第351話 大事な家族を失う気持ちを知った魔王レア
ヴェルマー大陸に襲撃を仕掛けてきた『ブリューセン』と、その龍族の全部隊を滅ぼしたレア。しかし被害は甚大であり、ヴェルマー大陸中の魔国はほぼ壊滅。生存者はそれぞれの魔国にも数える程しか残っておらず、魔国の王や重鎮達は軒並み龍族に滅ぼされてしまっていた。
三大魔国と呼ばれヴェルマー大陸では大国中の大国であったトウジン魔国や、レイズ魔国も滅ぼされてしまい、トウジン魔国王『クーディ』や、レイズ魔国王『エリス』も戦死。
現在この大陸で国の王として生存出来ているのは、大陸の王であるレアだけであった。
レアはレイズ魔国から命からがら生還を果たしたレイズ魔国の女王エリスの娘『セレス』をラルグ魔国で預かる事にし、現在はラクスに別室を案内させている。
今後の話し合い等を終えて自室へ戻ってきたレアは、ようやく自分の時間を手にする。
そして誰もいない部屋のベッドで寝転んだレアは、自分でも信じられない程の脱力感に襲われていた。
――原因は間違いなく龍族の手によって命を奪われた『エリス』の事だった。
「エリスちゃん……」
レアは目を瞑ってエリスの名前を呼ぶ。
その瞬間――。
今まで自分に構ってくれていた優しいエリスの姿が思い浮かんでくる。
この国の王として就任した当初こそ、エリスに距離を置かれていたレアだが、長年接していくうちに徐々に打ち解けていき、最近では何かあればレアはすぐにエリスに相談に行っていた。
レアが何か無理を言っても『仕方ありませんね』と、彼女は溜息を吐きながらも協力してくれた。レアが困っていると助けてくれて、レアがやりすぎそうになると彼女はやんわりと止めてくれた。
エリスに魔法を教えてあげると嬉しそうな顔を浮かべて、そして勤勉にその魔法を練習し、次に会う時にはしっかりと自分の魔法にして私を驚かせたエリス。
「そういえば……、青を覚えた後にすごく興奮しながら嬉しそうにしていたわねぇ。私がそこで満足しないようにって、水を差すような事を言ったのに……」
――『勿論です! レア様のお力になれるようこれからも精進して参ります!』。
「……っ、そういって………、貴方は嬉しそうに……、私に話してくれたわよねぇっ……!」
『レパート』の世界では『フルーフ』以外に家族と呼べる者がいなかったレアにとって、エリスは母親のような存在だったのかもしれない。
「フルーフ様ぁ……、
ベッドの上で次から次に目から涙が流れてくるのを必死で拭いながら、レアはそう独り言ちる。
「私が弱いから、エリスちゃんを守れなかったんだ……! 私が弱いから同胞達を守れなかった……! 私が一撃で龍族を滅ぼせる程強ければ……、この世界に来た時に、真っ先に龍族を滅ぼせたんだ!!」
激しい怒りの感情がレアの中で暴れまわる。龍族に対してではなく、自身の弱さに憎悪しているのだ。
「私がフルーフ様程に強ければ、こんな思いはしなくてすんだ。誰も、誰も、誰も!! 死なせる事もなく!!」
気が付けばレアの周囲を
――それはこれまでの『
「許せない……、許せない!! 誰よりも弱い自分が許せない!!」
レアはそう吐き捨てると、血が出る程唇を噛みしめる。そしてゆっくりと起き上がると、そのまま自室を出ていった。
廊下でうろうろとレアの部屋の周りを、うろついていたラクスと遭遇する。ラクスは部屋から出てきたレアに気付き、声をかけようとしてレアに寄ろうとするが――。
――レアの顔を見て凍り付き、ラクスはその場で動けなくなった。
そしてレアは一度もすれ違うラクスの顔を見ることなくそのまま横を通り過ぎていく。レアの目は『金色』に輝いていた。
――この時、ラクスは魔人の本能で死を回避出来たのだ。
もしこの怒り狂うレアに何か話しかけでもしていたら、いくらレアのお気に入りのラクスであっても、どうなっていたか分からなかった。
それ程までに今のレアは恐ろしい存在へと変貌を遂げていた。
魔人としてこの世界の上位種に君臨するラクスが、すでに『幹部級』の最上位と呼べる程に強くなった『
そしてレアは無言のままで、誰も居なくなった城を出ていき大空へ飛び立つ。
ヴェルマー大陸の上空で、海に向けてレアは力を開放する。
「うあああっっ!!」
そのレアの咆哮は果たして、誰に向けての言葉だったのか。
大事な者を初めて失う経験を味わったレアは、自分の弱さを嘆き狂い怒りに身を任せ魔力を暴走させる。
とても『魔法』と言えるようなモノではなく、大空に『魔力』の塊を放出しているだけに過ぎない。
――しかし、それを
遠く離れた『ターティス』大陸に居る神々に近い種族である龍族。その王である始祖龍『キーリ』でさえ、玉座から身を起こして脂汗を流す程のレアの魔力なのだから。
――リラリオの世界に於ける『レア』の物語の
……
……
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