距離を詰められていく。レアは回避を繰り返しながら、どうやってキーリを倒すかを考える。


(二色の併用を用いれば、私の『凶炎エビル・フレイム』ならダメージを与えられる筈。何とかして隙を見つけることが出来れば……!)


「よし……!」


 レアは一つの案を見つけてそのまま敵である龍族、先程キーリに蹴り飛ばされて命を救われた『守護龍』の元へと駆け寄っていく。


 その様子を見ていたキーリは、長い体をしならせながらレアに追従していく。


「何をするつもりか知らねぇが、これで終わりだ!」


 レアは背後に迫りくるキーリ無視して目の前の守護龍達に『金色の目ゴールド・アイ』を仕掛ける。


「!!」


 レアの『金色の目ゴールド・アイ』で操られた守護龍達は目が虚ろに変わっていく。


「な……っ、何!?」


 守護龍筆頭のディラルクと最近守護龍になったミルフェンだけは、レアの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』の術中に嵌らなかったが、他の守護龍達は術中に嵌められたようで、キーリの前に立ちはだかってレアの思い通りに、一斉にキーリに向かって炎を吐いた。


 キーリは同胞に『龍ノ息吹ドラゴン・アニマ』を吐けずそのまま炎に包まれる。


「く、くそがぁっ!! 『魔王』レア!! 貴様だけは許せねぇっ!!」


 同胞の炎をその身に浴びながら、怒りをレアに向けるキーリ。


「るっさいわねぇ! こうでもしないと私は……。わ、私はぁ! !!」


 ――神域魔法、『凶炎エビル・フレイム』。


 先程とは違って今度のレアの神域魔法は、魔力を込めた全力の魔法。


「ぐわああっっ!!」


 流石に戦力値が6億を超えるキーリであっても、今のレアの神域魔法に大ダメージを受けたようだった。


「さ、さっさと……!! 滅びろぉ! !!」


 ――神域魔法、『天雷一閃ルフト・ブリッツ』。


 トドメとばかりにレアは『』からの『』を放つ。


「ま……、まだだぁっ!!」


 ――『龍呼ドラゴン・レスピレイ』。


 炎に包まれながら雷に打たれながらも大空で落ちることなく、キーリは憎しみを込めた目でレアを睨みつける。


 キーリの第四段階の『龍呼ドラゴン・レスピレイ』は、大空に居たレアはそのキーリの龍呼を浴びて地面に叩きつけられて地に伏す。


「う……っ、ごっけ……! 動……け、動けぇっっ!!」


 声が掠れる程に声をあげたレアは、地に伏しながらも決死の覚悟で『時魔法タイム・マジック』の詠唱に入る。


 互いにもう手加減も遠慮もなく、全力で憎き敵を殺す為に大技を次から次に使っていく。


「うわああっっ! 滅びろ!!! 『魔王』レアぁ!」


 キーリは真の姿の状態で『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』を放とうとする。


 ――それはもう手加減など考えず、大陸ごと消し去ろうとする。


 もはや自分の大陸が沈んでしまおうとも、確実にこの『強敵』を今仕留めなければならない。世界の頂点に立つ始祖龍はかつてない危機感を抱きながら『魔王』レアを仕留めに入る。


「さ、させるもんですかああ!!」


 レアの目が『金色』に輝いたかと思うと、キーリの周りに居た龍達が一斉にレアを守るように、キーリの龍滅の発射線上に入る。


「く……っくそ! お、お前らどけぇ!」


 怒りで頭に血が上った状態のキーリは大声で叫ぶ。


 冷静な状態であればレアが接近している事もレアがやろうとしている事にも、対応が出来たかもしれない。


 しかしレアという『魔王』の強さが予想以上であった事に加えて、大きく力を使わされた挙句に同胞達を操られて、その同胞達を盾にも使われたキーリは逆上して頭に血が上っている。


 そんな状態で『魔王』レアが使う『時魔法タイム・マジック』を冷静に回避出来る筈もなく――。


 ――神域『時』魔法、『空間除外イェクス・クルード』。


 ――その範囲は『ターティス大陸全域』。


『二色の併用』を用いたレアが持ちうる全魔力を使って『時魔法タイム・マジック』を発動させるのだった。


「な……っ……!? か、体が……!?」


 レアの恐るべき魔法の効力を察したキーリは、何とかレアを殺そうと手を伸ばそうとするが、もはや動く事は叶わない。


『魔王』の最大級の魔法の前にキーリ達は、止められた時の中に大陸ごと永遠に『除外』されるのだった。


「や……、やった……! やったわぁ!」


 精も根もつき果てたレアはフラフラと空を飛びながら、忽然と姿が消えた『ターティス』大陸を見下ろす。


「か、勝ったわよぉ! エリスちゃん!」


 痛む肩を無理やり挙げたレアは、頭上でガッツポーズをとり、笑みを浮かべる。


 そしてそのまま『ヴェルマー』大陸の方向を一瞥すると、儚げな表情を浮かべる。


「セレスちゃん、ラクスちゃん、ベイドちゃん……! 後のことは頼んだわよぉ……!」


 この『リラリオ』の世界に来て凡そ十年――。


 ――見事にレアはフルーフの命令を成し遂げて、この世界の頂点に立つ種族『龍族』をうち倒して、この世界の後の世の為に『ことわり』を残しつつ『精霊族』をも破り、虎視眈々とこの世界の支配を狙っていた『魔人族』をも葬りさる事が出来た。


 レアの功績によって残された魔族達は『』を導いていく新たな種族となり『龍族』の王、キーリを倒したレアの名は数千年経った後の世でも『』として、語り継がれていくのであった――。

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