第327話 四元素以外の理

 青を纏ったレアの膨大な魔力を目の当たりにしたジウは、相手が精霊族より格下の魔族だという常識を頭から捨てた。


「なによぉ、言葉が通じるなら初めから話なさいよぉ」


 ニコニコと笑うレアを見て、ジウは助かったと大きく息を吐いた。


 しかし笑みを浮かべたままレアが手をこちらに翳したかと思うと、なんと高密度の魔力を具現化させた魔法をこちらに放った。


 瞬間、ジウの右手は吹き飛ばされる。


「うぐぐ……っっ!! 何をしやがるっ!?」


 許してもらえたと安心していたジウは、痛みと驚きで怒りを露にしながらレアを睨むが、レアの顔を見た瞬間にその怒りは吹き飛んで『ジウ』の全身に震えが走るのであった。


「何をしたかですってぇ? お前を拷問する為にまず右手を飛ばしたのよぉ」


 その言葉にジウは怖気が走った。


「ま、待ってくれ! 質問には答えるつもりだ! だから攻撃をやめろ!!」


 交換条件を提示するようにジウは、レアに向かってそう言った。


 しかしジウが話し終えた直後に、今度は左足を攻撃される。


「ぐわ……っ!!」


 先程と同じく今度はジウの目にも映らぬ速さで左足を吹き飛ばされる。何故攻撃をされているのか、理解が出来ないジウは混乱に陥る。


「うふふふ。お前は一体何様のつもりなのかしらぁ? お前が私の質問に答えようが答えまいが、お前はここからもう生きては帰れないのよぉ?」


 幼女はとんでもない事をケタケタと笑いながら言い始めるのだった。


「なっ……!?」


 ジウはその言葉に絶句してしまう。


「さて、じゃあ質問に答えてもらおうかしらぁ? 別に言いたく無ければ、言わなくてもいいのよぉ?」


 レアがそう宣言すると今度はジウの左手が吹き飛ばされる。


「!?」


 手足を吹き飛ばされた痛みで空を飛んでいられず、ジウは地上に崩れるように落ちて行くのだった。


 レアは左手の人差し指をくいっと持ち上げるように上に向けると、地面に落下していたジウの体が、ふわふわとゆるやかな速度に変わりその場で固定させられた。


 二発目以降は魔力障壁を展開していたにも拘らず、そんな物は最初からなかったかの如く、レアはあっさりとジウの部位を次々と壊していく。


「さぁてぇ、それでは質問よぉ? まずお前はどこの誰で何が目的で私の大事な配下を操ってくれたのかしらぁ?」


 ゆっくりと降下してくるレアは変わらぬ笑みを浮かべながら、再び質問という名の尋問を始めた。


 圧倒的な強さの魔人達がこの魔族の王に敗れた理由が明確に分かった。このレアという魔族の王は魔人より遥かに力が強く、そして魔力は我々精霊よりもにいる。


 言ってしまえばのだ。


 このレアという魔族は、神に近い種族と呼ばれる『龍族』と肩を並べられる程の存在なのだ。


 無事にこの情報を『トーリエ』大陸に届ける事が出来たとしたら、ジウは長老たちに魔族には手を出さず、自分達に対して矛を向けられないように目を付けられないように上手く立ち回り、事なきを得ようと進言するだろう……。


