第320話 エリス女王の必死の説得
「今だ! ひっ捕らえろ!!」
衛兵の一体がそう言うと、他の魔族達もラクスに向かっていく。
「く、くそっ!!」
ラクスはスクアードを再度身に纏い始めて、近づく衛兵達に向けて手を振る。
その風圧だけで『上位魔族』の衛兵達は吹き飛んでいき、城の壁に激突して白目を剥く。
「やりやがったな!!」
他の魔族達は顔を強張らせながら、再びラクスを捕らえようと向かっていく。
「止まりなさぁい」
呆然と事の成り行きを見守っていたレアは、そこでようやく声を出す。
レアが口を開くとその場にいた衛兵達は素直に手を止めて足を止める。
――レアの目は『金色』に輝いていた。
「レア……」
ラクスは自分を助けてくれるものだとばかりに、少しだけ安堵した笑みを浮かべてしまう。
「貴方、どういう事情があったかは知らないけれど、エリスを傷つける事だけは許せないわ」
その言葉にラクスは何故か、
「ち、違うつってんだろう!! 何故誰も俺の言う事を聞いてくれねぇんだ!! 結局は俺が魔人だからか!」
ラクスが望んだ行動ではないが、突発的な感情に突き動かされて流されていく。
興奮して喋っているにも拘らず、まるでこの状況を俯瞰的に見ているような不思議な感覚に包まれながらラクスは『スクアード』を再び纏い始めて、気が付けばレアに向けて戦闘態勢をとってしまうのだった。
「私に戦意を向けて、どういうつもりかしらぁ?」
レアにしてみれば大事な側近であるエリスの腕を切られて配下を襲い、そして今自分に戦意を向けられているのだ。これではもう冗談では済まされない。
流石のレアも完全に笑って見過ごすような状況ではなくなった。
だが、こんな状況になっているのに張本人であるラクスは何故か現実味がなかった。
まるで物語の中のお話を読んでいるような。誰かが自分を動かしているような、勝手に話が進んでいくような感覚であった。
しかしそんなことを今気にしている場合ではない。現実に今レアは戦う姿勢を向け始めている。この場に残っていればレアに殺されてしまうだろう。
「お、お待ちください。レア様……」
そこへ医務室へ運ばれた筈のエリス女王が、魔族達に肩を借りながらこの場に戻ってきたのだった。
「エリスちゃん!?」
慌ててレアはエリスの元へ駆け寄る。
レアは回復魔法の知識もフルーフに教えられてはいたが専門分野ではない為、擦り傷や切り傷程度は治す事は可能でもダメージを負った体力を治したり、ちぎれた腕を治すような真似は出来なかった。
腕を飛ばされて高熱を出しているのだろう。エリスの額から汗が流れ落ち苦しそうな表情を浮かべている。そんな状態ではあるが、エリスはある事を伝えようと必死に声を出し絞る。
「彼の事情をしっかりと聞いてあげてください。そ、それが貴方のすべきことでしょう?」
エリスはケガを負いながらもレアが間違った行動をとらないように、痛みと熱に必死に耐えながら医務室を抜け出してきたのだった。
「エリスちゃん……。そ、そうね……。ええ、そうねぇ……」
レアはエリスの王としての器の大きさを感じながら、しっかりとエリスの言葉を聞いて反省するのだった。
エリスはそこで意識を失い床に沈むように倒れこんだ。
「エリスちゃん……! お、お前達! 早くエリスちゃんを医務室へ運びなさい!」
衛兵達はレアの言葉に頷いて直ぐにエリスを担いで医務室へと向かっていった。
そして食堂を出ていく衛兵達を見送った後、レアは呆然と事の成り行きを見守っていたラクスに向き合う。
「悪かったわねぇ。貴方の話をしっかりと聞かせてくれるかしらぁ?」
レアはラクスの前まで歩いていくと、何と頭を下げながらそう告げるのだった。
「あ、ああ。だが出来れば場所を変えたい」
ラクスは周りを見渡しながらそう言うと、レアは真摯に言葉を受け止めて頷くのだった。
……
……
……
この様子を見ていた男は、面白くなさそうに水晶玉を睨みつける。
「ちっ! あのエリスとかいう女め……、余計な真似を!」
これ以上はもう効力を見込めないと踏んだ男は、数体の魔族を操り誘導をしていた魔法を切る。
この魔法の効力は『対象者の思考を促進させて増幅させる』というもので、あまり使う者は少なく珍しい魔法であった。
――超越魔法、『
(※1 この魔法の『効果』は対象者の思考を詠唱者が促進させて操り増幅させるというもので、戦闘や実戦ではあまり使われることはないが、教唆させて場を混乱させたりする目的で使われる事が多い。この魔法自体が超越魔法であり、人間が扱う最上位魔法よりも位階が上の魔法である)
(※2 この魔法を強引に進化させた魔法が複数あり、それらは例に漏れず全てが神域魔法であり、例の一つに大魔王『ヌー』がソフィに使った『
『
……
……
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