第266話 一つの決着と一つの開戦

 レインドリヒはユファが意識を失った後、大事そうにその身体を抱えて地上へ降りた。そして配下達に辺りの警備を任せてレインドリヒは、ユファが起きるを待つのであった。


 …………


 意識消失から僅か数分後。ユファが目を覚ますと、隣でずっとユファの寝顔を見ていたレインドリヒが厭味な笑顔を浮かべて声を掛けて来る。


「おはよう。よく眠っていたじゃないか」


 ユファは一瞬で意識が覚醒した。


 そしてヘラヘラ笑っているレインドリヒの顔を思いっきり殴り飛ばした。


 レインドリヒは先程までの死闘とは違い、あっさりと顔面を殴り飛ばされて、そのまま吹き飛んでいった。


「いきなり酷いじゃないか。俺の美形の顔が歪んだら、どう責任を取ってくれるんだい?」


 しかし鼻を押さえながら何事もなかったように振る舞いながら、レインドリヒは戻ってくる。


「あんたが悪いでしょうよ! 私の寝込みを襲っていたら許さないわよ!」


 ユファがそう言って胸元に手を置くと、レインドリヒは笑いながら首を横に振る。


ユファ? 馬鹿な事を言わないでくれ」


 その言葉にユファはまたカチンとくるが、今度は殴り飛ばさずにレインドリヒの顔を見る。


「それにしても私が負けたのは認めるわ。流石ね、レインドリヒ」


 先程までの戦いを思い出したのか、ユファは突然負けを認めた。


「昔のように猪突猛進して威力ある魔法を優先的に使う癖は治ってなかったみたいだな? 俺との戦いを通して少しは成長していると思ったが」


 今まで何度もレインドリヒと戦ってきたユファは、全く成長していないわけではない。


 その証拠にリラリオの世界で『代替身体だいたいしんたい』状態のユファの戦い方は、ほとんどがレインドリヒの戦い方を参考にしていたといっても過言ではない。


 しかしそれを本人に言うのを憚られたユファは、舌打ちをして誤魔化すのだった。


「まぁ君にこの戦い方が通じるのも、今回で最後かもしれないがね」


「……何ですって?」


 ベラベラと自慢され続けると思っていたユファだが、突然彼がそんな事を言うモノだから驚いて声をあげてしまった。


「今まで俺と君はほぼ同じ魔力同じ戦力値だったが、君は俺が使えない『二色のオーラ』を使いこなしつつある。二色の併用が使えない俺にはもう、今後君にはもう勝てずにどんどんと差が開く一方で、水をあけられてしまうだろう」


 レインドリヒの言う事は、大袈裟でも間違いではない。


 それだけオーラの併用や混合はセンスが必要であり、一流と言っていい程の魔術師であるレインドリヒでさえも『二色の併用』を扱う事は出来なかった。


 今後まだ混合の域のユファが練度を高めて、併用オーラを使いこなせるようになれば、いくら戦略を練った戦い方をしたとしても今回のようにはならず、勝ち目は薄くなるだろう。


 それ程の差がユファと自分にはあると、レインドリヒは確信したのである。


「……」


 レインドリヒの言葉に、口を挟まずにユファは押し黙る。


「まぁでも今回は俺の勝ちだ。しっかりと約束は守ってもらうぞユファ」


 ふぅっと溜息を吐きながらも、ユファは頷きを見せたのだった。


 ……

 ……

 ……


「今日はよく雷を見る日だな」


 ラルグの塔の最上階から空を眺めるソフィ。彼以外誰もいない部屋で独り言のつもりだった言葉だが、そこに言葉が返ってきた。


みやびがあって心地いい音。まるで私の為の賛歌のようねぇ?」


 ソフィは驚きもせずにその言葉を告げた張本人を見て口を開く。


「魔王レア……。今いちど聞いておこうか、何をしにここへ来たのだ?」


 こつこつと靴音をならしながらラはソフィの元へ歩いてくる。そしてソフィの前に立ち射貫くような視線を向けながら静かに告げた。


「貴方を殺しに来たのよ、


 そう言ってレアが指を鳴らすと、ラルグを覆う程の魔族達が一斉にラルグ上空へ出現した。


「殺してあげるわぁ、貴方の全てを奪ってねぇ?」


 魔王レアはその言葉を最後に、力を増幅させた。


 ――アレルバレルの世界の

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