 ――と。


 ――だがそれはもう出来そうにない。何故ならこのレアという『魔族の王』から逃れる方法がジウには思いつかないのであった。


 せめてジウは精霊の未来を守るために、自分を犠牲にしてでも種族を隠し通さなくてはならない。


 もしこの女に自分が精霊族だという事がバレてしまえば、精霊族はこの日を境に滅ぼされるかもしれない。


 このレアには交渉等は期待出来ない。かといって逆らえば精霊族は、魔人族の二の舞になるだろう。ここに来た事を激しく後悔するジウであった。


「……さっさと答えろ。お前は何が目的でここに来た?」


 口調が変わったかと思えば、レアの体の周囲を再び『青のオーラ』が纏われ始めた。


「!」


 ジウはレアの圧力をその身に受けて答えてしまいたいという思いが、頭をよぎるが必死に堪える。レアはその様子を見て数秒程思案をする。


 ジウは何を言われてももう口は開かないという覚悟を以て、無言のレアを見つめるのだった。


 その視線を受けて何を思ったのかレアは笑うのだった。


「貴方。なかなかやるわねぇ? 貴方が今何を考えているか当ててあげましょうかぁ?」


 クスクスと笑うレアは空をゆっくりと泳ぐようにジウの元へと近づき、そしてジウの頬にレアは指を這わせながら艶めかしい声で囁く。


 ――


「!?」


 ――次の瞬間。


 ジウは力を開放し本来の精霊の姿へと戻り、レアに向けて『風』の衝撃波を放つのだった。


 自分が精霊だと言う事を誤魔化す必要が無くなった『ジウ』の本来の力で放たれたその攻撃は、魔族程度ならば即座に真っ二つに出来る程の高魔力が込められていた。


 ――超越魔法、『精霊越風シルフィード・ウィンド』。


 最上位精霊ジウから放たれた鋭利な風の衝撃波がレアに向く。


「アハハ! どうやら本当に当たったようねぇ?」


 レアは信じられない速度で放たれた衝撃波と同じ速度、いやで一気に離れた。


 そしてレアはこれは愉快とばかりに笑ってカマかけに成功した事で上機嫌になると、そのまま距離をとったレアは自身の周りに魔法陣を展開する。


 この魔法陣を展開するための数秒を稼ぐために距離をとったのである。


 そして向かってくる恐ろしい程の風の衝撃波を冷静に見据える。右手をあげてその風に照準を合わせてレアは魔法の言葉を呟く。


 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。


 バチバチと音を立てながら展開した魔法陣が、更に具現化されて浮かび上がり高速回転を始めた。そしてジウの衝撃波を全て消し去ってしまうのだった。


「な……っ!? き、消えた……?」


 最上位の精霊のジウだが、見たことも聞いたこともない事象に驚く。そしてそんなジウにレアは言葉を向ける。


「精霊なんて初めて見たけれど『魔』を司る精霊と私のフルーフ様の『魔』と、どれくらいの差があるのかしらねぇ?」


 そう告げると確かめるように、レアもまた『風』の魔法を放つ。


 ――神域魔法、『点風ヴァン・ポイント』。


 次の瞬間には『風』を操る精霊ジウは、自らの風の力を全てレアに奪われたかと思うと、一瞬でその風に飲み込まれて切り刻まれ始めた。


 ジウは全身を傷つけられながらも何とか自らの力で抑え込もうとする。


 『風』の精霊でなければ、すでに事切れていただろう。


 流石は精霊と言いたいところだが、精霊の力を測り終えたのかレアは鼻を鳴らすと、威力を『』させた。


 それもその筈。レアの放った『風』はこの世界の精霊の『風』ではなく、違う世界の『ことわり』が使われている。


 四元素ではない『風』である為、この世界の『風』の精霊の支配下にはない。


 似ても似つかぬその『風』。その原初に位置する『ことわり』を体現せしは、の魔法である。


 そうであるならば全くの別の事象である為に、別の魔法の如く世界に扱われて、純粋な魔力の差があるその『理』の『風』は『風』の精霊を容易く飲み込み始めていく。


「実験材料になってくれてありがとねぇ?」


 必死に抗っている精霊に向けてそう言うと、更にそこからレアの魔力が跳ね上がっていく。


 ――『二色の併用』。


 『青』と『紅』その二色は最初から同一色だったかの如く鮮やかに混ざり始めた。


 ――『青』2.9と『紅』1.2。


 併用されたその二色は、レアの基本値となる魔力と戦力値を飛躍的に上昇させる。


 そしてその膨大な魔力に飲み込まれたジウは『点風ヴァン・ポイント』によってこの世から完全に消滅させられたのだった。


「さぁてぇ、貴方の魔力は覚えたわよぉ」


 そしてレアはジウを消し去った後に、直ぐに行動を開始する。


 その場で『二色の併用』の魔力を保持したまま『の範囲をする。


 精霊ジウの魔力をベースとしてその魔力を持った、同一単位の種族を自身の魔力感知・魔力探知・漏出サーチ。全ての探索ルートを魔力で最適化して探し始めるのだった。


 そして僅か数秒でこの大陸から遥か離れた『トーリエ大陸』の存在。その精霊の魔力を掌握する。


「ふふっ、見つけたわよぉ……?」


 ……

 ……

 ……

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