第262話 始祖龍化のキーリ

「これは驚いた。アレルバレル以外の世界で、これ程の力を持つ者を見る事になるとはね」


 大魔王ヴァルテンは言葉通りに驚いていた。


 彼がこれまでに渡った世界は『アレルバレル』『レパート』『ダール』、そしてそれだけではなく『概念跳躍アルム・ノーティア』を得てからは、それだけに留まらずに数多くの世界をその目で見てきた。


 しかし魔族でもない種族でこれ程の戦力値を持つ者をヴァルテンは見た事がなかった。


 先程までの余裕たっぷりの態度から、少しだけキーリに対して警戒心を強めるヴァルテンであった。


「今更態度を変えたところで、俺達龍族を貶した罪は消えねぇぞ」


 始祖龍化を果たしたキーリは二色のオーラを纏っている。バチバチと音を立てながら『青』と『紅』のオーラは混ざり合っていく。


 『大魔王』であっても『二色のオーラ』を使いこなす者は多くはない。


 しかしそれを魔族でもない龍族が纏っているのを見て、ヴァルテンは純粋な気持ちを持って感心するのだった。


「ククッ! 別に態度を変えるつもりはないがね? 君達龍族がそれだけの力を持っている事に驚いただけさ。我ら『大魔王』は多少の事には驚かない。だから誇っていいよ龍族」


 先程までと同じ態度のままでキーリを見ながら笑うヴァルテンは、まだまだ余裕がありそうだった。


「その余裕面が気に入らねぇな。直ぐに消し飛ばしてやる」


 人型の姿のままキーリはその場から空を翔け上がっていき、ヴァルテンの頭上高くに跳ね上がった。


 そして両手をヴァルテンに翳しながら、魔力を圧縮し始めるように両手に込め始める。


「粉々に消し飛べ!」


 ――『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』。


 ヴァルテンに向けられた始祖龍キーリの『龍滅ドラゴン・ヴァニッシュ』はヴァルテンだけに留まらずに、その射程範囲内全ての魔族に放たれた。


「これは、速いな」


 ヴァルテンは真顔になりながらこちらに向けて放たれた閃光にそう感想を述べる。どうやら予想以上にこの龍族は力を持っているようであった。


 ヴァルテンはそう結論付けると、近くに居た配下の魔族達に視線を送る。それだけで数体の魔族達は頷き、同時に魔法を発動させる。


 ――神域『時』魔法『次元防壁ディメンション・アンミナ』。


 眩い光が辺りを照らし始めたかと思うと、恐ろしい速度で迫る『龍滅ドラゴンヴァニッシュ』は魔族達の放った『次元防壁ディメションアンミナ』によって、光が屈折したように吸い込まれていく。


「何ぃっ……! またその魔法か……!」


 前回のユファやシスと戦った時にも防がれた、その『魔法』を見てキーリは顔を歪ませる。


 しかしどうやら数体の魔族は『次元防壁ディメンション・アンミナ』を使った事で魔力切れを起こしたらしく、そのまま意識を失い空から落ちていった。


 キーリは落ちていく敵の魔族達を見ていたが、ヴァルテンの姿がいない事に気づき、慌てて辺りを見回して探す。


「戦場で戦っている相手から視線を外すのは良くないねぇ。基本だよ? 基本」


 キーリの背後からそんな言葉が聞こえてきた。


「……っく!」


 慌ててキーリが振り返るとそこには笑みを浮かべているヴァルテンが居た。そして既にヴァルテンは自身の『魔力』を待機させて魔法を放つ攻撃態勢に入っていた。


 ――神域魔法『天空の雷フードル・シエル』。


 先程の天空の雷によって空には多くの雨雲が残っていた為に、そのまま発動と同時に一筋の光がキーリに直撃する。


「ぐわああっっ!」


 ――そこで終わらずにヴァルテンは一気に決めに行く。


 左手と右手で別々の魔法を無詠唱で次から次に発動していく。


終焉の炎エンドオブフレイム』『万物の爆発ビッグバン』といった超越魔法が、まさに連続で無詠唱で放たれ続けるのだった。


「く……、くそう……っ!」


 これだけの大魔王ヴァルテンの魔法をその身に受けてまだ意識があるのは、流石キーリといったところだったが、その全ての魔法が彼女の身体に直撃しており、流石の始祖龍化状態のキーリであっても厳しくみるみるうちにダメージが溜まっていく。


「し、始祖さまぁっ!」


 ヴァルテンの攻撃を執拗に受け続けているキーリを見てディラルクを抱えたまま、慌ててレキオンが戦場へ戻ってくる。


「く、来るなレキオン! 逃げろぉっ!」


 その間も次から次に魔法を放ち続けているヴァルテンは、近寄ってくる龍を見て嗤う。


「クックック、主想いのいい配下じゃないかね?」


 キーリに攻撃を続けていたヴァルテンは、一度魔力の溜めに入ったかと思うと両手を天に翳し始める。


 キーリはその攻撃の対象が自分ではない事に気づき、慌ててレキオンの盾になろうと身体に力を込めるが、負ったダメージが思う以上に大きく動けない。


「や、やめろーーー!」


 キーリが叫び声をあげるが、無情にも天から雷光がレキオンに向けて降り注ぐ。


 ――神域魔法『天空の雷フードル・シエル』。


「レキオン!!」


 しかし、その時――。


 声がキーリとレキオンの耳に届いたかと思うと、龍の形態のミルフェンが同じ龍族のレキオンを激しく体当たりをしてレキオンの身代わりとなる。


「うぐぐっ! ぐぁっ……――!」


 大魔王ヴァルテンの『天空の雷フードル・シエル』はミルフェンに直撃する。


 ――始祖龍化を果たしているキーリでさえ動けなくなる程の大ダメージである。


「「ミルフェン!!」」


 キーリとレキオンが同時に声を放つが、ヴァルテンと戦力値に大きく開きがあるミルフェンでは、ヴァルテンの攻撃に耐えられるはずもなく、ミルフェンは意識を失い龍の形態が解除されてそのまま空から落ちていくのだった。

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