第206話 ラルフの状況

 エルザとの修行を終えた後にソフィは、シスとユファが居る部屋に向かう。ユファに任せているラルフの状況を聞く為であった。


 すでにラルフがユファと修行をしている事はベアから聞いてはいたが、どこまで強くなっているかまでは把握していない。


 ラルフはもう戦力値のコントロール技術を身に着けているらしく『最上位魔族』の領域には達している様子ではあった。


 ソフィはシスの部屋をノックする。


「はい」


 既に修復を終えた『シティアス』にある建物の一室から、鍵を開けてユファが出てきた。


 ……

 ……

 ……


 建物の修復を終わらせて帰ってきた夜、部屋をノックする音が聞こえる。


 ユファは常に魔力感知出来る状態なので、直ぐにソフィだと気づいた。


 シスに目配せして部屋に入れていいか確認する。彼女がコクリとシスが頷いたのでユファがドアを開けに行く。


「はい」


 ユファが扉を出るとやはりソフィが扉の前で立っていた。


「ソフィ様? こんな時間に珍しいですね。どうなさいましたか?」


「うむ、急にすまぬな。ラルフの調子はどうだ?」


 ユファはそう口にするソフィの態度を見て、笑みを浮かべながら答える。どうやら配下であるラルフの成長ぶりが気になって来たのだろうと理解したのである。


「あの子はソフィ様が見込まれた通り、物覚えが早くてとても優秀ですよ」


 どうやらかなり鍛えているようだ。目の前のユファはお世辞でも何でもなく、自信あり気にラルフの成長を告げる。


「そうか、お主が鍛えている以上強くなるのは間違いはないだろう。そこで今日は少し相談があってきたのだが……」


 どうやらただラルフの成長ぶりを聞きに来たわけではないのだと察したユファは、詳しく話を聞く為に部屋にソフィをあげるのだった。


 ……

 ……

 ……


 中にはシスもいてソフィが入ってくると、その場で立ち上がって会釈をした。


「シスよ、突然すまぬな。用件を済ませたらすぐに帰るからな? 少しだけユファを借りるぞ」


「いえいえ、お気になさらず。良かったらこの部屋に泊まっていって下さいよ」


 シスがそう言うと、ユファもそれが良いとばかりに大きく頷いた。


「そうですよ、ソフィ様と久しぶりに呑みたいです」


 二人はそう言うがソフィは首を横に振った。


「気持ちはありがたいが、それはまた機会にしよう」


「あら残念。私達、ソフィ様に振られちゃったみたい」


 ユファはそう言ってシスと二人で笑い合う。


 そして笑みを浮かべながらもユファは、ソフィの為の椅子を魔法で作り出す。


「どうぞ、ソフィ様」


 まるでファンタジーの世界に登場する魔王が座るような、派手な装飾の椅子が唐突に作り出されるのだった。


「う、うむ……。すまぬな」


 シスもあまりのその椅子の代物に苦笑いを浮かべるが、作り出したユファ当人は大満足でニコニコしている。


 ユファにしてみれば嫌がらせではなく、をソフィに座って欲しくてこの椅子を造り出したのだろう。ソフィがその椅子に座ると、ユファは口を開いた。


「それで、あの子がどうかしましたか?」


 ユファが真剣な表情になってそう口にした後、シスは何かを察して用事があるといって隣の部屋へ行った。


「我は今レルバノンの配下を鍛えておるのだが、そろそろ我以外の者と戦いの経験をさせようと思ってな」


 どうやら合点がいったらしくユファは頷いた。


「なるほど。それでラルフと戦わせようという事ですね?」


「うむ、その通りだ。話が早くて助かる。それでラルフは実際に今はなのだ?」


 ソフィはベアからある程度の事は聞いているが、ユファの元で修業をするようになってからの詳細は分からなかったので、実際にこの場で聞いてみる事にするのだった。


「うーん、そうですね」


 ユファは腕を組み右手の人差し指をアゴにあてながら首を傾げて考え込む。


「もう少しで『』の領域といった所でしょうか?」


「何だと?」


 ソフィはユファが作り出した豪華な装飾の椅子を座り直して聞き直す。


「まだお主が修行をつけ始めてから、数日なのだろう?」


 このようにソフィが驚くのも無理はない。


 『青』の領域とは『魔王』の領域という事を表す言葉であり『淡く青い』オーラを出せる者の事を指して『青』の領域と略す。


 つまりユファはラルフがもう少しで『魔王』の領域だと告げたのだった。


 ソフィはユファが教えているのであるならば『最上位魔族』には達している事だろうとは考えていた。しかしまさか、だと聞かされて驚きを隠し切れない。


「お主、一体どういう鍛え方をしたのだ?」


 スパルタだとはリーネ達に言われてはいるが、結果は残しているソフィである。


 しかしまさかそんなソフィよりも更に短期間で、ラルフを恐るべき程の成長を遂げさせた目の前の自分の配下ユファに、どうやったのかと尋ねるソフィであった。


 そしてユファは自らの主を驚かせたことで、少しだけ嬉しそうに語る。


「ふふっ……。ですよ」


 可愛らしく首を傾げながら、ソフィに向けてウィンクをして見せた。


 つまり今のラルフと戦わせるという事は、エルザの主であるレルバノンと戦わせるようなものであった。


 流石に『最上位魔族下位』にまで達したエルザといえども『青』の領域に近しいラルフと戦わせるのは酷であった。


「うーむ……。前衛同士で戦力値も近ければ、よい戦いになると思ったのだが」


「レルバノンのところの子は、今どれくらいなのですか?」


「今は『最上位魔族』の下位階級クラスといったところだな。まぁエルザも『紅い目スカーレット・アイ』が使える者であるから『紅』の領域には直ぐに達する事だろうがな」


(『紅』の領域とは、『淡く紅い』オーラを出せる者の略で、既にエルザは『上位魔族』の時には覚えていたが、ようやくその領域に立って『紅い目スカーレット・アイ』や、自身の武器にオーラを宿すことのできる者である)


「それでしたらソフィ様。やはり二人を戦わせましょう」


「ふむ?」


魔族エルザ人間ラルフに負ける事で、心が折れてしまわれないかをソフィ様は心配されているのでしょう?」


 ソフィは驚いた様子でユファを見る。


「もし本当にでしたら早めにレルバノンのところの子に、だと思われます」


 ユファは真面目な表情でとソフィに伝えた。


 流石にユファは隣に居るシスを含めて、自分の世界を含めて相当の数の者達を鍛え上げて来ただけあって、育成に関しては相当の自信があるようであった。


 少しの間考えていたが、ソフィはユファの言葉に頷いた。


「クックック。本当にお主は我の配下であった頃とは、別人のように変わったな」


 感心するようにソフィは、そういってユファを褒める。


「あら? 私はソフィ様を慕う気持ちは全く変わっておりませんよ?」


 そう言うと二人は笑い合うのだった。

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